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神に選ばれた俺は  作者: 瀬田 冬夏
俺と神々
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初めてのダンジョン

前回のあらすじ

冒険者ギルドを作るのなら、ダンジョンがどんな所か知っておいた方がいよな。ってなことで行ってみよう~って来たら、凄い行列に並ぶ羽目になった。


 やがて見えてきたダンジョンの出入り口は、思ったよりも広かった。あんだけ並んでたからもっと狭いのかと思ったらそんな事なかった。

 家の出入り口くらいかと思ったら全然そんな事なくて、バスを横にした長さよりも広かった。

 なのに、なんでみんな並んで一グループずつ入って行くんだ?

「なんでみんなまとめて入らないんでしょうかね?」

「他のグループがついてこないように、ではないかな?」

「……ついてくると不味いんですか?」

「漁夫の利を狙うものもおるだろう」

「なるほど」

 だからみんな入ってしばらく待ってるのね。

 あ、係員ぽいおっちゃんもいるな……。真面目に時間計ってるのかもしれん……。

 ……っていうか、だからこんな進まないのか? 勘弁しろよ……。

「なんかすみません、簡単に見学したいなんて言って」

「構わぬよ。我もここまでとは知らなかった」

 そんな会話をしていると、一人の少女が俺たちの横に立った。

 お、バニーガールだ。

「あ、あの……」

「はい?」

 さっきのナナザさんの所の子だよな。

 俺を見上げてジッと見つめるバニーガール。

 まだまだ見つめてくるバニーガール……。あれ? 心の中でバニーバニー言ってるのが不味いのか?

「あの?」

「……いえ、やっぱり神獣さまを主神にあがめているだけあるな、と思いまして」

「?」

「もし、お嫌でなかったら私達と一緒に回りませんか?」

「いいんですか!?」

「はい」

 おおぉおお! ナナザさまの所、もうちょとで中に入れるんだよ!

 もし一緒に入れたらすっごい時間短縮じゃね!?

「ベロスさま!?」

「お主の好きにしたら良い」

「すみません、よろしくお願いします」

 俺はきちんと頭を下げた。いやぁ、このペースでいくと絶対さらに一時間以上並ぶからなぁ。助かった~。マジ神!

 俺はウキウキ気分でバニーガール……は嫌なのかもしれんので、ウサギさんの後をついていった。

「なんだあれ……」

「主神以外に簡単に頭下げるなんて」

 という声が少し聞こえた。俺は立ち止まり、声が聞こえた所を見る。軽蔑の眼差しがあった。

「気にするな」

 俺が何かを言う前にベロスさまが声をかけてくれる。

「おぬしはぬしのままでよい。変わる方が我らとしては悲しい」

「……分かりました」

 どうせそうそうかわんねーよ……って言いたかったが、駄目だ言えない。神々の加護の影響で俺、若干温和になってる気がするし。

 別に喧嘩っ早かったわけでもないがな!!

「ナナザさま、お誘いありがとうございます」

「……うむ、しかし、そう簡単に頭を下げるものではない」

「いえいえ、礼を言うべき時に礼を言えない恥知らずには、なりたくありませんから」

 笑顔と共に言うとナナザさまは呆気にとられた後、笑った。

「はっはっはっはっは! 気弱なだけかと思ったら! いやいやこれはなかなか」

「面白いであろう、我らの教祖は」

「うむ。確かに」

 ナナザさまは笑い、自分の信徒を紹介してくれた。ウサギ耳はホワイトさん。人間の方はブラッキーさん。ブラッキーさんの方が教祖さまらしい。

「キリュー教、教祖、桐生です。本日はお誘いありがとうございました」

 再度礼を言うと、よせ。と一言言われた。ブラッキーさんがムスッとした顔になっていたよ。理由が分からん。

「今日が初めての様だったからな、念のために声をかけさせてもらった。なんせ、中はキツイからなぁ」

 そうナナザさまはおっしゃる。

 中、キツイのか。でも、最悪、転移で逃げられるしな。大丈夫だと思うんだけど、ま、ここはご厚意に甘えるさ。なんせ、次には入れるからな。

 なーんて気楽に思っていた事もありました。

 キツイってそういう意味か。とダンジョンの中に一歩入っただけで分かったよ!

