表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に選ばれた俺は  作者: 瀬田 冬夏
俺と神々
5/36

詐欺師

キリュー教を登録しに王城へやってきたぞ。



 「神係」という名前の部署。神様に関する事をするからって、その名前はどうなんだろうとは思うが、分かり易いからいいや。

 そこで登録・解散と書かれた窓口に行き、受付から用紙を貰い記入していく。

 ……羽ペン、書きづら! この紙も書きにくいし、なんだこれ……。

 内心文句をいいながら、そして、主神の欄の小ささに、そこに書くのは諦めて、裏面に記載と書いて裏に書いた。

「……流石に、多いと大変そうだな」

「桐生。ワガハイは応援しかデキヌガ、ガンバルガよい」

「あらあら……」

 必死に書いていく俺に三柱は見守り、書き終わった頃には三柱は拍手してくれた。

 ありがとうございまーす。でも、今度は誰か代わりに代筆して……。そう思うくらいには疲れた。

 用紙を窓口のお姉さんに渡す。

 さて、これで、登録も終わったし……。

「ちょっと待ってください」

 お姉さんが呼び止めてきて、俺は足を止める。あれ? なんか記入間違ったっけ?

「なんですか、これは」

「と、言いますと?」

 記入間違ったか? と思ったが、お姉さんは裏返して神々の名前が記載された場所を示す。

「こんな冗談は止めてください」

「……冗談じゃないです」

 二十二柱書いた俺の頑張りを冗談だというのか。

「冗談じゃ無いですって?」

 俺の言葉に眉を寄せて険しい顔をしたと、思ったら急に立ち上がって怒鳴りつけてきた。

「さては貴方が神々を騙し回っている悪人ね!!」

「はぁ!?」

 えん罪もえん罪過ぎるだろ!

 しかもお姉さん……、いいや、好意的な呼び方は止める。受付の言葉を聞いてこの場に居るほぼ全員が俺を睨み付けてきた。

 っていうか、この反応、おかしい。

 ビャクコさまだけの被害じゃない?

 俺がそんな事を考えている間に俺の隣にレオソルンさまが立ち、窓口の机を叩いた。バンッとものすごい音をたて、机に無数のヒビが入り、周りが凍り付くのが分かる。

 ……俺が破壊神を司ってくれ、なんて一度でも言ったから破壊力が強くなっているなんて事ないよな?

「ワレの信徒に対してずいぶんな言いがかりだな」

「ワガハイも怒る。人ノコ。ハツゲンハ気ヲつけよ」

「二十二柱、連れてこいというのなら、連れてくるわよ?」

 お三方は本気で怒っていた。半端なく。こんな一室で、このお三方に暴れられたら被害は相当なものだろう。レオソルンさまは武神であり、その強さは武神の数が多いと言われても、世界ランキング100位以内の格闘家と一般人が戦えって言われてもまず勝てないのが目に見えてる。的なレベルだし、アレキトンダーさまは唯一神。どんな虫、それこそモンスターに分類されている魔虫だって呼べる。ヒコヒメナさまも機織りの唯一神。その力は布に及ぶので、マッパにさせることが出来る。

 ……女の人のは嬉しいが男の見てもなぁ。

「お三方。いいですよ、いままで多神教ってのが無かったんですし」

 俺の言葉に緊張感が和らぐ。消えていないのがミソ。

「誤解は解けましたよね?」

「……詐欺師と勘違いした事は謝ります。しかし、多神教というのは認められません」

「…………はい?」

 受付の言葉に俺はもう一度聞き返す。

「多神教なんて認められるはずがないじゃないですか。一柱に絞ってください!」

「……いや、貴方の権限でそんな事出来ないでしょうが」

「権限とかそういう事じゃありません! 仕えるべき御柱は一つであるべきだと言っているんです!」

「…………なんで、貴方にそんな事を言われなきゃならないんだ?」

「これが普通の反応でしょうね」

 ジト目で受付を見る俺に対し、ヒコヒメナさまが呆れることもなくそう言った。そして、受付から紙を取る。

「アレキトンダー、お願い出来る?」

「マカサレタ」

 紙を受け取るとアレキトンダーさまはどこかへと飛んで行ってしまった。

「これでいいわ。行きましょう、桐生」

 ヒコヒメナさまが前を歩き、レオソルンさまに促されて俺は歩き出す。

 あちらこちらから視線を感じるが、俺は毅然とした態度で歩いた。だって別にこそこそする必要ないしな。そんな事をしたら俺を教祖としてくれた神さま達に失礼ってもんだ。

 俺達が城門から出た所でアレキトンダーさまが戻ってきて俺の頭に座った。

「オワラセテきたゾ」

「ありがとうございます。じゃあ、ザクラさまとビャクコさまの所の教会を回収、作り直したら帰りましょう」

「場所は分かるのか?」

「ええ。教祖になった時にお二方の情報は頂いているので」

 そういうと何故か三柱は驚いた顔をしていた。何故に?

