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神に選ばれた俺は  作者: 瀬田 冬夏
第1章 ギルド
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第5話 祭りの始まり_5

GWも中盤? 後半? になりましたね。

そろそろストックが無いので、キツキツになってきました。




「へぇ。じゃあラック君が色々試して確認していったんだ」

「ええ。今も時折、思う事ではあるのですが、あの頃の僕には何が起こっているのか分からない事ばっかりで……、試験的な確認作業なんて出来たか怪しい所なんですけどね、実際は」

「……気持ちは分かるわ」

 遠い目をしたラックにレイカは頷く。

「……最初から最後まで驚きの連続でしたよ、本当に……」


 *  *



 冒険者ギルドに向かいながら桐生とラックは雑談を繰り広げる。そしてラックはある建物に気づいた。

「あの建物は教会ですか?」

 今まで王城の陰に隠れて見えなかったが、他の建物よりずっと高い建物があった。

「ああ」

 同意を得て改めてその建物を見る。まっすぐに建ち、屋根らしい屋根はなく、代わりに何体もの像があり、誰が神なのか分かりにくかった。

 多神教などという物があるとは想像もしていなかったラックは、一部は歴代の教祖や幹部達なのだろうと思っていた。

「ちなみに冒険者ギルドはあの中にある」

 桐生の言葉にラックは驚く。

 その驚きに桐生は笑いつつも、城のせいで反対側からは見えないんだよなぁ。と、不満そうな顔を見せた。

 冒険者ギルドが入っているという、建物は、異質だった。

 ラックが旅を経て見てきた建物から考えても異質だが、周囲の建築物から見ても異質で見たことのない建築物だった。

 ふんだんにガラスを使われ、夜にも目立つようになのか、あちらこちらに篝火が焚かれ、それとは別に照明の魔道具が使われているのか、第5区画全体が夜でも歩く分には問題ないくらいの明るさがあった。

 そしてその仄かな光で浮かび上がるような形で壁に彫刻も施されているようだ。

 また区画の壁に沿うように木が植えられ、可愛らしい花も所狭しと咲いていた。

 自然と調和した美しさがある。これは美の女神の教会なのだろうか。

 そう尋ねようとした時には桐生は建物の中に入っていって、ラックは慌てて後を追う。

 建物中はがらんどうとしていた。靴の音が響き妙な不安をかき立てる。

「冒険者ギルドが軌道に乗ったらここに色んな店を入れるつもりでスペースとったんだけど、何もないと不気味だよなぁ。何か展示した方がいいか?」

「え? えっと……」

「ここに人形とか置いたら……、さらにホラーかな……」

 返事が返せない間に話が進み、桐生の言うのを想像して、ゾッとした。

「止めましょう」

「そうだな止めるか」

 そんな会話をしながら歩いていたが、一つの建物とは思えないほどの広さを歩いた。中心部につくと、がらんとした様子から一変、洗練された場所へと変わった。

「お帰り桐生。その子はどっちのお客様?」

 幼女が声をかける。その子供が神であるとラックはすぐに気づいた。

「冒険者ギルドの方ですよ。ラック、ここが冒険者ギルド。受付はこっちだ」

 桐生はカウンターの中に入りノートパソコンを取り出し起動させる。その間にラックに一枚の白紙を渡した。

「こんなに早くテストしてくれる人が決まると思ってなくてな。書類今からなんだ。今はまだ仮登録って事で、また後日きちんとしたのを書いてもらうと思うが、名前と出身地と生年月日を書いてくれ」

