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神に選ばれた俺は  作者: 瀬田 冬夏
第1章 ギルド
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第7話 祭りの始まり_7

短めです。


 そのまま夕食の時までラックは話をする事になった。試飲という形で飲んだジュースはどれも甘く、お茶は香りの良いものが多く、清涼感が心地良かった。

「桐生、この子の夕飯はあたしが出すから~」

「桐生、この子の話を聞いた? 今度生まれてくる下の子がもしかしたら口減らしに殺されてしまうかもしれないの。聞いちゃった身としては、無視できないわ。本当に育てられなかったら引き取りたいの。その連絡をどうにか出来る方法ってないかしら?」

 食事の準備にとやってきた桐生を見かけると二柱がすぐに言ってくる。

 ラックの夕飯はともかく、メリーマムルの言葉に関してはすぐに返事は出せない。

「ラック、お前の下の子っていつ生まれるんだ?」

「夏頃だって言われました」

「ああ、じゃあ、それまでに、小さいながらも教会を作っておくので、それで大丈夫でしょう」

「まあ、ありがとう! 桐生!」

 メリーマムルは本当に嬉しそうに両手を叩いて喜んだ。

「お三方はこちらで夕飯を食べるのですか?」

「んー……、一人で食べるのと、女神達と食べるのってどっちが気楽だと思う?」

 ナベーナが少し考えて桐生に尋ねる。

「……お三方は上で食べてください。ラックは俺達と一緒に食べますから」

「そう? 分かったわ」

「じゃあ、またね」

「じゃねー」

 三柱はラックに手を振る。そして、その場から幻の様に消えてしまった。

「悪かったな、うちの神さま達が邪魔しちまって」

 テーブルに置かれたコップを片付けながら桐生が話しかける。

「い、いえ! 僕も楽しかったので……。あ、あのキリューさん、女神さまからこういうのをもらったのですが……」

 ラックは桐生に安産守りを見せる。

「ん? ああ、安産守りか。良かったな。夏になる前にいっぱい稼いで、一緒に持って行ってやれ」

「い、いいんですか!? 僕も母もキリュー信徒じゃないのに!?」

「構わないぞ。そんな事言ってたら、必要なところに必要な加護が届かないだろ? 生命神の許可は得てる。それ以外の神だと、また聞きにいかなきゃならんが、それを持っていたからとって、神を鞍替えしろってわけじゃない。無事に生まれてほしいっていう願いと想いを形にして渡すだけだ。なんの問題もない」

 桐生が言い切るとラックは、ぎゅっとお守りを握り締めた。

 誰も見返りを求めない。ただ自分がやりたいからやる。そんな理由で親切にしてくれる。

 それはラックが夢見た狩人の姿や神の姿だった。

 こうなりたい。そう思える姿。

「キリューさん、僕、明後日には十五歳になるんです。そしたら自動的に生命神の信徒から抜けます。だから、キリュー教に入れてもらえませんか? なんでもします! 僕のために、今から生まれる僕の兄弟のために、そこまでしてくれるキリュー教に何か恩返しがしたいんです!」

「……今、お前に入られると俺は、また無所属の子を探しにいかなきゃならんのだが?」

「あ……」

 桐生の言葉にラックは今、自分が受けている仕事を思い出す。

『ん? 桐生、無所属? この子はさっき、生命神と言ってたぞ? というか、自動的に抜けるのか?』

 桐生と一緒にこっちに上がってきた千影が尋ねる。

 千影はあの日からキリュー教の手伝いをしていた。本人的にはキリュー教に入っても良いのだが、異世界人ばかり入っても困るという事で、今は保留となっているのだ。

『子供は生まれると父親か母親かのどっちかの教会に所属させられるんだ。十五歳になったら大人になったと認められてその所属から抜ける事になる。その後、どこに入るか入らないかは本人が選ぶことができるわけだ。ガキの頃だったら問答無用だったせいで、信徒としての務めなんてものはないが、自分で選ぶってなると信徒として働かないといけなくなるからな。入らないっていう人もいる。入ったら抜けるのが大変だっていうところもあるしな』

 下位や中位だとその傾向が強い。上位になると抜けるよりも入ることの方が大変だったりする。

 ただ一部例外の教会がある。創世神と、そして生命神や冥界神など、存在するのは分かっているが、教会に神が不在の場所だ。信徒が増えたり減ったりするのを記録してたりするからごく一部の信徒は働いているが、大勢の信徒達に課される義務はない。冥界神に至ってはどこに教会があるのかも分からない状況となっている。