「……そうか。桐生は優秀であるな」

「はあ……、ありがとうございます……」

 気にはなるが褒めてくれているのでそう返事して俺達は第10区画に向かう。

 ザクラさまとビャクコさまの教会は隣り合っていた。だからザクラさま、ビャクコさまを連れてきたんだろうなぁ。

 二つの教会を回収し、しばし迷う。

「やっぱり二つの教会の間の道を無くして敷地にしちゃうっていうのは不味いですかね?」

 第5区画に関してはそこにある教会全てだったんで問題無かったんだけど、流石にここだと他の所、この道を使っていく教会に迷惑がかかるだろう。ただでさえ、出入り口のゲートから遠くて不利だって思っているだろうし。

 なら、凱旋門のイメージで行くか。

 どうせ、ここは転移ポートを置くだけになるだろうし。

 更地となった敷地二つを全て凱旋門にするのももったいないので、敷地の半分以上は公園にした。

 凱旋門のイメージなので、彫刻だってある。夜になれば当然の様に明かりが着く。門柱の中にポートを作ってあるので、なんか駅にあるエレベーターの様だと思ってしまった。

「……綺麗な門ね」

 門を見上げてヒコヒメナさまが言ってくれた。

「ム! ワガハイハッケン! ミナハイいるか!?」

「もちろんですよ。じゃなきゃしません」

 俺は門を見上げながら答えた。我ながら良い出来だ。第10区画はダンジョンとも近いし、これは良い宣伝になるな。

「帰りましょう」

 そう言いながら俺は柱にある「音葉」の音をロゴマークにした彫刻に触れる。すると見た目には分からなかった(もちろん分からないように工夫したさ!)扉が開く。中は淡い光に包まれていた。

「どうぞ」

 お三方を先に進ませ、その後中に入る。

 扉が閉まっていく音が途中まで聞こえ、そして、俺達は教会に居た。

「楽ね」

「ラクでアルナ」

「有無。楽だ」

「ほんとっすねぇ」

 それは俺も素直に同意する。

「さて、無事、登録も済ませたし、ティナさんを入団させなきゃ」

 と、呑気にそんな事を言いながら皆が居るところに戻ると……。何故でしょう。見知らぬ神々がいらっしゃいます。

「おう、桐生っち! 待ってたぞ!」

「……ザクラさま? その方々は?」

「ビャクコと同じだ。騙されてしまった奴らだ」

「……まさか……」

「キリュー教なら問題ないだろ?」

 oh……。

 俺は人生で初めて、orzをしたぞ。本気で。

「ちなみに左から治癒の女神エクキュア、鉱物の女神モンドール、水の女神スイセー、魔道具の女神パソノ、光の女神メイ、闇の女神クーク、大地の女神ツチノ、海の女神ジューンだ」

 色々、色々突っ込みたいことは山の様にあるが、まず。

「……ザクラさま、全員女神なんですね」

 女好きだったとは。

「女を守るのは当然だろう」

「そう……ですが。あと、喩えこれ以上騙された神が居たとしても連れてくるのは止めてください。それと全員が全員認めるわけにはいきません」

「何故だ?」

「いくつか理由がありますが。まず、神々の不和を俺は望みません。感情があるのです、合う合わないというのは絶対に出てくるでしょう。数が多くなれば多くなるほどです。元々いる二十柱に、新しく来た神と仲良くするよう強要する気は俺にはありません。まだ俺が何の力も示していない中、みなさまは俺を選んでくれました。俺の可能性を信じました。それを優先します」

