揺れ動く魔人大陸
皇帝からの勅令に背くと問答無用で殺される。その事実を目にしてしまった者は従順に進軍のための準備を進めていた。普段から大人数のパーティーを組んで行動する者には荷物運びなどの担当者がいるが、1人又は小規模パーティーの場合、その役割分担が難しい。
軍と言っておきながらも近衛の団長は小中隊を組むこともせず、ろくに進行にあたっての作戦を伝えることがなかった。そのせいで冒険者達は混乱する。
集結まではあと半日だけだ。死にに行く。その事を伝えに最後に家族に会いに行く人もいた。こんなに士気が下がった状態でも進行するのだろうか、いや傲慢な彼ならするだろう。
冒険者達が混乱するのをよそに、無限の収納空間を持ち圧倒的な力を持つ実達は稼いだ金で他の冒険者を支援して回っていた。
「ふぅー。あらかた配り終わったな。」
「うん。多分もうお金に困ってる人はいなさそうだね。というかそのスキル凄すぎない?」
「あぁ。これはチートだよな。これがなかったら配ってられないよ」
冒険者およそ1000名に5金貨づつ配っても傑の全財産の1%にも満たないほどだ。普通に生活している人は金貨を見ることもなく生涯を終える人が沢山いる。そんな大金を5枚も簡単に配る傑は何者なのかと、冒険者達の間で話題となっていた。
そして迎える集結時間。また強制転移をされ、帝国中の強者が集結した。
集まった人数総勢約1万名、一見すると多いようにも思えるが、相手は魔王軍だ、魔人大陸の戦える人口に比べれば、巨大な国とはいえ一国の兵士だけでは到底足りないだろう。
「これよりっ魔王軍との全面戦争を開始するっ!100人程度の小隊を組み、協力して魔人供を倒せ。いいな!」
「「うぉぉぉぉっ!!」
今度は何故か冒険者の殆どが雄叫びを上げた。先程までの下りきった士気は何処へやら。士気を向上させるスキルでも持っているのだろうか。
進軍が開始された。現在、帝国領を出て海を渡っているところだ。船ではなく歩いて。
帝宮魔術師がいとも簡単に海を割ったのだ。さらに、全員に加速魔法を何重にもかけ行軍速度をより上昇させた。少しづつだが魔人大陸と思しき陸が見えてきた。
「なぁあれみろよ。陸が動いていやしねぇか?」
「本当だ。揺れてる」
陸が揺れている。それがどういう事なのかが判明するまで時間はかからなかった。その正体は大量の魔王軍だったのだ。しかし、攻撃してくる気配はない。行軍速度をさらに上げ進む。陸に上がると帝国軍の倍以上の魔人が待ち構えていた。
「やぁ帝国のみんな。久しぶりだな」
「お、お前は」
その男は前近衛騎士団団長グラハムだった。何故彼が魔王軍についているのだろうか。それに、前あったときに比べると明らかに強くなっている。見覚えのある黒い炎を纏って。
「魔人供......やるぞ」
刹那、魔王軍の後衛が多重詠唱を行い始め、邪魔させないと言わんばかりに前衛部隊が走り出した。
「魔王軍をつぶせぇぇぇ!」
帝国軍も攻撃を開始する。
その裏で実は石像を作り、傑はスキルを組み合わせ魔王軍に紛れ込み、敵のスキルをどんどん手に入れていった。ユリウスはその強さを表して魔人をどんどん再起不能にしていった。竜人5人組は変身せず、それぞれの属性のスキルで暴れていた。
敵及び味方で死者が出た場合は死霊として復活させ、味方につけた。さらに完成した大量のゴーレムで敵を蹴散らしていった。
乱戦が落ち着いていくと、立っているのは全員が相当な力を持つ者だった。
「ぬははは!お前らもやるな。俺の軍を潰すなんてなぁ。富豪っいるんだろう出てこいっ!」
富豪とは恐らく傑のことだろう。名乗る気がなかったため、相手は名前を知らない。あのとき傑は喋っただけで、実際にやったのは実だったが、子分とでも思っているのだろうか。傑が出ていくと、恨みを吐き出した。
団長の座を降りることになったこと、2度も恥をかかせたこと、そして皇帝に見放されたこと全てお前のせいだ、と。
「そんなの全部あんたの傲慢さが招いたことだろっ!俺のせいにするな!」
「うるさいっ!私から全てを奪いやがって!
この魔王様から頂いたこの力でお前を殺す」
そしてグラハムは自分と傑を囲むように炎の半球を作り出した。周りの地面が溶けていることから相当高温なことが分かる。矢を撃つ冒険者がいたがその矢は壁に到達する前に蒸発してしまった。中へ入ることは不可能だ。
「おいおいそんな低級の装備で私に勝つというのか?富豪のくせに初心者装備か?」
「俺は元々冒険初心者だ。だけどな俺には強力なスキルがある。《異常》」
傑は自分の持っている銀の小刀にスキルをかけ異常にした。今回はうまくいったようで、強く光り輝いた。鑑定すると、悪に対する
絶対的優位性という曖昧な能力が新たに追加されていた。
「《強欲の罪》!」
さらにスキルを発動させ、グラハムのスキルを手に入れた。
両者の動き出しは真逆だった。傑が炎魔法で加速し走り出したのに対し、グラハムはスキルを使い炎で浮き上がった。傑は空を歩くことができる為攻撃が届かないという事態にはならなかったが、それでも空を歩いていられる時間はそう長くない為グラハムの方が有利だ。両者炎を使った攻撃を繰り出ししのぎを削っていた。
「やはりたかが富豪、戦闘能力は大して高くないようだな。所詮は冒険者というのも金持ちの道楽だったのだな」
「でもさーそんな雑魚と互角で恥ずかしくないの?」
「うるさーい!私がまだ本気を出してないだけで調子に乗るなぁ〜!」
「命が掛かってんだ、最初から本気でやれよな。あんたは弱いんだから」
弱い、その言葉はグラハムの怒りを高めるのには丁度いい。それだけで彼の判断力を下げることができてしまう。さらに会話で気を逸らしつつ傑はグラハムを異常に弱くしていたのだが、怒りという感情に身を任せたグラハムはそんなことに気づくことはなかった。




