夢の中の男
初めて短編を書きました。
ぜひ読んでください、お願いします
その駅のホームに、電車がやって来る気配は全くない。
そこには、何を待つ風でもなく、ぽつりぽつりと人がいた。
ホームの終わりは見えないほど長く、暗く影を落としている。
私はというと、線路の上で立ち尽くし、ただひたすら電車が来るのを待っていた。
私自身、自分でも何故こんなことをしているのか全く理解出来ないが、夢なのだから仕方がない。
せいぜい目覚めたら夢占いでもするところだ。
しかし、この夢も見始めて三日目になる。こうも同じ夢を見るというのは何なのだろう。
ストレスを抱えるほど、私は今の暮らしに不満もない。
二人の娘はわがままだが可愛らしいし、女房は気が強いが美人だ。
そして私自身、最近異例の出世を遂げ、生活もかなり充実している。
しかしこんな夢を見るくらいなのだから、私も気付かないうちにストレスを感じていたのかもしれない。
しばらくするといつものように、一人の男がホームの奥から歩いてきた。みすぼらしいスーツを着た男だ。
男はいつものように、ホームの人々に一人ずつ声をかけていった。
「私にタマシイ、くれませんか?」
身震いするような声だった。
三日目にしてもまだ慣れない。声をかけられた主婦は、俯いたまま答えた。
「隣の人に聞いてください」
これもまた、いつも通りであった。
男は小さく頷くと、隣の女の子に顔を向けた。
「私にタマシイ、くれませんか?」
赤いランドセルをしょった女の子は、数秒迷った仕草を見せたが、やはりこう言った。
「隣の人に聞いてください」
私はその様子を横目でしばらく見ていたが、誰もが同じ言葉を口にするばかりで、今日もいつもと変わりなかった。
この夢は一体何なのだろう。
夢の中の男は、いつもホームにいる全員に声をかけていた。声をかけながらホームを進んでいき、やがて見えなくなる。
しかし何故か、いつも私の方には見向きもしない。ホームにいないからだろうか。
少しの恐怖と多大な好奇心に揺れながら、気づけば私は男の背中に声をかけていた。
「おい!お前、何をしている」
振り向いた男の顔を見て、私は思わず声を上げた。
「あっ!お前!」
何ということだろう。その男は、私だったのだ。
そうか、思い出したぞ。
私は三日前の朝、ここで死んだのだ。
昔の上司で、今は私の部下である男に、線路に突き落とされて死んだのだ。
ということは、私は死にきれていないのか?
まだこの世に未練たらたらで、あの世でこんな夢でも見ているのだろうか