「優劣を付けるってのかい?」

「付けたくないから、無闇に連れてこないでくださいって言ってるんです」

「…………しかしだな」

「二つ目の理由は、俺と詐欺師が裏で結託していると噂がたつ可能性があるって事です」

 まだごねようとしていたザクラさまの言葉を俺は遮り二つ目の理由を口にした。

「オイオイ、いくらなんでもそれは無いだろう」

「俺は、先ほど、登録に行ったら、詐欺師と間違われましたよ」

「…………」

 ザクラさまは口を開けてぽかんとしていた。

 一緒に行ってくれたお三方も真実であると頷いてくれた。

「……すまん。浅はかだった」

「いえ、ザクラさまの気持ちは分かります。ので、支援できる範囲内で支援したいと思います。ただ、それは男性の神も女性の神も同等に、です」

「……わかった」

 明らかに落ち込んでいるようだがザクラさまは頷いてくれた。そして、それをきっかけに女神の一人が泣き始めた。えーっと……魔道具の女神だったっけ?

「あの……泣かれても困ります」

「ひぐっ、ひぐ。うぐ」

「出来る限りの支援はしますから」

「むり……だよ、だってだって……。き、きみ、みたいに、魔力、か、解析、しかできなくても、ほしがるの、いない……。パソノなんて、だ、だれも、いらな、ふふえ」

「魔力解析?」

「ああ、その子は、ビャクコとほぼ同じ能力だったらしい。簡易魔道具作成が違ったくらいで、な」

 ザクラさまも困り果てた様子でその女神を撫でた。よくよくみたら背中に羽がある。って、ことは、鳥人の神様なのか。

「……どっちが先に被害にあったんです?」

「この子だ」

「……ビャクコさまとえっと、メイさまでは?」

「メイの方が早いだろうな」

「……メイさまの能力ってどんなのだったんです?」

「明かりの魔法と目くらましの魔法が使えるくらい……。今はもう弱い明かりしか出せない」

 メイさまは悔しそうに言った。

「…………」

 俺は違和感に腕を組み考え始める。

 うん。やっぱり変だ。

「そもそもその詐欺師はなんでそんな事をするんですかね……」

「なんでってそりゃ、神の力が欲しいからだろ?」

「でも、騙されたやつに、加護なんてずっと与え続けますか?」

「去って行ったと同時に消した!」

 メイさまは悔しそうに言った。他のみんなもそうだろう。

 神さまは、よほどの事がない限り、入りたいっていう子は拒めないし、抜けたいっていう子も拒めないんだ。

 だからアリスティーさまは自由を奪われ、そして、落ち目になるとあっさりと捨てられた。

 俺だって抜けると一言本気で言えば抜けられる。が、復讐が怖いのでそんな事はしない。

 その時の俺は加護が消されてただの人間になっているはずだ。そんな中神々からの攻撃を受けたらどうなるか考えればすぐに分かる。

「そうでしょうね。普通に考えたらそうだ。なのに、なんでそんな事を繰り返すんだって思ったら、変なんすよ」

 いっそ、神々に恨みがあるって思う方が楽なくらいに。

「そりゃ、良い神に当たるのを期待してるんじゃないか?」

「でもみなさん、自分がどんなの司ってるってきちんと告げて教祖にしたわけですよね?」

「それは当然だろ」

 そう当然なのだ。何を司っているか、どんな事が出来るのか、神々は嘘はつけないのだ。それを黙ったまま信徒にする事もできない。ただ俺のように、聞く前から受け入れてしまってたら別なんだけどな。つまり俺が例外なだけで、普通、一対一でやる場合、神は絶対に説明するだろう。自分がどんな物を司っているか。

 失敗したくないのだから。

「……パソノさま。少し実験におつきあい頂けないでしょうか? キリュー教に貴方を迎え入れられるかは私には権限はございませんが、もしダメだったとしても、俺に出来うる限りの事はします。その上で協力してもらいたいのです。詐欺師の行動を知るために」