『色々大変なのだな』

『色々大変ではあるみたいだな』

 そうまとめた千影と桐生。日本語で行われた会話にラックは内心首を傾げる。

 千影も魔道具のおかげで聞き取る事は出来るが話す事が出来ない。

「ラック、悪いが神さまたちにご飯が終わった後に食事になる。大丈夫か?」

「は、はい。大丈夫です!」

『悪いな。千影もそれでいいだろ?』

『ああ。駿さんにもそう伝えておく』

『よろしく』

 桐生は言って、消える。ラックはやはり驚いたように見ていたが、千影は驚いた様子もないので、驚いている自分に恥ずかしくなって、そっと顔をうつむけた。

 しばらく沈黙が流れたが、ラックは意を決して話しかける。

「あの、貴方もキリュー教の方なのですか?」

 その質問に千影は頭を横に振る。

「じゃあ、貴方も冒険者なんですか?」

 また千影は首を横に振る。会話にならない。というよりも喋れない? とラックが不安に思った時、千影はとあるカードを出した。

 『聞く』『出来る』と並べていき、『話す』『出来ない』と並べていく。

『聞くことは出来るが、話すことは出来ない』

 日本語でカードの意味を伝えていく。ラックには日本語は分からなかったが言いたい事は理解した。

 ではどう話かければいいだろうか、とラックが考えていると、別の男性が入ってきて驚く。

『ん? そっちは?』

『冒険者、第一号』

『おいおい、あいつもう冒険者連れてきたのか? ポイント利用アプリもまだ途中だってのに』

『あれ? 今あるのは?』

『昔、別の所に出して没になったやつだってよ。最低限の事は出来るって感じのやつだ。見本にって渡したんだけどな。まぁ、出来上がりを待ってたらいつまでたってもスタートできないって焦る気持ちも分かるけどな』

 そのアプリは駿が作った物ではなく、駿の知人、仕事仲間で信頼の置ける人物が過去に作った物だ。今、駿は桐生の願いを叶えるために三人ほどで様々なプログラムを作っている。

『プレ期間って事で割り切ってテストしていると言ってましたよ。価格設定とかが難しいですし、とも』

『確かにな、どれもこれも初めてづくしだからな』

 そう言いながら駿は千影の隣に座った。それから千影と同じようにカードを取り出し、ラックに見せる。『あなた』『冒険者』『出来る』『?』

「……あ、やってみないと分からないですけど、頑張りたいと思います」

 ラックは答えながら二人を見比べる。顔だちも髪や目の色から考えると桐生と同じところの出身なんだろうと分かった。

 次に並べられたのは『冒険者』『施設』『?』だった。

「?」

 ラックは首を傾げる。必死になって聞きたい事を考え、二人も必死になって使えそうなカードを探しているようだ。

「……あっ! 冒険者施設はどうですか?」

 思わず声が上がったラックに対し、二人が掲げたカードは両方とも『出来る』だった。きっと『はい』と言いたいのだろうとラックは頷いて感想を述べる。

「びっくりしました。王都は本当に凄いと思いました。僕が泊まっていいのか、不安になるくらいです」

 『大丈夫』のカードが千影から出される。

 不安になるな、という事だろうか。自分に都合の良い捕らえ方だと思ったがラックはそう読み取ることにした。

 それから三人は必死になりながら会話を繰り広げ、ずっと待っているのもなんだからと、三人は屋上に行ったり風呂に入ったりして一時間半を過ごし、打ち解けていった。


*  *


「冒険者ギルドの宿泊施設ってそうなってるのか……」

 ここに居る誰もがそこに泊まったことはない。最低ランクでも五ポイントかかるのだ。流石にもったいなくて出来ない。

 極上の寝具が揃っているという噂は聞いた事があるので、この宿泊もマジックカードの中に宿泊チケットという形で入っているらしいので、いつか当たればいいと思うものの積極的に泊まろうという意志は誰もなかった。それが密かに桐生の悩みだったりする。

「ギルドを始動する時に再度建て替えられているので、今はもっと凄いですよ」

 アフゥロゥの言葉にラックは首を振り、訂正する。

 その訂正に一同は呆れるしかなかった。

「あの人はいったいどこに向かってるんだろうな」

「うーん……。どこなんでしょうかね」

 ラックにもそれは分からない。

 多くの人間は雨風が凌げて眠れれば良いとしか考えない中、何故あそこまで部屋を豪華にする必要があるのか分からない。そしてもっと理解出来ないのが、あれが、桐生にとっても「豪華」ではない事だ。

 同じ国に住む撫子も「普通じゃない?」と言っていることからして、桐生にとっては確かに豪華ではないのだろうが、ラックには、もうちょっとランクを下げても良いのに、と思う事は多々ある。それを願い出て、今はラックが泊まった時よりももう一つ下のランクが出来たわけだが。

「前に泊まった事があるっていうやつの話を聞いたが、ベッドがあり得ないほど、気持ちいいっていうのは、本当なのか?」

「……あれに慣れると、宿屋に泊まるのが苦痛になるくらいには」

 ラックの視線が困ったように揺れ動いた。

 ウソをついたというよりも、これによりまた非常識なって言われるのが嫌なのだと理解する。

「そ、そんなに凄いのか!?」

「ええ、まぁ……」

「こーんばーんはー!!」

 そんな明るい声が突如割って入ってきて、みんな突然の出来事に思わず武器を構えてその声の方向を見た。

 黒い髪に黒い瞳。ラックや桐生と同じ格好。前髪を右側で結んでいるのが、ほんの少し子供っぽいが、彼女にはよく似合っていた。

「なんだ、ナデシコ嬢ちゃんか」

「撫子さん、来たんですね」

「来るよそれは。だって今日、稼ぎ時なんでしょ?」

 楽しげ周りを見て、首を傾げる。

「先輩は?」

「桐生さんなら、上層でランタンを売るって言って、出て行きましたけど」

「そうなんだ」

 上を見つめていたが、眉を寄せて頭を振った。

「駄目だ。やっぱり先輩はどこに居るかわっかんないや」

「イヤイヤイヤ、分かったらびっくりだぞ?」

 アフゥロゥの言葉に撫子は首を傾げた。

「え? 普通、同じ教会の信徒ならだいたいどこにいるか分かるでしょ?」


『わかんねぇぇよ!!』


 当然のことのように言われた非常識な言葉にその場にいた全員が否定した。





土日また頑張ります。

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