それぞれの女神
ちょっぴり暗い話が続いてるかな?
そこは、暗闇に居ると勘違いしそうなほど、明るい室内なのに、暗く感じた。
神の影響なのだろう。
女神サロネはこちらを見もしなかったけど、独り言の様に問いかけてくる。
「……あの子達はどうなるの?」
「どうして欲しいのかしら?」
ローズベリーさまは挑発するように尋ね返した。
「貴女の命を破って、貴女に敗北を与えた。良いわよ。貴女の意見取り入れてあげても」
「……そうね……。でも、どうしたいのかあたしにも分かんないわ。だって……あたしは本当に、サロネなのかしら?」
「……止めてくれる? そこまで混乱するの」
ローズベリーさまがため息一つついて、女神サロネのところに行くとその頬を思いっきり叩いた。
ローズベリーさま。あまり暴力的なのもどうかと俺は思うんすけど……。
「わたしはね、これでも怒ってるのよ? うちの子達に休みをあげようとしてたところであんた達にケンカを売られたんだから」
休み?
首を傾げたのは俺も女神サロネも同じ。
「そうよ。うちは特殊なの。神の数の方が信徒よりも多いんだから」
そうっすね!
「しかも教祖はアホでバカみたいに仕事増やすし」
アホでバカみたいに仕事増やしてすんません。
「だからデートだってまともに出来ないって思ってたわ。でも、言われたのよ。教祖は自業自得だけど、その彼女の方は私たち女神が仕事を増やしすぎだってね。信徒の数が少ないんだから、やれるべき事は自分たちでやれって。じゃないと教祖はデートをするために、前倒しで仕事を持ってきて、なおさら忙しくしちゃうって」
ああ、オルチさまっすね。その話したの。
「バカじゃないの!? って正直思ったけど!」
あ、その科白は俺向けなんですね。はい、すんません。バカです。だから睨まないで。
「でも確かにまともに休みが無いっていうのも問題だから、うちは他と違うんだし、神が神に対して手を貸すぐらいはいいんじゃないかって話してたところで、この馬鹿騒ぎよ!」
「……八つ当たり、入っていないかしら?」
「正当なる怒りよ!」
そうかなぁ。俺もちょっと八つ当たり入ってるとは思うけど。でも言うと後がめんどいんで黙っとく。
「決闘は行うわ。どうせあんたの子供達、自分がやった事をよく理解していないんでしょう? 負けたって気づいてないんだったら、うちの子達が徹底的に、たたきのめしてあげる。でももし、あなたたちが勝てば、見逃せる子供達は見逃してあげるわ。私達が勝てば、悪いけど、腐った者達は全員処刑するわ」
「……そう」
……マジですか。……マジなんだろうな。
処刑か……。
分かってたけど、口の中が苦くなってきた気がしてきて、思わず尋ねる。
「……しなきゃ、ならないんですか?」
「……残念ながら、数人は……無視できない者達がいるの」
「……そう、ですか」
「ええ。そうじゃないと、立会人となったゴルドーガルゼフがサロネ教の信徒を最悪全員殺さなくてはならなくなってしまうのよ」
「…………」
ああ……。後味が悪い。
なんでこんな思いをしなきゃならないんだか……。
「そしてサロネ。貴女は勝っても負けてもキリュー教の下働きをしなさい」
「はいぃ!?」
「いいわ」
「え!? いいの!?」
なんでそれがまかり通るの!? 女神だよ!? 神だよ!? 下働きって信徒よりも下って事だろ!?
