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遠野 三雲  作者: 雨世界
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 鞠はピアノの曲とは少し違うけど、モーツアルトの『フィガロの結婚』のオペラが大好きだったことを思い出した。

 だから鞠はそのことを隣を歩いている透に向かって話そうとした。(モーツアルトが好きな透とはその話で盛り上がれるような気がしたのだ)


 ……でも、その鞠の言葉はちゃんとした言葉にはならなかった。

 なぜなら土手の反対側を歩いている小舟南と、……それから、『小学生のころから、鞠がずっと片思いをしてた男の子』、大橋綾くんの姿を、鞠はこのとき、目撃したからだった。

 二人は鞠と透のことには、まだ気がついていないようだった。


 南と綾はとても楽しそうに、お互いの手をつないで、土手の上を歩いていた。そんな二人の姿を見て、鞠の表情は氷のように一瞬で固まった。

 ……鞠は、南と綾が、二人だけで一緒にいるところを、……今日、始めて自分自身の目で目撃した。

 鞠はずっと、なるべく二人の、二人だけの幸せな時間を見ないように、そう気をつけながら、南と綾が付き合ってから、中学校生活を送っていた。

 ……初めてる二人は、すごく、すごく幸せそうに見えた。(それに、二人は鞠が思っていた以上にお似合いだった)

 すると、自然と、突然、鞠の目から、透明な涙が頬を伝って流れ落ちた。

 鞠はびっくりした。

 そして慌てて、自分の顔を透から隠すようにして、伏せた。

 それから、鞠の胸の奥がすごく、ずきずきとして、……痛くなった。

「……先輩?」

 鞠の隣で、透が言った。

 なんでもない。

 そう言いたかった。

 でも、鞠は透になにも言葉を返せなかった。

 言葉を話すことができなかったのだ。

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