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アイノリ

作者: 悠羅/秋冬

どこかで見たようなありふれたお話だと思います。

初めてホラーを描きましたが、難しいですね。

 これはな。俺が有名な心霊スポットに行ったときの話だ。


 そこは心霊スポットなだけあって、俺みたいに興味本位で行く仲間も多かった。

 車通りもそこまで少なくないのに、何故かそこでは幽霊の目撃情報が異常に多くてな。


 車に乗っていれば安全だけど、停まってしまうと幽霊にとり殺される……そんな噂もあったみたいだな。

 俺は「そんなことあるわけない」っていう否定側の立場だったんだが、それを盲信的なまでに信じ込んでいる人間も多かったらしい。


 俺は住んでるところが比較的近くて、そこまではコンビニに行く感覚でスッと行けた。

 もちろん帰りも、帰ろうと思えば簡単に帰れたんだが、せっかくだから、どれほど噂が信じられているのか確かめる実験を、タクシーでしてみようと、しばらく心霊スポットで待ってたんだ。


 一台、二台、三台……噂はかなり信じられているようで、タクシーは通るし、しかも無人なのにも関わらず、中々停まってはくれなかった。


 そして丁度四台目のときだ。


「ヘイ、タクシー!」


 あまりにも止まらないモンだから、俺は半ばやけくそ気味に、大声で手を挙げて、タクシーに呼び掛けたんだ。

 すると、俺の祈りが通じたのか、タクシーは減速して停まってくれた。

 それで、俺は急いでタクシーに駆け寄ったんだが、ドライバーがドアを開けてくれない。

 変だなと思ってたら、前の窓が開いて、タクシードライバーが俺に声をかけてきたんだ。


「す、すいません……相乗りでもよろしいですか……? お客さん……」


 タクシードライバーの顔は血の気がなく、顔が青白かった。

 俺は、多分ここの噂を知っているのに、わざわざ停まってくれたんだろうと思って、ドライバーに感謝した。


「はい、大丈夫ですよ」


 そういえば、相乗りって誰が乗っているんだと疑問に思って、チラリと後部座席を見た瞬間に、俺は背筋がゾクリとした。

 そこには白い服を着た女性が座ってたんだが、俺は一目で気付いた――普通の人間じゃないってな。


 なんていうんだろう……。その身に纏う雰囲気っていうのかな。それが恐ろしく人間離れしてたんだ。

 俺はそいつが恐ろしくて、直ぐに目を逸らしちまった。

 アレは見てるだけで、俺を構成している何かが失われちまう……そんな危うさがあったんだよ。


「お客さん……乗らないんですか……?」


 そんなときに蚊の鳴くような小さな声で、ドライバーが俺に尋ねてきたんだ。

 乗りたくなんてなかったけど、俺には乗る以外の選択肢がなかったんだ。

 だって乗らなかったら乗らなかったで、後ろの女に何をされるか分かったモノじゃないからな。


「はい……前で良いですか?」

 俺にはこういうだけで精一杯だったんだよ。


「はいどうぞ……。ドアは……自分で開けてもらえますか?」


 ドアが開くと、ドライバーが顔を歪めたような気がした。

 だけど、俺は色々と精神的に追い詰められてたから、そんなことは気にせず、ろくに返事もせずにドアを開けて、車内へ身を投じた。

 タクシーの中は、うすら寒い空気が充満していて、余計に俺の恐怖が増すようだったよ。

 後ろの女にとってはどうでもいいことかもしれないけどな。


 それから俺を乗せたタクシーは走り出した。

 行き先を尋ねられたけど、自身の住んでいるところを、直接指定することはできなかった。

 だって、あの女に居場所を知られたら、絶対に俺は取り殺される。

 そういう確信があったからな。

 今俺がこうして話せているのは、絶対にその機転のおかげだって今でも信じてるよ。


「先に後ろの人を送って良いですか……?」


 ドライバーにそう尋ねられたけどさ……『嫌だ』なんて言えると思うか?

 俺は二つ返事でOKしたさ。

 女さえ降りれば、俺も直通で帰ることができそうだったしな。


「最近……暑いですね?」


 俺が後ろばかり気にしていると、不意に隣のドライバーが俺に世間話を投げかけてきたんだ。

 いや、この状況で暑さを感じられると思うかって話だよ。


「あ、そうですかね……俺は特にそう感じませんけど」


 滅茶苦茶ツッコミを入れてやりたかったけど、とりあえず我慢して、適当に返答した。


「そ、そんなわけないでしょう……? 今年は例年より暑いってテレビで言ってますよ……」

「あはは、そうでしたっけ……?」


 そんなことは知らん!

 俺はそう叫びたい気持ちを抑えながら、再度適当に返答したんだ。

 でも、こうなると、このドライバーも少し怪しい。

 なんで後ろの女には一切喋りかけないんだ? って思うだろ?