え!? あ! 今回の事はそれだけでかいことって事か。
「あと、ついでに。うち女神が多いから、男神になって貰いたいんだけど」
「分かったわ」
「ただし罰として、切るから」
「……分かったわ」
…………ろ、ろーずべりー……さま、切るって。
思わず俺は股間を押さえそうになった。
えっと、そういう事だよな!? そういう事だよな!? 恐ろし過ぎるんだけど……。
ビオルマンさまですらきちんとついていらっしゃるのに……。
うわぁ……そっかぁ。
マジかー。
俺は思わず遠い目をした。
そこから先の話し合いは特にこれといったものもなく、決闘は当初の予定通りという事になった。
帰る直前、女神サロネを見ると、女神の姿が重なっているように見えた。
俺が知っているリボンな女神と、エジプトの衣装をつけたような女神の姿と。
「あれが歪んでいるって事よ」
ローズベリーさまが俺にだけ聞こえるように口にして、帰りましょうと促したので転移して帰った。
「処刑、するんですか?」
「神の命令を破って布告した国の中枢にいるやつらは処刑しなくてはならないわ。どれだけの数になるかは分からないけれど、神を神と思っていない者に、国を任せるわけにはいかないのよ。この世界は」
「……そう……です……か……」
俺はそれ以上言えなかった。
「一を助けるか、千を助けるか。の問いかけに、千一を助けてあげると言いたいところだけど、神はそれを許しはしない。だから一を切り捨てる」
「……はい」
「…………あなたたちに罪は無いわ。たとえ相手が勝ったとしても、死者の数は0にはならない。助けられる子達だけは助けてあげる。その言葉は結局のところ、どちらが勝っても死者の数は変わらないって事なのよ」
「……詐欺ってないですか?」
「詐欺ってないわよ。あの女だって分かってて頷いてたわよ! 言っとくけど! かなりの温情なんだからね! これ!!」
「それは……分かってるんですけど……」
「私達の方で断罪しないと、ゴルドーガルゼフが出てくるわよ? それでもいいの? そうなった場合、どれだけの数の死人が出るのか、私には分からないわ。創世神として、神の法を決めた神として、彼は捌かなくてはならない。国教により変わってしまった者達はともかく、自らの意思でサロネ教に入った人間全て、断罪してもおかしくないのよ」
「……分かってます。いえ、分かりました……」
「……忘れなさい桐生。全部終わったら、全部忘れてしまえばいいわ」
「……いえ、さすがにそれは出来ません。しちゃ駄目だって思うんで。……苦いですけど、消化しますよ」
「……そう。他の子達には内緒にしておきましょう」
「ティナさんにも内緒にしてもらいます」
「ティナは知っているのね。分かったわ。私から伝えとく」
それで話は終わりだとローズベリーさまは去って行ってしまった。
俺は、しばらく呆然と立ち尽くし、誰かにすがりたい気持ちで、転移した。
そこはダンジョンの最奥。地下100階層にある神殿。
一礼し、重い足取りで入っていく。
真っ暗なのに、何故か内部が見える。
まるで黒い炎でも焚かれているかのような感覚。
進む廊下の先にトエルさまが居た。
「どうかしましたか? 桐生」
優しい声だ。
労るようでもある。
「……死の女神、ヘエルズさまにお尋ねしたい事があって来ました」
「ここに来ているのだから、そうなのでしょうねぇ」
トエルさまは頷いて、こちらへとやってくる。
縁側の似合うおじいちゃんと言った様相から、漆黒を纏う女神に変わって。
「どうしました桐生? 何が聞きたいのかしら?」
かけられる言葉も柔らかい女性のものだ。
ゴルドーガルゼフの妻。死の女神ヘエルズ。
……やっぱり俺には優しい人に見えますよ、貴男の元奥さん……。
「神との約束を違えさせた信徒達は処刑されると聞きました」
「ええ。サロネ教の話ですね。その通りです。少なくとも、22人は処刑されます」
「そん……なに?」
「……多いと思うかもしれませんが、ゴルドーガルゼフに任せたら死者の数は230人を超えてしまいます」
「…………そうですか……。彼らは……死んだ後はどうなるんですか?」
「主神を裏切ったからと言って彼らの死後に何かしらの罰が与えられる事はありませんよ。彼らの魂は輪廻の輪に回されます。安心してください」
いつの間にか詰めていた息が零れて、俺は目を伏せて、意識的に深呼吸をし、顔を上げた。
「良かったです」
「気にするなと言っても無理でしょう。でも気に病んではいけませんよ?」
「はい」
「……今度の事はきっとどうしようもなかったのだと思いますよ」
「そうですか?」
「ええ、最近では、主神以外の神を敬う者が少なくなりましたから」
「…………」
俺は……どっちだろうなぁ。と思わずちょっと視線をそらす。
そんな事をしながら、今度のこれには見せしめも入っているのだなと嫌でも理解した。
「ふふふ。桐生、貴男が言っていた、客引きを神がしてはならない、というのはきっと正しいのでしょうね」
「はぁ。まぁ、神の威厳を損なうのはどうか、とは思いますね」
俺、その話トエルさまにしたっけ? してなかったと思うんだけどベロスさま達がしたのかな。
「大地の女神エプティの事はよしなに。彼女を救うことは、多くの神を救うことになりますから」
「女神エプティと仲良くやっていけそうな大地の神がいるといいんですけど……」
「フトクリムでは神々が降りてきたばかりです、そちらも候補にいれるといいでしょう」
「なるほど。参考になります」
「質問は他にありますか?」
「いえ」
「そう。では帰りましょう?」
そう言って手を差し出してきた時には、トエルさまへと早変わりしていた。
俺はその手を取る。孫がおじいちゃんを支えるような感じだ。
「トエルさま、今度日本家屋作るんで、そこで、『縁側でひなたぼっこ』しながらお茶を飲みませんか?」
「おやおやのんびり出来そうですねぇ」
「本当はトエルさまの膝に猫を乗せたいところなんですけどね……」
「おや、じゃあ、その時はビャクコに頼んでみましょうか」
「ああ。そういえばビャクコさま子猫に変身出来るんだった。最近人型ばっかりだったから……」
話をしながら俺たちは戻る。少しでもいつもの空気を取り戻したくて。
気持ちを切り替えたい俺にトエルさまも手伝ってくれて、来月にはひなたぼっこの会をしようっていう話になった。
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