19歳と29歳の相談 ―――恋愛相談するふたり―――
19歳と29歳の相談 ―――恋愛相談するふたり―――
「はぁ・・・」
休憩室からの聞き慣れないため息にそっと覗くと、後姿でも元気がないのがわかるような玲ちゃんを発見した。なんだか、らしくない。いつも明るくて可愛い我が家のアイドルである玲ちゃんがあんなにがっかりしたようなため息をついてるなんて・・・っていうか、三井くんは何してるんだろう。
「藤堂、どけ!」
「あ、すみません」
主任にどけといわれたおかげで、物陰からこっそり玲ちゃんを覗いていたのが本人にばれてしまった。くるんと振り返った玲ちゃんと目が合う。
「藤堂さんも休憩ですか?」
「うん・・・三井くんは?」
目の前の自販機でコーヒーを買う。
「宗ちゃんは・・・誰かと電話中です」
声までがっかりしている。
「玲ちゃん、何飲む?」
「へ?」
「ほら、買ってあげるから」
「いえ、そんな・・・」
「んー・・・じゃあ、ちょっと待ってて」
俺は休憩室から出てラウンジに向かう。
「いらっしゃ・・・って、藤堂さん?」
「あ、三井くん。電話中じゃなかったの?」
言いながらピンクのリボンのクッキーの詰め合わせを掴んで三井くんにお金を払う。
「電話?ああ、とっくに終わってます。はい、¥580になります」
「玲ちゃんとなんかあったの?」
「なんかも何も、悲しいくらい何もありませんけど」
「そうか・・・」
原因は三井くんじゃないのか?俺はとりあえずクッキーを持って休憩室に戻った。
「はい、玲ちゃん」
「へ?」
「さあ、お兄さんが何でも相談聞いてあげるから話してごらん」
自販機で玲ちゃんがよく飲んでいる紅茶を買ってクッキーと一緒に手渡す。
「ありがとうございます・・・あの、藤堂さん・・・」
「うん?」
「結衣さん以外の人と、お付き合いしたことありますか?」
玲ちゃんの元気なさの原因はやっぱり恋愛関係?相手が三井くん以外の男だったら、俺、応援できないかもしれないな。
「そりゃ、あるよ」
「結衣さんの前ですか?それとも後?何人くらい?」
「前にも後にも何人かいるけど、自分から告白したのは結衣ちゃんが初めて」
俺の言葉に、玲ちゃんはまたしばし考える。
「他の人とはどうして別れちゃったんですか?」
「んー・・・俺が振られたって言うのが毎回のパターンなんだけど、原因は俺の寝起きの悪さとか、遅刻癖とか、記念日忘れたり、他の女の子とごはん行っちゃったり・・・あ、別に浮気とかそういうのじゃないよ?」
「わかってます。藤堂さん、とっても優しくて素敵な人だもん」
そう言いながら、玲ちゃんはようやくクッキーを1枚食べてくれた。
「ありがとう。でも、結衣ちゃんの後に付き合った相手は、ほんとに長続きしなかったな・・・俺、振られてもずっと結衣ちゃんのことが好きだったから」
「私、男の人とお付き合いしたことないから、なんか、そういうの全然わからないんです」
首を傾げながら言う玲ちゃんに、俺は一瞬絶句した。
「え・・・玲ちゃん、彼氏いたことないの?」
その可愛さで?この社交性の抜群感で?男なら誰だっていろんな意味で好きになっちゃいそうなのに?しかも玲ちゃんは確か、この前の誕生日で19歳になったはず・・・。
「はい、私、わがままだし、とろいし、可愛くもないし、おしゃれとか、お化粧とかも上手じゃないし、彼女にしてもいいことないから」
それ、本気?ちょっとちょっと玲ちゃん!まずは鏡よく見たほうがいいよ?化粧とかしなくても充分可愛いから!あ・・・。
「それ、誰に言われたの?」
「え?」
「いまの、自分で思ってること?」
嫌な予感がする。
「自分でも思ってますし、宗ちゃんにいつも言われてるんで。宗ちゃんが私のこと世界で1番よくわかってる人なんです。その宗ちゃんが言うんだから間違いないですよ」
ああー!悪魔!鬼!
三井くん!玲ちゃんひとり占めしたさに本人にものすごくひどいこと言い聞かせてるんだね?
「玲ちゃん、そんなこと・・・」
「玲!いつまで俺を一人にしとく気?」
俺が玲ちゃんに真実を教えようとしたところに、大きな瞳を若干釣り目にした三井くんがやってきた。
「ごめん、いま戻る!藤堂さん、クッキーと紅茶ご馳走様でした」
「あ、どういたしまして」
玲ちゃんは急いでラウンジに戻っていってしまった。
「・・・・・・」
「藤堂さん」
あとに残された俺は、凍った月のようにまん丸い三井くんの大きな瞳にじっと見つめられて背筋が凍りかけた。
「玲に余計なこと言わないでください」
「いや、だって三井くん・・・あの暗示はあんまりじゃ・・・」
「いいんですよ。最後は俺が必ず幸せにするんですから」
そう言って三井くんは天使のようにきれいに微笑んで見せた。
怖いよ、三井くん。半端なく怖い。