サクラ 負けずに奮闘する
私はまずアイシス様の到着を待ち、髪と目の色を元に戻してもらって、セシリア用の豪華なドレスを着てから急遽用意された部屋に向かった。その部屋はきたる襲撃を予想して、防犯上最適な場所にあるときいている。ユーリとアイシス様に伴われて部屋の前の扉につくと、そこにはもうキアヌス騎士様、ギルア騎士様、ヘル騎士様、リューク騎士様が既に待機していた。
騎士様達がユーリに敬礼の挨拶をしてから、私にも自己紹介をする。そう言えばセシリアとして会うのはキアヌス騎士様以外は、初めてだ。淑女教育の成果で文句もつけようもない令をした後、部屋に入る。そこはセシリアとして王城に滞在する際の部屋よりも、数段豪華な装飾がなされており、一目で重要人物の為の部屋だとわかる。
私が部屋の豪華さに見惚れてほうけている間、部屋の中をくまなく観察していたユーリがいう。
「ここなら位置的にも防衛に一番優れている部屋なので、襲撃者が来ても当分は持ちこたえられるでしょう。すぐそばに騎士の仮眠室も用意されています。ただ・・・」
ユーリが口ごもる。
「ただ・・・このドアの向こうの隣の部屋なのですが・・・隣はアルフリード王子の部屋みたいですね」
この部屋はアルフリード王子の伴侶用の部屋らしい。なのでいつでも行き来できるように部屋同士がつながっている。まあ、防犯的には一番安全だということは理解できる。なんせ王国の時期国王である第一王子の隣の部屋なのだ。警備も万全なはずだ。私が驚いて固まっているとユーリが優しくいう。
「私がいつでも傍にいますから、大丈夫ですよ。襲撃者も侵入者も近づけさせやしません」
その言い方だと、侵入者ってアルのことですか・・・?いいんですか?王子様の事そんな風に言って・・・。
その後、私はアイシス様とユーリに礼を言うと、一人になりたいと言って部屋を出て行ってもらった。ユーリは扉の前で護衛するといって聞かなかったのだが、何とか説得して向かいの騎士たちの待機部屋で待ってもらうことになった。そうして一人になって私がすることは、まず紙とペンの用意だった。
「よし!!この状況を何とかするために今の私が出来ること・・・・だ」
まず紙に私の現在の持っている札・・・何ができるかを書き出してみる。騎士団訓練場の雑用係、クラマを続けるのはもう無理だろう。あんな形で訓練場から王国の王子に連れていかれたのだ。仕事の契約は一年だったが、今は緊急事態だ。後でカイに手紙を書いて辞職する旨を伝えよう。これはやるべきリストに書いた。
次はセシリアだ。ユーリの婚約者であるという身分の為にアイシス様の実家まで巻き込んでルベージュ子爵ゆかりの者としてもらっている。私が本当は聖女で本物の子爵令嬢ではないといったら、アイシス様に迷惑をかけるかもしれない。それだけはしたくない。私はセシリアである事を今できることのリストに書く。
そんな風にできる事や、やるべき事をリストにしていくと、次のリストが出来上がった。
《できる事リスト》
セシリアである事。
時を止める。
聖女の書物が読める。
《やるべき事リスト》
訓練場の仕事を辞職する手紙を書く。
聖女と3種の宝飾について調べる。
聖女であるという事を受け入れる。
随分と悩みながら何とかリストを完成させた時、目の前の椅子にアルが座っていたのに気が付いて、腰が抜けるほど驚いた。
「・・・・・・!!!ア・・ア・・アル?!」
「随分熱心に考えこんでいたから、ノックしても気が付いていなかったぞ。だから勝手に入らせてもらった。面白いことをしているんだな」
「み・・・見たの?!」
私はとっさにリストを隠したが、もうアルは紙に何が書いてあったのか知っているようで、リストを見ようともせずに、にやりと笑っている。
は・・・恥ずかしい・・・・日本語で書けばよかった・・・。羞恥心で真っ赤になる。私はいつも自分がどうすればいいのか分からなくなった時、こういったリストを作ることにしている。そうすることでやるべきことが見えてくるのだ。でもリスト誰かに見られるのは、なんだか自分の心の中まで見られたような気になって落ち着かなくなる。私はアルを睨みつけながら言った。
「アル、こういうのはプライベートの侵害よ!!大体、乙女の部屋に簡単に入ってこないで!」
「勝手に入らないと、お前を守れないだろう。それよりもそのリスト。前向きなお前らしくて物凄くいいな。オレも今度真似してみよう」
うぅ・・・この人は本当に・・・。まあいい見たなら見たで説明する手間も省けるだろう。私はアルに、王家の宝物庫にしまってある聖女の書物を見せてもらえるよう頼んだ。以前は聖女の能力を知るのが怖くて、自分が聖女だと認めるのが怖くて、読まずに保管していてもらった物だ。だけど、今の私がみんなを守る為に何かできるとしたら、何を置いてでもやりたい。
「サクラは、もう怖くないのか・・・?聖女であることを受け入れられるのか・・・?」
アルが心配そうに向かいに座った私を見る。私はアルの目を見て、自信をもって答えた。
「怖くないと言ったら嘘になるけど、このままやるべき事をせずに大事な誰かを失ったりすることの方がもっと怖い。だから私はやるべきことはやる。アルも王位を継ぐかもしれないって思った時、同じ気持ちだったんじゃない?」
アルはしばらく私を見つめたまま身じろぎもしなかったが、突然大きな手で私の頭をなでてくれた。
「お前は強いな。17歳のお子様とは思えないくらいだ」
私は頬を膨らませて言い返した。
「あと1か月で18歳だもん!!子供じゃないよ!!」
アルはいつもの微笑みを浮かべて、私の頭の上に置いた手で髪をぐしゃぐしゃとなでた。せっかくのストレートの黒髪がもつれてすごい髪形になる。本当にこの人は24歳とは思えないほどに子供っぽいんだから・・・。私は手櫛でなんとか髪形を戻した。アルはそんな私を見て少し怒ったような顔をしていった。
「お前にはいつも驚かされる。そしてオレは何回でもお前に惚れさせられるんだ。本当に割にあわん。サクラ、お前にはいつか本当に、この部屋で一生過ごしてもらうようにするからな。覚悟しておけ!」
「ちょっと!!なっ・・・!」
突然のアルの言葉に、耳まで真っ赤になりながら身じろぎもできない私の頬に、軽いキスをするとアルは自分の寝室に戻っていった。
扉一枚隔てて、アルの部屋なんて・・・ハードルが高すぎる!!私このままでもつのかな?
私はいまだ大きい音を立てている心臓を抑えながらアルが出て行った扉をぼんやりと眺めていた。
その後すぐにアルの指示で、聖女の書物が私の部屋に届けられた。この小難しい難解な日本語を読み解くには時間が掛かりそうだったけどやるしかない。一体この書物は誰がどんな目的で書いたのだろう。
私が唯一分かるのは、書いた人は恐らく明治時代頃に生まれた日本人だろうということだ。しかも、ところどころおかしな日本語が混じっている上に、漢字も間違ったものが使われていた。なので、もしかしたら幼いころこの世界に来た人なのかもしれない。
私はそんなことを考えながら、古ぼけた書物のページを開いた。




