表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セロファン師は気が進まない  作者: 九藤 朋
26/58

XXVI

 人も通らぬ廃屋の中、まだあどけない少年は、パイプ椅子に座らされ、身体をぐるぐるとガムテープで固定されていた。

 その目はきょとんとして、自分の置かれている状況をよく把握出来ていない。いや、把握すまいとしてわざと感情に蓋をしている。


 たとぅ、たとぅ、たとぅ。


 物珍しい音に聴き入っていると、いつの間にか彼の目の前にはセロファン師が立っていた。

 セロファン師は微笑みながら言う。

 少年にとっての生への最後通牒となる台詞を。


「君が最期に見たい色は何だい?」

「僕?」

「そうだよ」

「僕、死ぬの? 貴方、セロファン師?」

「そうだよ。よく知ってるね」


 セロファン師は二重の意味で頷く。子供の口がガムテープで塞がれていなくて良かったと思いながら。


「誘拐犯に、君のご両親は金を払わない。なぜなら払えるだけのものがないからだ。警察は偽札を用意する。けれどそれは君を攫った犯人たちに露見する。そして君は殺される」


 水がさらさら流れるように、セロファン師は少年の死のシナリオを語った。

 少年は目を真ん丸に見開いて、それらの言葉を聴いている。


「さあ、今の内に。見たい色を言ってくれ」

「その必要はないわ」


 突如、介入した声。

 セロファン師が首を巡らせると金髪に白いパンツスーツの少女――――ナナが立っていた。


「警察にここの場所を通報した。もうすぐ、彼には救いの手が差し伸べられる」

「……僕の仕事の邪魔をするのかい」

「命は尊いものよ。代えが利かない」

「最期の色もそうだ。代えられるものなどない」


 やや、感情的になるセロファン師は珍しい。彼は自分の生業に誇りを抱いていた。

 その誇りは静かに密かに、けれど確かに彼の内に宿る核のようなものだった。

 つかつかとナナは少年に歩み寄ると、その縛めを解き、彼の小さな身体を抱き締めた。


「よく頑張ったわね。もう少しよ」


 少年は、感情の堰が切れたように泣き出した。今ここで、麻痺していた感情を彼はようやく取り戻したのだ。


 セロファン師は複雑な面持ちで二人を見ている。

 ナナの介入は、彼には決して愉快な事柄ではなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