 だから多分、ドライバーは後ろの女の正体に気づいていたんだと思う。


 こんな状況で、少しだけ顔を蒼白くするぐらいで、普通に世間話できるなんて、正気の沙汰とは思えないよな。

 最悪、こいつも後ろの女と同じような存在かもしれないという可能性が、頭を過った。

 俺は心底恐ろしかった。もしかしたらこのタクシー自体が、俺の住む世界とは別の(ことわり)の中にあるんじゃないかと思うほどだった。

 俺の危機感が最大級の警鐘を鳴らしていたよ。


「顔色が優れないようですが……大丈夫ですか?」


 俺があまりにもビビっていたからか、ドライバーが心配そうに声をかけてきた。

 お互い様だって言ってやりたかったが、やめておいたよ。

 ドライバーも怖いんだなって分かって、少し落ち着くことができたからな。


「はは、少し寒いのかもしれないですね」

 俺は本心を誤魔化すために、そう言った。


 別に本当に寒かった訳じゃないが、背筋が凍る体験のせいで、そう感じていたから嘘ではないよな。


「そうですか……それなら温度上げましょうか?」

 そう言って、ドライバーが温度を調節しようとしたときだった。


「駄目よ……!」


 今まで沈黙を続けていた後ろの女が、静かではあるが力強い声でドライバーを制止したんだ。

 ドライバーは少し迷ったようだったが、「私の言うことが聞けないの……!?」という女の声に押されて、断念したようだった。


 ヤバい……ヤバすぎる……!

 この女には一切の隙もない。

 タクシードライバーも、やはり女の正体が分かっているみたいだ。

 でなきゃ、俺の言い分も聞かずに、後ろの女の言いなりになるなんてことありはしないだろ?


「はは……俺も今のままで大丈夫ですよ」


 そんなことを言いながらも、僕はこの状況をどうにか脱しようと頭を巡らせていた。

 だが、そんな名案があるわけもなく、相乗りタクシーは順調に女の目的地へと向かっていたんだ。


「ねえ貴方……この先に何があるか知ってる?」


 しばらくして、変わるまでに二分くらいかかる信号に捕まったとき、氷のように冷たく、刃のように鋭い声で、後ろの女が俺に話しかけてきたんだ。

 俺は今まででこんなに肝を冷やしたことはないって断言できるね。


「ど、どうでしたっけ……? この辺りに住んでないので分からないです……」


 俺はとっさに嘘を吐いた。

 だけど、本当のことを言わなかったとしても、女がいなくなる訳じゃない。

 彼女は抑揚のない声で、更に僕の背筋を凍らせていったよ。


「知らないなら教えてあげる……有名なお寺があるの……。かなり大きなお寺でね……裏には巨大な墓地があるのよ……」

「そ、そうなんですか……墓地って、一人ぼっちの俺には興味ないな……なんて……」


 茶化してみたが女の表情は崩れることはなかった。


「あのね……私――」


 そのとき、周りの景色が揺れ動いた。まるで、女が世界を操っているような錯覚を覚えたんだ。

 女はそこで一度言葉を区切り、唇を三日月のように薄く歪めた。

 そして、女はゆっくりと這いずるように言葉を続けた。


「――そこに住んでるの」って……!


 その言葉を聞いたとき、俺はもう駄目だと思ったね。

 寺、墓地、そこに住んでる、そして、自分とは異なる存在――もう答えは一つしかない。


「う、うああぁぁぁ!」


 俺は無様に悲鳴を上げて、タクシーから飛び出した。

 お金を払ってないとか、目的地から大分離れてたとか、そんなことは関係なかった。

 ただただ、助かりたいっていう気持ちがそこにはあったんだ。


 あのとき最後に聞いたあの女の言葉が、俺には未だに忘れられないよ。











「成仏させてあげようと思ったのに……」ってな。

 余計な御世話だよな。俺は望んで霊体なんだからさ。

 少しタクシーの運転手をおどかしてから、こっちに帰ってこようと思ってただけだったのに……でも、俺はもう二度とイタズラはしないと決めたぞ。


 お前も気をつけろよ。

 心霊スポットにいるタクシーは、覆面退魔師が乗ってるかもしれないからな。



ドライバー「良かったんですか、祓わなくて?」

女「ええ、死ぬほどの恐怖を味わったのだから、おそらくもう何かをしようとはしないでしょう。あと、あのとき温度調節してたら、多分事故ってたわよ。気をつけなさい。幽霊の指示はなるべく受けない方が良いわよ」

ドライバー「怖いのを我慢して協力したのに、ダメ出しばかり……」

女「料金を払ってるんだから文句言わないで」



オチを見てからもう一度読むと、また違った気付きがあると思いますよ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] コメディタッチで面白かった。 ひとりぼっちとか、死ぬほど怖がらせたからとか、ニヤリとするところが随所に。 お姉さんお寺関係の方だったんすね。 ありがちなホラーほど身構えながら読むので、最後…
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