「…………うん。いいよ……」

 泣くのを止めてパソノさまは頷いてくれた。

「ありがとうございます」

 頭を下げて俺は、様子を眺めていた神々を見る。

「ビャクコさまもご協力ください。一度キリュー教から抜けて、俺に与えた加護を消してください」

「ニャ、ニャアァァ!? にゃー捨てられるニャ!?」

「捨てません。実験が終わればもちろん戻ってきて貰います」

「ホントニャ!?」

「本当です」

「ほんとにほんとニャ!?」

「本当です」

「……分かったニャ」

 頷いた。次の瞬間何かが抜け落ちそうになりながらも何かにひっかかったような感覚が残り、そして……俺には魔力解析の加護は残ったままだった。

「…………パソノさま、俺に加護を」

「うん」

 パソノさまが両手を俺に突きだしてきた。瞬間力が押し付けられるのが分かる。


 魔力式の書き込み・簡易魔道具作成【照明】・簡易魔道具作成【製氷】

 多重魔力式書き込み


 それが加護に増えた時、血が全身から引く音を聞いた。

「……パソノさま、抜けてください」

「うん」

 頷いたが、何も変わらない。

「パソノさま?」

「なに?」

「抜けてください」

「え? もう抜けたよ?」

「……………………」

 俺の頬を冷や汗が伝っていくのが分かる。

「パソノさまの魔道具作成って製氷でした?」

「え? そうだけど」

「……残ってます。俺には、魔力式の解析も書き込みも、簡易魔道具作成【照明】及び【製氷】の加護が残ってます。そして、多重魔力式書き込みという加護も得ました」

「……ウソ……」

 そう呟いたのはビャクコさまとパソノさまだけだが、全員言葉を無くしていた。

「待って、パソノそんな加護もっていない」

「にゃーも持ってニャいニャ」

「ええ、これはだぶん加護の重複によるランダム発生だと思います」

 勘だけど、たぶん、間違いない。

「ビャクコさまの加護が消えかかった時、他の加護に引っかかって残りました。パソノさまの加護を受けたあと、二柱の加護が本来持っていた加護が授かりました。パソノさまが抜ける時には、加護が消えかかる感覚もありませんでした」

 誰も何も言わずに俺の言葉を聞いていてくれた。

「……たぶんですが、魔力式の書き込み・簡易魔道具作成の二つそして、多重魔力式書き込みは、俺が全ての神から見放されても残る気がします。そして詐欺師はそれを知っているのだと思います」

 俺は周りを見た。

「すぐにでもこの情報は神々で……」

 言いかけて、俺は黒塗りの視界が幾重にも重なり、誰の者とも分からない罵声が耳に届き、ふらつく。

 倒れかかった俺をザクラさまが支えてくれた。

「大丈夫かい?」

「……はい。ありがとうございます」

 今のは……。……起こりうる……悪い未来……か?

 俺の中でトキアカさまと、ベロスさまと、レオソルンさまの力が働いた感じだった。

 俺は今、詐欺師の事を他の神々に伝えてもらおうと思ったのだ。人が一方的に神の力を持つのはまずいと思って。しかしそれを口にすると悪い未来が起こる?

「桐生……、もう戻っても良いニャ?」

 ビャクコさまの言葉に俺は我に返った。

「ええ、大丈夫ですよ」

 ほっとしたようにビャクコさまは戻ってきた。

「キリュー教祖よ」

 そういって前に出てきたのは水の女神スイセーさま。 

「私は水の女神スイセー。水魔法、水刃を貴方に授ける事が出来るわ。そこにいる水しか出せない女神よりはよっぽどマシだと思うわよ」

 ……自信満々に何を言ってるんだ? この女神。

 俺がザクラさまに言った事聞いてなかったのか?

「あー……」

「桐生」

 俺がお断りしようとするとベロスさまが声をかけてきた。

「神々の扱いをどうするかは、我らが決めてもよいな?」

「……お願いします」

「では女神達よ、こちらへ。クリスフラワー、トキアカ、ナベーナ、レオソルン、共に来てくれ」

 そう言ってベロスさまはザクラさまが連れてきた女神達を別室に連れて行ってくれた。

 俺は脱力して息を吐いた。

「すまないな」

 ザクラさまが謝ってくる。

「……スイセーさまに関しては諦めてください」

 たとえ他の神々が良いといっても俺がダメ出しする。

「ああ……分かってるよ」

 がりがりと頭をかいていたがザクラさまも納得しているのだろう。

「桐生的に、女神スイセー以外に駄目だっていうレディ達はいるのですか?」

「今の所いないですよ。ああ、あとそれとスイセーさまには大金貨二百枚にて手を打ってもらうつもりなので、皆様、軍資金俺に渡してくださいね」

「大金貨二百枚か。基準は?」

「百枚では±0に戻っただけですしね」

 神々は下界に降りてくる時、資金として、大金貨百枚を渡されている。

「二百枚あれば、教徒の装備を整えられます。それをエサに入ってもらってダンジョンで稼いでもらえばいいじゃないですか」

 もっともそれだけでは難しいんだけどな。でも夢と希望にあふれた若者を一気に五人くらい手当たりしだいに入れちまえばいいんだよ。そしたらパーティー戦闘なんかも出来るから安全性も一気に上がるはずだ。それが出来るだけの金を渡すのだから。

