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童話

白と黒

作者: 山目 広介

 シロとクロは大きなワンコ、飼い犬だ。

 シロもクロも名前の由来は体毛の色から来ている。シロは白っぽい、クロは黒っぽい色合いだ。

 だが実際は、対比でそう見えていただけでシロは薄いクリーム色、クロは背中は黒で腹に掛けて茶色に染まっている。

 そのことに気付いたのは散歩のときに会った、白いマルチーズだ。足は泥で汚れていたが、体は真っ白だった。シロに近づいたとき、シロの体が白から色が変わって見えるようになり驚愕することになる。

 その後、クロも良く観察すると顎から胸にかけて茶色になっていることに気付いて再び驚いたのだった。

 こうしてこの時、ボクはシロとクロが白と黒ではないと理解したのだった。


 ◆


 ある日の事、ボクはクロと喧嘩した。


 その頃、クロはよく食べるようになっていた。どのくらい食べるかというとお(なか)が座っていても床にくっ付いているくらいだ。その姿を例に犬には乳首がたくさん付いてると親から教えられた。

 喧嘩の原因はボクの朝食の楽しみのデザート――プリン――をぱくりと一口(ひとくち)でクロが食べてしまったからだ。

 ボクは叫んだ。


「ああーー! クロのバカー!! 楽しみに取っておいたのにぃ。クロなんてどっか行っちゃえ!!」


 そして家から出て、園児たちが乗るバスへと駆け込むのだった。


 ◆


 今朝の事は忘れ、家に帰り着くとシロが出迎えてくれた。シロを撫でながら周りを見るが誰もいない。

 家の中を探すとおばーちゃんがママは出掛けたと教えてくれる。

 しかしクロが見つからなかった。

 居間にも台所にも風呂場や寝室にもどこにもいなかった。

 いつもシロと一緒に迎えに来てくれていたのに、今日に限っていない。


 クロ! クロ! どこいっちゃったの?


 どうしようもない不安と淋しさに心を締め付けられてしまう。

 そこで今朝のやり取りを思い出す。クロに、どっか行っちゃえ、と暴言を吐いたのだ。それでどこかへ行っちゃったと思い至った。

 後悔が押し寄せる。あんな事を言っても、いつも一緒に遊んでいるクロが大好きだった。

 顔を上げる。クロを探さなくちゃ。探し出してクロに謝ろう。


 ◆


 そう決意して、リードを持ち出しシロの首輪に繋げる。まずはいつもの散歩コースで探すためだ。

 玄関を出て、シロに伏せさせる。その上に乗るのだ。

 シロも慣れたもので、ボクを背に乗せて、いつもの散歩コースを辿る。

 最初は河川敷。堤防? よく分からないがおばーちゃんの言う川の公園だ。

 まずは聞き込みだ。犬の散歩をしている、おじーさんを標的に定めた。例の白いマルチーズの飼い主でもある。


「やあ、ユキ君。今日は早いねぇ。いつもの黒いのはどうした?」

「あのね、そのクロを探してるの。朝喧嘩していなくなっちゃったの。謝りたいの」

「そうかぁ、ケンカしちゃったか。だが黒いのは今日は見ていないぞ」

「そうですか。ありがとー。他を探します」


 おじーさんと別れ、先へと進みます。橋の下を潜り抜けて土手を越え、商店街へと差し掛かる。

 周りに訊き込みながらも手掛かりは見つからない。

 散歩中の老夫婦にも訊いてみる。


「すみません、ちょっといいですか?」

「はいはい。よく懐いている大きなわんこね」

「はい!」


 大したことじゃなくてもシロやクロを褒められると嬉しくなってしまう。


「同じくらいの大きさの黒っぽいわんこ見かけませんでした?」

「そうねぇ、見かけなかったわねぇ」


 おばーさんは話してくれたが、おじーさんはニコニコしてるだけだった。

 老夫婦ともお礼を言い、別れてまた探し始める。


 ◆


 商店街でも成果はゼロ。悲しくなってしまう。

 ベンチで座って休憩してると声を掛けられる。


「ユキちゃん、今日はクロ連れていないのかい」


 声を掛けてきたのはいつもコロッケを奢ってくれるおじさんだ。商店街の端にコロッケの店を出してる。


「はい、そのクロを探してます。ですが見つからなくて」


 おじさんがボクとシロにコロッケを渡し、ベンチに腰を掛ける。


「何があったんだい?」


 おじさんに今朝の事を話し、クロに謝りたいこと。でもクロがどこにいるか分からないことなどを話した。

 おじさんは持ってきた3つのコロッケの一つを齧りながら聞いていた。クロに上げるつもりだった分だろう。

 ボクは久しぶりにコロッケを一つ平らげた。

 最近は半分食べた辺りでクロが横取りしていたからだ。

 クロのことが思い出されて、涙が零れる。全然見つからずに悲しくなってしまった。

 おじさんが慌てていたが、大丈夫だと言ってまた捜索を再開した。


 ◆


 家に戻って来ていた。結局クロは見つからなかったのだ。

 ふと見ると庭に車がある。ママが帰っているのだ。


 玄関でシロの足を拭いているとママが声を掛けてきた。


「ユキちゃん、おかえり」


 ママの声を聞いて涙腺が崩壊した。足に抱き着き、クロがいない事、今朝の出来事、捜索の事、支離滅裂になりながら伝えた。

 ママが抱きしめ返し、背を擦りながら大丈夫だと宥めてくれる。

 しばらくして落ち着いたらママが話しかけてきた。


「クロはユキちゃんの宝物なのね」


 その言葉に頷く。


「それじゃあ、大事な宝物と新たな宝物に会いに行きましょう」


というとママは手を引いて部屋へと連れていく。

 そこにはクロが寝転んでいた。

 駆け出しクロへ抱き着く。


「クロ、クロ。ごめんね。許して。大好きなの」


 クロは舐めてくれる。まるで許してくれているみたい。

 気付くとクロのお腹に毛玉があった。白っぽいの。黒っぽい塊り。さらに白っぽい物体。またまた黒っぽい何かが蠢いている。

 子犬?

 ママが種明かしをしてくれる。


「クロはね、お母さんになったのよ」


 その日新しい家族が――宝物が――増えたのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 心温まるお話、有難うございました! 段落構成も自然で、良いと思います!
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