「……鼻が馬鹿になりそうだ……」

 ベロスさまが非常に辛そうに言った。俺も鼻をつまみ口を押えている。息吸っただけで臭いがしそうだったんだ。

「やはり知らなかったか。神獣にはきついのではないかと、思ってな」

 そういってナナザさまは濡れタオルを差し出してくれた。

「上層は特にキツイからな」

「……ありがとうございます。でも、俺ちょっと、無理そうなんで……」

 濡れタオルは受け取らず返す。

 ブラッキーさんに「やっぱりな」っていう顔をされたが、今は全て無視だ。

 俺は自重なんて言葉を無視し、ダンジョン内で俺の力が呼ぶ範囲内、全ての天井を星空に変えた。そこから空気が抜けて、臭いも少しずつだろうが抜けていく。が! もちろん俺はそんなの待ってられないので、キリュー教には本来無い風の能力で俺たちの周りの臭い空気事全て上に吹き飛ばした。それからアルコール噴射を見える範囲すべてに施す。

「桐生……アルコールの臭いも我にはキツイ……」

「すんません!」

 慌ててもう一度、風を使って空に飛ばした。

「……少しはマシになった?」

「……で、あるな」 

 思わず、臭いついてないよなっと自分の肩の臭いを嗅きながら呟く。ベロスさまも鼻を前足でこすりながら答えてくれた。

 ふー。やっと息が吸える。

「……これは、一体……どういうことだ?」

 ナナザさまが尋ねてくる。

「キリュー教の力の一部ですよ。うちは多神教なので」

「多神教?」

「もちろん下位神ばかりではあるがな」

 ベロスさまは笑う。俺も笑う。

「……この星空は?」

「星空の女神、オーロリアさまの力です」

「星空?」

「はい、星空です」

 聞き返してきたので俺はきちんともう一度言う。

「……星空しか出せぬ……という事か?」

「ええ、そうですよ」

 でも助かるだろ? この星空、本物の星空だからな。天井は、無いんだぜ、今だけはな。 だって空気調整だけじゃどうにもならなかったんだもん、この臭い。そっから先は全部異空間に繋げておさらばするっての!!

「……先ほどの霧は? アルコールに似た臭いがしたが」

「アルコールです。酒の神もいるので」

「……非、戦闘系ばかり、だな」

「我が協会が目指すのは、支援系ですので」

 そう答えるとナナザさまは首を傾げた。

「戦闘系になるからここに見学にきたのではないのか?」

「いいえ、支援に回るために来ました。どんな事に困っていて、どんなものが必要であるか、そういうのを知りたいと思って。まさか第一歩からこんな歓迎を受けるとは思いませんでしたが……。ダンジョンってどこもこんなに臭うんです?」

「臭うな。だから、出入り口には臭いが出てこないよう、魔道具で調整されている」

「へぇー……」

 予想してなくて、全然心構えが出来ていなかったよ。

「もしかして、そのせいで空気が濁ったりして臭くなってるとか?」

 それは危険じゃね?

「いや、魔物の死骸が腐ってるだけだな。あとはまあ、上層ではあまりないが……、いやなんでもない」

 ナナザさまが首を横に振った。

 それにしても、さらりと聞き捨てならない言葉があったような。

「……魔物の死骸って放置ですか?」

「このような上層のモンスターの魔石など集めて何になる。やるだけ時間の無駄だ。時折、本当に新人が、捨ててあるものから抜き取っていってるようだがな」

 ブラッキーさんが軽蔑したように言ってくる。そんな新人が嫌なのだろう。

 捨ててるんだからいいんじゃね。ってその新人は思ったんだろうな。俺も思うかもしれんな。ただ、そのまま残骸はさらに放置だよな。

「桐生、どうした?」

「死骸を回収して捨てます」

 ベロスさまの言葉に俺はきっぱりと言った。

「そんな事をしなくても、我らと一緒に行けば、もう少し下層で良い魔石が手に入るぞ?」

「違います」

 ナナザさまの言葉に俺は首を横に振った。

「この環境はものすごく不味いです。みんな神様の加護が働いていて気づかないのかもしれませんが、一般の人間が入ったら病原菌をもらって、下手をすると三、四日で死んでしまいます」

 そもそも、あともうちょっと俺が加護を加えて空気を混ぜれば、狩人達だって、いっぱつでコロリと逝ってしまいそうな程の空気の悪さなのだ。

「……冗談だろ?」

「本気です。そして、我が教会はこの状況を放置していくわけにはいかないので、我々はこれより先、清掃を目的として行動させていただきます。ナナザさまにはお声をかけてもらったのに大変恐縮ですが」