「は、はい」

 差し出された真っ白な紙とボールペン。

「あの、インク壺は……」

「そのまま書けば書けるから」

 言われて半信半疑のままラックは名前を書き始める。本当にインクが出てきて、ラックは驚く。

 桐生はパソコンが立ち上がると急ぎ入力をしていく。

「かけました」

「おう。ついでにラック、ちょっと真っ直ぐ立っててくれ」

 言われた通り真っ直ぐ立つラック。桐生はカメラを取り出し、何も言わずにシャッターを切った。

 訳が分からないまま撮られた写真は、素の顔のラックが写っている。カメラ写りはどうやら良いようだ。

「ありがとうな」

 桐生はそれだけを言って記入させた紙を受け取り入力していく。

 ラックには何がなんだか分からない。

「少年!」

 暇だったのか、ミュークが出てきてラックを見上げている。

「冒険者ギルドにようこそ! だ! まだなーんも出来てないけどね! それなのによく来たね!」

「えっと、その冒険者ギルド? とやらを立ち上げるための前準備のために手伝って欲しいと言われて」

「うんうん。ありがとう。助かるよ!」

「いえ、泊まるところを融通してくれるだけで……」

「ああ、上を使うんだね! 楽しみにしてるといいよ!」

 ミュークはサプライズを楽しみにしている子供みたいに笑った。

「お待たせ、このプレートに血を一滴垂らしてくれないか?」

 差し出された針でラックは素直に指に小さな穴を空け、血を垂らす。

「ありがとな」

 桐生は礼を言って針を使用済みのケースに入れる。

 プレートはしばらく淡く色づいていたが、何かの文字を一瞬強く発光した後、ただのプレートに戻った。

「無事出来たか? 《解析》」

 その言葉と共にプレートの裏面に数値が現れ、それを桐生は入力していく。

「あれは、魔道具ですか?」

「うん、そうだよ。桐生と、魔道具の神達が作ったんだ」

「凄い……」

 呟いたあと、ラックは不思議そうにミュークを見た。

「あれ? あなたが……」

「違うよ。あたしは芸能の神ミューク。なんなら歌って踊ってあげようか?」

「ミュークさま。邪魔したいんですか?」

「どういう意味よ! それ!」

「芸能の神に歌われるとみんな魅入っちゃって仕事が滞るんですよ」

「ムゥ。そういうのなら仕方がない。別の機会にしてあげよう」

「ありがとうございます」

 桐生は棒読みでそう言うが、彼女は気にならないらしい。見ているラックの方がなんかハラハラした。

「よし、処理できた」

 立ちあがりカウンターに三つの小道具を置く。

「まずはコレ。冒険者カード。冒険者ギルドが発行してる会員証だ。今のところなんの効力もないが、そのうち身分証にまでのしあげてやる」

 渡されたプレートには先ほどと違って顔写真が付いていた。

「こ、これは!?」

「パッと見てもお前のだって分かるだろ? やり方は企業秘密だ。次にコレ。メニュー覧」

 そういって渡されたのはタブレットだ。

 起動方法から桐生は教えて、取り扱いの注意もする。

「メニューの中には、お前が受けた仕事、その履歴などが入っている。今回はさっき言った薬草集めをしてもらうって事でこっちで勝手に受注扱いにした。こっちの図鑑にとってくる薬草の事が少し載っている。今は中身ほぼ無いが、少しずつ充実させるつもりだ」

 仕事の履歴にはラックにしてもらう仕事が五つ、受理中となっていた。

 図鑑のアイコンを押すと、五種類の薬草の写真がでてきた。

「そのうち、モンスターの図鑑とかも出来たらいいなとは思うんだが」

 ポツリと桐生は零してから、注意事項を説明する。

「カードとメニューに関しては、壊したり無くしたりすると、再発行に金がかかる。どちらも中金貨一枚と覚えててくれ」

「ヒィ」

 ラックは青ざめてその二つを見た。

 日本円で五万だ。それは田舎から出稼ぎに出てきた青年には青ざめる金額だろう。

「無くしたり壊したりしなければ問題ない。タブレッじゃない、メニューに関してはこちらの都合により交換する場合があるが、その時はもちろん料金は発生しない」

「で、でも、そんな高いもの渡されても困ります!」

「そう言うな。その二つをこっち、この袋に入れてみてくれ」

「大きさ的に無理ですよね!?」

 ラックは触ろうともしない。まるで触った瞬間壊れると思っているかの様だ。

「これで壊しても俺が弁償するから安心しろよ」

 それでもラックは触ろうとはしない。

 困り果てた桐生にミュークが助け船を出す。

「大丈夫、桐生は君を騙して金を取ろうとしてないよ。その冒険者袋はもう君のものに設定してあるから桐生には使えないんだ」

「設定?」

「騙されたと思ってやってごらんよ! あたし達だって初めて見たときは呆れたらいいのか驚けばいいのか、分かんなかったんだから!」

「はぁ……」

「ミュークさま、そこは素直に驚いてくださいよ」

「画期的すぎて笑うでもいいよ」

「……」

 桐生は何も言わずに軽くため息をつき、ラックの動きを見守る。

 女神にまで促され、ラックは仕方なさげに二つを袋に、形だけでも入れようとすると吸い込まれるように中に入っていった。

 袋は未だ膨らんでおらず中に物が入っているようには思えない。

「……入っちゃいましたよ?」

「入っちゃったね!」

「入っちゃったな!」

 ラックの呆然とした言葉に一柱と一人は笑う。

「中を覗いて見ろよ」

 言われてラックは袋の中身を覗く。

 中に十二個のマスが見え、その中の二マスに冒険者カードとメニューと思わしき物が小さく縮小されて表示されている。

「こ、これは?」

「冒険者ギルドに登録すると貰える目玉アイテム、冒険者袋だ。作り方は企業秘密。そのうち、販売するかもしれないが、今は冒険者ギルドに登録しないと貰えない。これを無くすって事は殆どないと思うが」