「桐生っち」

 ザクラさまに呼ばれて振り返ると一つの麻袋を渡された。

「俺っちの金だ」

 見ると大金貨が入っていた。

「う、にゃーはお金ニャいニャ。ごめんニャ」

「私はその、前の時に使ってしまって、ごめんなさい」

 ヒコヒメナさまがすまなさそうに言いながら少なくなった資金を渡してくれた。これを皮切りにみんながどんどん俺に金を渡してくる。

 俺、一気に大金持ちだな。一生遊べるくらいには金が入った。

「桐生、ティナをよろしくね」

 アリスティーさまのお財布は、他に比べて、だいぶ重かった。やはり、一度は上位神になっただけの事はあるのだろう。

「もちろんです。ティナさんを勧誘してきます」

 俺は神々に一礼し、部屋の奥に控えていたティナさんの元に歩く。

「ティナさん」

「はい、キリューさん」

「もし、よろしければ、キリュー教に入っていただけませんか?」

 右手を差し出して問いかける。

「ぜひ、よろしくお願いします」

 ティナさんはとても嬉しそうに俺の手を握ってくれた。

 俺を通し、神々の力がティナさんに流れていくのが分かる。

 本来なら、勧誘しても、神々の承認を得なきゃいけないのだが、聞こえているし、今いない神々だって反対する理由もなかったのだろうからすぐさま加護が与えられ始めた。

「……こ、れは……」

 ティナさんが苦しそうな顔をし、俺の手を両手で握りしめ、必死に耐えているようだった。

「……えーっと、ごめんなさい」

 先に謝り、ティナさんを抱き寄せ支える。

 セクハラだと訴えられても困るのだが、本格的な加護って今からなんだよ……。

 力の弱い加護からどんどん強くなっていって、ティナさんの体が小刻み震えて、これから唯一神の加護だって所でついに限界が来たのか気を失ってしまった。

 俺はその体を支え、気を失っている間に残りの加護を全部ティナさんに渡していった。

「……終わりました」

 ティナさんをお姫様抱っこしなおして、神々に声をかける。

「……やはりきつかったようね」

 アリスティーさまがやってきた俺たちにそう声をかけてティナさんの前髪をそっと額から落として頭を撫でた。

「ぶっちゃけきついですね」

 俺もぶっ倒れたしね。

「正直の所、俺、今、人間なんですか?」

「……九柱を受け入れた所まではギリギリ人間だったわよ」

「今の桐生はギリギリ神じゃないっていった所だね」

 サラマさまの言葉にやっぱりか、って思った。

「何人くらい影響を受けます?」

 この様子からしてティナさんも、ギリギリ神じゃないってレベルに来ているのかもしれない。

 信徒も先着順に与えられる力って大きいんだよね。いや、この表現は正しくは無いか。

 第一信徒から力が授けられた場合は、だな。ヒコヒメナさまやビャクコさま、アリスティーさまの加護は弱いと思う。……アリスティーさまの加護はもともと持っていた分、俺よりもティナさんの方がデカいかもな。

「通常は第三位までは割と大きな力をもらえるね。もちろん、教祖程ではないけど」

 第三位か……。

「しかし、キリュー教は特殊だからのう、第三位を過ぎても得る力は大きいかもしれん」

 俺もオルチさまと同意見だなぁ。

「桐生。勧誘は貴方に任せるわ。でも、最終判断はどうか、わたくし達に譲ってくれないかしら?」

 アリスティーさまの言葉に俺はしばし押し黙る。

「……条件があります。トキアカさま、ベロスさま、レオソルンさまとは必ず対面させてください。先ほどお三方の力が発動し、悪い未来は避けられた感覚があります。キリュー教の力は巨大です。これからもっとどんどん強くなっていくでしょう。変な信徒は入れたくありません」