「気にするな。しかしさっき言った事は、本当か?」

「本当です。我が神の一柱、トエルさまの名にかけて、本当であるとお答えできいます」

「トエル!? ウヌはかの神の信者か!?」

「ええ、このたび晴れて教祖としていただきました」

「…………驚いた……。では、本当なのだろう……。人手は多い方がよいであろう、我らも手伝おう」

 ナナザさまの言葉にぎょっとしたのはホワイトさんだ。

 ばっちーのなんて触りたくねぇよなぁ? 俺も同感だ。

「いえ、下手に触るとそれこそ病気をもらってしまうかもしれません、なので私達だけで大丈夫です」

「……しかし……」

「本当に大丈夫ですから。このたびはお声がけありがとうございました」

 再度頭を下げて俺はベロスさまに声をかけて先へと進んだ。

 ナナザさまにはちょっと悪いかなって思ったけど、真面目にものによっては不味いのもあるかもしれんから、手伝いはかえって困る。

「……今までこれが理由で死んでったやつとかいるのかなぁ……」

「おるかも知れんな。発症した場所がダンジョン内であれば絶望的であろう」

 ベロスさまの言葉に俺はなーんも言えなくなった。

「なんで放置して行ってしまうんですかね」

「荷物の関係上だろうな」

「……ああ、そっか。限りあるもんなぁ、鞄には……」

 どんだけ大きな鞄を持っていたとしても、全てを納めるのは難しい。ならこんな上層の敵にスペースを取られるわけにはいかない、か。

 上層の分、狩人が多くてモンスターの死骸の数も半端ない事になってるのだろう。

 通りのあちこちに点々とある死骸は新しいものから古いのまでたくさんあった。

 微妙に食べかけっぽいのもあって、その近くで別のが死んでいるのもあったから、食べてる所をやられたのだろう。

 血の臭いだって相当なもんだろう。それが洞窟っていう狭い空間で充満しているわけだ。

「酸素不足にはならないんですかね?」

 こっちはまだ地上に近いからいいけど、下とかどうなってるんだろ。

「風の魔法を使うものも多い。その加護のおかげで今までどうにかなっていたのだろう。それに、ところどころにあるコケも酸素を作る」

「なるほど……、まあ、空気が無いなんて理由で人間に死なれると困るのは神さま方ですもんね」

 モンスターを倒す奴が居なくなってしまう。

「…………桐生?」

「…………知ってますよ、俺。誰の知識か知りませんが、なんでダンジョンが存在して、なんでモンスターがいるのか、も」

「……そうであるか」

「他言はする気ないです」

「よしなに頼む」

 俺はただ頷いた。

 ダンジョンは、神々の実験場だ。

 物を生み出したり、生き物を生み出したり。宝箱だってそうだ。

 伝説の武器だって、鍛冶の神からしたら朝飯前だ。

 モンスターは、新しい生命を作るために、教材なのだ。

 失敗しても成功してもそれを自らの手で殺すのは嫌だったから、一攫千金という餌を与えて処理してもらっているのだ。

 でもそれを言う気はない。言ってどうなるんだって思うし、実際に儲かる奴は儲かるし、その分加護だって与えて貰ってる。戦うのが怖いのなら、魔道具とか魔法薬とか他にも色々あるんだ。

 共生って事で締めてしまえばいいと思う。

 それからはそんな話は一際せず、ただひたすら掃除するだけだ。

 転移・転送を使い、見るのも『オエー』な、なれの果てどもを清掃していく。ナナザさまが言いかけて止めた言葉も下層に行くと分かった。神さまはトイレなんてしないけど、……神さま以外は、そうじゃないしね……。申し訳ない程度に土で埋めたり水をかけてたりしてたけど……。

 とにもかくにも、熱湯とアルコールのダブルで殺菌、消臭していく。

 途中『切り捨てごめん』の奴らを見つけると。

「てめぇらぁ! 持ち帰らないならせめて灰になるまで燃やしてけ!! だから臭いがヒデェ事になるんだよ!!」

 などと怒鳴りつけていく。

 そうやって地下五十階層までいき、周りの臭いを嗅いで大きく頷いた。

「良し! これでもう大丈夫だな!」

 さて、帰るか。

「帰りましょう、ベロスさま」

「うむ」

 やりきった感満載で俺達は帰って行った。



 ダンジョンに夜空が現れる時、神獣を付き従えて一人の男が現れる。

 彼の者は、ダンジョンの化身なのか、不浄を撒き散らすだけの下界の者の奢りを一喝し、汚れを全て消し去ると、ダンジョンの奥に消え去っていく。

 ダンジョンを汚すなかれ。

 ダンジョンの化身が再び現れし時、消し去られるのは我ら下界の者であろう。



 そんな噂がまことしやかに流れてると、俺が聞いたのは結構経ったあとだった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

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