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神に選ばれた俺は  作者: 瀬田 冬夏
第2章 人の想いと神の想い
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頼むから俺の話を聞け。

サブタイトルって難しい……。


「出てこい! キリュー教教祖! 我らが女神エプティ様を拐かした罪! 重いぞ!」


 そんな怒鳴り声がギルド建物に向かって発せられる。


 ……って、拐かした罪って、どういう事だよ! おい!!


 俺は思わずラックに助けを求めるように顔を向けたが、ラックも分からないと首をぶんぶんと横に振っていた。


「出てこい! キリュー教教祖!!」


 もう一度怒声が張り上げられる。

 うーん。千影の言う通りだったか? でも、やっぱり、今もヤバいっていう気はしないんだけど……。

 いや、まずはそれよりも、だ。


「はい。私がキリュー教、教祖、音葉 桐生です」


 殺気だった者達の一番前に立ち、怒声を張り上げている男性の前に俺は立ち、そう告げた。


 さてさて、予想外の嵐がきたっぽいんだけど、どうすっかなぁ……。




「貴様か、我らが女神エプティ様を拐かしたのは」

「それは誤解です。確かに女神エプティさまは今、教会内にいらっしゃいますが……」

「やっぱりかぁ! 主神を使って他教の主神を攫うとは良い度胸だ!!」

「違うと言ってます」


 聞けよ、人の話。


「女神エプティさまはただ、買い物しているだけです!」


 周りにもはっきりと聞こえるように声を張り上げた。

 全くもって冗談じゃ無い。

 風評被害も甚だしい。うちはまだまだ零細なんだよ?

 ヘタに目をつけられると面倒じゃ無いか!


「嘘だな」


 俺の言葉をそいつは否定した。


「嘘なんてついてません」

「なら、なんでお前の所の主神は逃げるように、女神を連れて、消え去った?」

「……」


 確かにそれについては、俺も理由は分からないんだよな。

 メリーマムルさまは街を歩くのとかは好きだから、あんまり転移アイテム使わないんだけど……。


「やましい事があるから、あのような形を取ったのだろう?」


 そんなわけ無いといっても無駄だろう。

 もう一度彼の足下を見る。

 敷地内には一切入っていない。

 周りを取り囲んで居るようだけど、一応、神への配慮はしてあるんだよな……。

 さっきの騎士達とは大違いだ。


「……では、武装……防具はそのままでも構いません。武器の持ち込みがなければ、一般客と同じように教会内を歩いて貰ってかまいません。何名かで探したら見つかるのではないでしょうか?」


 とりあえず、うちは誘拐してませんよ、監禁とかもしてませんよ。とアピル。


 目の前の男性は疑わしそうに俺を見ていたが、俺としては今の所これ以上何かは言えない。

 言ったってやぶ蛇にしかならなさそうだし。

 むしろ何言っても聞いてくれない気がする。


「その必要はありません!」


 後ろからそんな声が聞こえて振り返ると件の女神が居た。


「エプティさま! ご無事でしたか!」

「何しに来たんですか! 帰りなさい」

「何をおっしゃいます! 我々と一緒に帰りましょう」

「いいえ! わたくしは帰りません! 絶対に帰りません! もう嫌なのです! 原因がはっきりするまで帰りません!!」


 原因?


 メリーマムルさまに視線を送る。メリーマムルさまは頷いてこちらへとそっと近づいて来て、事情を説明してくれる。


「彼女、大地の女神なのだけど、ここ二十年ほど、仲の良かった信徒達がどんどん辞めていってるらしいの」

「え?」

「理由は教えてくれないらしいんだけど、もうお仕えする事は出来ませんって言って辞めてしまうらしくて。それで彼女参ってるのよ」

「一人二人とかじゃないんですね?」

「うん。挨拶に来る人はまだ良いみたいで、気づけば居なくなっちゃう子もいるみたいで」

「教祖側で脱退させてるって事ですか?」

「そう。その場合って絶対に双方の同意が必要だから、無理矢理って事はないからやっぱり脱退の原因っていうのが分からないらしくて」

「操られたりとか、催眠術にかかってたりとかだったら?」


 一応いろいろな可能性を考えて尋ねてみる。


「無理ねぇ」

「無理なんですか?」

「無理よ。だからね、桐生、私、一つの理由しか浮かばなくて」

「まぁ、そうなんでしょうね」


 メリーマムルさまに頷き、エプティ教会のやりとりを見る。


「エプティさま。俺達は皆、エプティさまの事を慕ってるんです。貴方が嫌がって脱退したなんてありえません!」

「脱退してるでしょ! 事実!!」

「先輩方は、俺達にエプティさまをよろしく頼むといってっ去って行きました。エプティさまの事が嫌いになったなんて絶対にありません!」

「そういう言葉は聞き飽きたの! もう嫌なの! わたくしに気を遣って! 本当の事を教えてくれない! だから私はここに来たの!」

「キリュー教に来たところで何になるというのですか!」

「キリュー教の教祖は主神にだって言うべき事は言うっていうもの! よその神ならもっと手厳しくいうはずよ!」


 ……俺の評価がすげぇんだけど?