 そう告げるとなぜかみんな微笑ましそうに笑っていた。

「それは無いわ、桐生。だってわたくし達は貴方が勧誘してきた後の判断をするのだから」

「アナタがそんな変なのを選んでこないってアタシ達は信じてるから大丈夫よ。でもアナタの言いたい事は分かったからその条件を飲むわ。みんなもそれでいいでしょう?」

 ビオルマンさまの言葉に全員同意していた。

「じゃあ、そういう事でお願いします。俺、ティナさんを寝かせてきますね」

「わたしも一緒にいってもいいかしら?」

「わたくしも」

 メリーマムルさまとアリスティーさまが心配そうに同伴を希望したので俺は頷いて二柱を連れて女性用信徒のフロアにやってきた。

 一番近かった部屋にティナさんを寝かせるとあとはお二方に任せて戻る。


「ティナさんはお二方に任せてきました。今日は、ごたごたしたのが終わった後は設立記念日って事にして、パーティーでもしましょうか?」

「良いのか!?」

 色めきだつ神々。

「来年のこの日も祝日として、パーティーにしましょう」

 本当はクリスマスのように神々の誕生日もって思ったんだが、二十二もいたら祝い事が多すぎて大変な気がする。主に俺らが。

 なので、それはパスの方向で。信徒が増えれば問題ないんだろうけどね。今は二人だから無理だって。

 でも、パーティーってのはどこの神様も好きなのかね? どんなパーティーだろうかとみんな楽しそうだ。

「……皆様方ちょっと一列に並んでもらえます?」

 そう声をかけるとみんな素直に横に並んでくれた。

 俺はそんな方々に大銀貨を一枚ずつ渡していく。みんな戸惑いながらも受け取ってくれて、ビャクコさまだけは人型になって両手を差し出していた。

 変身っだとっ!?

「……ビャクコさまは獣人神なんです? 神獣なんです?」

「どっちもだニャ。間に生まれたニャ」

 大銀貨を置きながら尋ねた事にビャクコさまは嬉しそうに答えた。

 全員渡し終えると一同に伝える。

「今日のパーティーの一人頭のお小遣いです。好きなものを買ってきてください」

 そう伝えるとみんな大喜びで買い物にと飛び出して行ってしまった。

 残りの方々にも持って行かないとな。女性用フロアに跳んでお二人にも今日、パーティーをする事と、買い出し用のお金を渡す。

「ティナが目覚めたら一緒に行くわ」

 アリスティーさまが大銀貨を見ながら小さく笑いながら言ってくるので俺は首を傾げた。

「だって、なんとなく可笑しかったのよ。まるで神を子供扱いだもの」

「え!? いえ、そんなつもりはなかったのですが。ただパーティーならやっぱり、自分が好きなものがあると嬉しいかなってそんな事しか考えてなくて、子供扱いだなんてとんでもない」

「桐生、別に怒っているわけではないの。ただ、前とは違うと思っただけよ」

 くすりと笑ってアリスティーさまはティナさんを見た。

「ティナとの買い物も楽しそうだわ。そんな風に思っただけなのよ」

「……すぐに日常になりますよ。アリスティーさまが望むのであれば」

「そう。それはとても楽しそうだわ」

 本当に楽しそうにアリスティーさまは笑っている。俺はお二方に会釈して退出した。

 戻るとどうやら面談は終わったらしい。ぶすっとした顔のスイセーさまがいた。

 ああ、やっぱり落ちたか。ま、落ちるわな。

「女神スイセーは、攻撃系の加護だ。我がキリュー教が目指すのは支援系。故に彼女には辞退していただいた。問題はないな?」

「もちろんでございます、ベロスさま」

 恭しく俺は腰を折る。ベロスさまがせっかく頑張って嫌な役をやってくれてるのだから俺だってもちろん乗るさ。

「では、水の女神スイセーさま。こちらを」

 そういって大金貨百枚が入った麻袋を二つ渡す。

「大金貨が二百枚入っております。新しき教祖のためにお使いいただければと思います」

「……いいわ。支援系教会なんてなんの面白みもないもの」

 そんなセリフを吐いてスイセーさまは去っていき、姿が見えなくなってから俺は息を吐いた。

「で、他の神々は問題ないんですね?」

「面談など、あの神を追い出すためのものでしかない」

「ですよねー」

 ぶっちゃけたベロスさまに俺も同意する。

「それにここにいる女神たちは嫌な気配もしない」

「それは俺も同感です」

 俺は残った女神たちに注意事項の説明だけをして、それでもかまわないならという形で受け入れを表明した。

 女神たちは異存はないらしく、俺は新たに七柱の神々の加護を手に入れた。

 中にはもったいねぇ! って本気で思う加護持ちがいた。




 治癒の女神エクキュア 加護は痛みの軽減。

 第一信徒であれば、痛みを三分の一程和らげる事ができたが、今は六分の一にまで下がった。それだけならまだ望みはあったかも知れないけど、文無しなので、教祖になりたいってやつはそうそういないだろう。

