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「誰からの電話?」雪のあとで、神社から帰ってきたお父さんが言う。
「山の上の星の王子さまから電話だよ」と台所から顔だけを出して姉の雪が言った。
するとお父さんは「ああ、なるほどね」と言って、嬉しそうな顔を雨に見せてから、すれ違い様に「頑張ってね」とお父さんは雨に小声でそう言ってから、雪のいる台所の中に入っていった。
「……遠野さん? どうかしたの?」
ずっと黙っている雨に受話器の向こう側から水瀬くんが言う。
「ううん。なんでもない」
雨は顔を赤くしながら水瀬くんに返事をする。
「えっと、それで、今日はどうかしたの?」
雨は言う。
「うん。いろいろと話したいことがあるんだ」
水瀬くんは言う。
「話たいこと?」
「うん。話たいこと」
話たいこと。
そう。確かに話たいことはたくさん、すごくたくさんあった。
告白のこと。引越しのこと。東京での水瀬くんの生活や暮らしのこと。水瀬くんの昔の友達のこと。それから、……水瀬くん自身のこと。
私、水瀬くんのこと、考えてみたら、なんにも知らないんだ。
そんなことを雨は思った。
「いろんなことを遠野さんと話したいんだ。僕の話を聞いてほしい。そして、もし可能なら、遠野さんのことを、僕に教えてほしい。遠野さんの話が聞いてみたいんだ」と優しい声で水瀬くんは言った。
「え? 私のこと?」
驚いた声で雨は言った。