「えっと、どうも、変な風に話が伝わってたらしくて……」


 俺の視線を受けてメリーマムルさまは慌てて首と手を横に振り、私じゃ無いとアピールしてくる。


「なんて事を! あの男は神を神とも思わぬ所行だといいますよ!」

「だからこそ! わたくしの知りたい事を教えてくれるはずです!」

「いいえ! エプティさまを利用するだけに決まっています!」

「まぁ! なんて事を言うの!? 仮にもわたくしの友達が教祖と認めた子なのよ? 騙すだけだなんて、そんな事ありません!」


 ……なぁ、これ、褒められてるって思ってもいいのか?


 ……不思議だな。

 見なくてもラックとメリーマムルさまが居心地悪そうに俺に目を向けないのが分かる気がする。


「お話中の所、申し訳ありませんがお二方? 商売の邪魔です。他のお客様のご迷惑になります。教祖とエプティさま以外帰って貰えませんかね? 主神自らの意志と分かってもらった所ですし?」


 さっさと去れと笑顔でごり押しする。


「ああ、キリューさん。この子は教祖じゃ無いわ」

「教祖様はこのような所にいらっしゃるものか」


 エプティさまが俺の勘違いにちょっと困ったように笑って、教祖だと思っていた男が見下したように俺に言った。


「俺は、エプティ教会第四位、テンだ。このような極小の教会に我らの教祖が来るか」

「まぁ! テン! そのような事を言ってはいけません! どのような小さな教会であれ、中にいるのは神なのですよ!?」

「もちろんそれは分かっています! 神にはきちんと配慮しているつもりですよ。これでも一応。そこの男に配慮する気は毛頭ありませんが」


 そんなやりとりを聞いて、俺はテンとかいう男に近づく。


「女神エプティさま、少し下がって貰えますか?」

「え? ええ」


 よく分からないなりに数歩下がった。俺は二人の間に入り、テンを見上げる。


「キリュー教が主神を使って、女神エプティを拐かした。と言ったのは、どこのどいつです?」

「そんな事、貴様に関係あるものか」

「テン! そのような口の利き方は辞めなさい!」

「ええ、そうですね。確かに、まぁ、関係はないですけどね。でも、何故、教祖が来ないんです?」

「だからこのような弱小に---」

「主神が攫われて? 教祖が来ないなんて事、有りえるんですか?」

「だから」

「弱小は関係ない。相手が一人だろうと二人だろうと、本当に主神をさらってってんなら、見せしめをかねて、全力で叩きつぶすべきだと俺は思うけどなぁ、テンさんよ」

「……ふん、それがお前の本性か?」

「本性? あいにく、隠してるわけじゃねぇけど? 初対面の人に、一応年上っぽそうだし? それなりに接してたつもりだっただけだぜ?」

「なら、今はなんだ?」

「あんたに敬語を使う必要はないと俺が判断しただけだ」

「……このガキ」

「ガキだろうがなんだろうが、好きに呼べよ。でもな、俺から一つ質問して良いか?」

「あ?」

「主神が攫われたっていうのなら、教祖自ら助けにくるのが普通だって俺は思うわけだ。なら、なんでこない?」

「だから」

「教祖は知ってたんじゃ無いか? 女神エプティが自らの意志で、ここに来た事を」

「な!?」

「教祖を連れてこい。話はそれからだ」


 その言葉を聞き取ったのを確認し、俺は全員を転移させる。

 詳しい場所は分からなかったので、城門の外に飛ばした。


「……凄い」

「何がだよ」


 ラックの言葉に振り返り尋ねる。


「全員、飛ばせるなんて凄いなっと……」

「貰ってる力はデカいからな。お前だってそのうち、出来るようになる」

「なりますでしょうか?」

「なる。俺とトキアカさまが保証してやるよ」


 そう言うとラックは嬉しい半分安心半分と言った感じで笑った。


「さて、女神エプティ。教祖が来るまで応接し……は、使ってるんだった」


 そういや、もう一人煩そうなのが来てるんだった……。


「……上でお茶とケーキでも食べて待ってて貰っても良いです?」


 エプティさまとメリーマムルさまを交互に見て尋ねる。

 メリーマムルさまが頷いて、エプティさまを連れて消えた。

 ご飯も食べて、甘い物も食べればきっと怒りも落ち込んだ気分も多少は落ち着くだろう。