 

 鉱物の女神モンドール 加護は特定の鉱物を出現させる。

 鉱物の神キニオンさまと同様育てば大地の女神になるだろうが、今はキニオンさまほどの力も出ない。が、しかし、その特定の石が金剛石。ダイヤモンドの原石だった。詐欺師バカじゃないのか? って思ったけどな。この世界、ダイヤを削るなんて事しないから、水晶の劣化版扱いなんだよな。宝石として扱われるのは翡翠とか瑠璃、トルコ石のほうだな。

 だからキニオンさまも実は出せる。おかげで加護がダブった扱いなのか、モンドールさまがもう一つ司っていた鉄と、ランダムでオリハルコンを手に入れた。

 ……俺の幸運度が高いのか、モンドールさまとキニオンさまの加護(金にならない鉱物)と重ならないようにとなると範囲が狭まってこうなったのか、謎。


 

 魔道具の女神パソノ 加護は魔力の解析

 先ほども一度信徒になったからか、再度加護を受けても特に何もなし。まあ、ビャクコさまで分かってはいたがね。

 

 光の女神メイ 加護は明かり。

 もう目くらましの魔法も使えないので、ただの明かりのみ。普通に考えるとどうしようもないのだろうな。その手の魔道具も結構売られているし。ただ、教会内の明かりはこれでどうにかなる。


 闇の女神クーク 加護は暗闇。

 メイさまとは逆で辺りを暗くする事のみ。こっちも普通に考えるとどうしようもない。ダンジョンで役に立ちそうではあるが、それ一つってなると、結構辛い。

 

 大地の女神ツチノ 加護は地熱。

 大地の女神って言ってたからキニオンさまよりも力が強いのかと思ったら、むしろ逆だった。もはや暖める事しかできないらしい。

 見捨てられなくてよかったです~と泣いていた。エクキュアさまとぜひともコンビを組んでもらおうと考え中。

 

 海の女神ジューン 加護は特定の海の生き物を出現させる。

 第一信徒だったら、赤身の美味しい魚も出せたらしい。今出せるのは、もはやみんなが食べもしない、クラークンという生物らしい。

 出してもらったら、タコとイカを足して割った感じだった。ちょっと試しにと思ってタコの様にして茹でて食べたら色は白いけど味はまんまタコだった。

 みんな最初は気味悪いと言っていたが食べてみたら美味しいと好評だった。

 タコ焼きでも作って売りだしたら儲かるかもしれない。そんな事を思った。


 で、だ。この七柱。あまり、加護を足せないんだよね。俺第一信徒でもないし、唯一神でもないし。同じのを司ってる神、むっちゃいっぱい居るし。

 なので司るものはそのままにしておいた。今はどうしようもないって。

 下界に来てすぐに、騙されてしまったせいか、それとも足手まといだと思っているのか、女神達にはあまり笑顔はない。

 それでは困るのでパーティーの事をお知らせして同じく大銀貨を渡して気分転換もかねて買い物に行って貰う事にした。

 みんな驚いた顔をしていたけど、途端に嬉しそうに笑って、礼を言いながら走って行った。

 そうそう、神さまは笑顔で居てください。

 じゃないと集まる者も集まりませんからね。

 打算的だって言われそうだけど、誰だって辛気くさい神さまの所になんて行きたくないだろ? 打算的だろうと優しさだろうと、彼女達の力になるのならどっちでもいいんだよ。


ブクマと評価ありがとうございます。

少しでも楽しんで貰えるよう頑張ります。


新しい神々が増えたで前回同様。


建築の神ザクラ(サグラダファミリア~から。ただし、サに点々)

魔道具の女神ビャクコ(白猫なので、白虎から)

魔道具の女神パソノ(パソコン・ノートから)

光の女神メイ (『明』から)

闇の女神クーク(ダークから)

海の女神ジューン(ジュゴンから)

大地の女神ツチノ(つちのこから)

治癒の女神エクキュア(エクストラキュアから)

鉱物の女神モンドール(ダイヤモンドから)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