 まったくなんだってこんな事になるんだか。


***  ***


「なんなのです! 貴方達は! なんの権利があってわたくしの邪魔をしているのです!?」


 キンキンとした声が廊下まで響いてくる。

 三人の孫達が必死になだめているが、余計興奮するだけのようである。

 全くもって煩い。

 

「あ! 貴方! アリスティーさまをどこに幽閉しているのです!?」

「幽閉なんてしてません」

「では何故、アリスティーさまに会わせて貰えないの!?」

「アリスティーさまは今、色んな方に美についてお話してる最中でして」

「わたくしがここに来ているのになぜ、他の者を優先するのです!? 貴方たち、さてはわたくしの事を伝えていないわね!」

「そんな事はありません。きちんとお伝えしました」


 リストが食ってかかるが、見た目少女のばーさんは、聞きやしない。

 キンキン、キンキン、頭に響く声で騒ぐ騒ぐ。


「アリスティーさまにとって、貴方も、他の方も変わらぬ、ただ一人の人間なのですよ」

「そんなわけ無いでしょう! わたくしは、国王の母なのよ!」

「そうであっても、アリスティーさまにとって、身分の差など関係ないというわけです」

「なんと失礼な! 引っ捕らえなさい!」

「はぁ!?」

「「「おばあさま!」」」


 このばあさん、頭大丈夫か? みろ、護衛の人達も戸惑ってるじゃないか。

 って、おや? まさか、一人が決心したか?


 彼らは何かを耳打ちあって、頷きあうと、連行ではなく、押し出しという形をとった。


「どうぞ、みなさま、こちらへ。外でお話をしましょう」

「何をしているのです! わたくしは引っ捕らえよと命令しました!!」

「はい! ただいま!! 失礼します!」


 そう言って、手を握って、引っ張る。

 そうやって無理矢理全員、部屋の外から出し、ばーさん一人残して、扉を閉めた。

 はぁー。と深いため息が溢れるのは護衛の方からだ。


「お前はここで残って警備しろ」

「はっ!」

「すみません、どこか、周りに聞かれずに話が出来る場所はありませんでしょうか?」


 騎士にそんな風に言われて俺は仕方が無く、警備の一人を除いて全員を俺の執務室にと案内した。


「どうぞ、座ってください。三人も座って。俺、向こうからイスとってくる」


 エティがせっせと人数分のお茶を用意し始め、デスク用のイスをキャスターで転がしながら尋ねる。


「で、なんなんです?」


 話の内容は何か? というよりも、あのばあさんはなんなのよ。という気分での質問である。


「……おばあさまは昔はとても聡明な方でした……」

「あれで?」


 リストの言葉に俺は思わず聞き返す。すると全員から苦い表情が返ってくる。


「いつからなのかはわかりませんが……、言動におかしな部分が出始めたんです。昔はあんな風に、身分を振りかざす人ではなかったのですが……。でも、あそこまで……人の話を聞いてくれなくなってるとは思ってもみませんでした」


 言ってリストは護衛の騎士に顔を向ける。

 騎士も小さく頷いた。


「たぶん、ご本人も感じているのだと思われます。だからアリスティー教を復活させ、戻りたいのだと思います」


 騎士さんや、今説明すっとばしましたな? 困りますよ? 俺、事情全然知らないんだからね?

 って、ん? 戻る?


「……あの人はもともとエルフのように若い時間が長いというわけではなく、主神の力で、今の姿に若返ったのですか?」

「……はい」


 騎士に聞いたが、リストが言いづらそうに、それでもしっかりと頷いた。


「なるほど、キスティ教の方でしたか」


 アリスティーさまを追いやった女神。キスティ。そして、彼女達はアリスティーさまを捨てた人間だ。


「……随分と身勝手なものだな……」


 身内がいる事も忘れて、俺はただ、失笑を浮かべるしかなかった。


「……すみません」

「別にお前が謝る必要はないよ」


 謝ってきたリストに俺はそう返した。

 俺もちょっと配慮が足りなかった。もうちょっと気をつけよ。










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