 言いつつ桐生は『袋』をラックの掌に押し込むと、『袋』はラックの掌に吸い込まれて消えていった。

「……もう、何が、なんだか……」

「あはは! 凄いでしょ! 呆れるでしょ!」

「何で呆れるんだか。で、ラック今仕舞ったところ悪いがメニューを出してもらいたい。念じると左手に出てくるから」

「は、はい」

 言われた通りにすると左手の中にすっぽりとメニューが現れた。

「…………」

 もうラックは何を言葉にしたらいいのか分からなかった。

「まだ持ってる奴が少ないからな。アイテムの出し入れは目立つからポケットから出すとか、カバンから出すとかカモフラージュした方がいいぞ」

「は、はい!」

「メニューにポイントってのが有るだろ? それを押すと今の所持ポイントが見られる。履歴はこっちな」

 アイコンを押すとそこには『入会特典100P』とあった。

「このポイントを10P消費するとこのビルの二階に宿泊できる。夕食はついてないが、朝食はある。あと、お代わりチケットってのが二枚つく。実際にお代わりしてもいいが、弁当にも交換できるから、弁当にして明日の昼食と夕食にあてるといいぞ。袋に入れてたら腐らないからな」

「はい!?」

 上擦った声で返事をするが、桐生は無視する。

 パソコンを操作し、宿泊ランク1を選択、ポイント交換した。

「ラックのも更新してっと、残りは90だな? ……と、問題ないな」

 メニューをラックの代わりに押し、確認すると桐生は鍵と朝食用のカードとお代わりチケット二枚をラックに押しつけるように渡す。、

「こっちが鍵でこっちが飯の券。無くす前に袋に入れとけよー」

 桐生の言葉にラックは慌てて袋に入れた。なんだか泣きそうな情けない顔になっていた。

「こっちは使い捨てのお泊まりセットだ。使い終わったら捨ててもいいし、持って帰っても良い」

 歯ブラシや櫛などを渡す。使い捨てとはいえ、プラスチックを使うわけにはいかなかったので、割高になった。そのため『冒険者ギルド/キリュー教』の文字は入れて広告という扱いにした。

 今回は日本の企業を使ったが次回からは登録した商人に頼みたいものだなと桐生は密かに思う。

「で、こっちは、先着百名にプレゼントのアイテムだ」

 そういって一つの巾着を渡す。中身は、バリアブレスレット、身代わり人形、飲み水のカードが二枚、火種のカードが二枚、瓶詰め飴玉、痛み和らげ札二枚、転移貴石(冒険者ギルド設定)となっている。

 その使い方も説明するとラックは非常に神妙な顔になっていた。

「じゃ、施設の案内を、ミュークさま、頼んでいいですか?」

「いいよー。じゃあ行こうか、少年」

 ラックの背中を押してミュークさまは移動させようとする。しかし、ラックは動かず桐生を見つめてきた。

「何でですか?」

「ん?」

「こんな凄いもの、何でタダで上げるんです?」

「将来的には売るから」

 疑心暗鬼に陥ってるラックに笑いながら桐生は答えた。

「今までにないアイテムだろ? 百回説明するより、一回使って貰った方が楽だ。良いものなら売れる。特に命のかかってる冒険者ならな」

「……」

 ラックは暫く考えているようだったが、小さく謝ってきた。

「すみません……」

「気にするな、ウチがただそうなだけだ」

「……すみません……」

 何故か泣き出してしまったラックに桐生は本気でうろたえた。

「お、おい!? なんだ!? 俺何か嫌な事をしたか!?」

「違います! 全然違うから! 泣けてきたんです! キリューさんは悪くないです!」

「……」

 ミュークに助けを求めるように視線を向けた。

「少年、全然違うじゃわかんないよ? 落ち着きなよ。泣いたって良いこと無いよ。笑いなって」

「す、すみません。朝からずっと、門前払いばかりで、神様にも会えなくて、凄く、絶望を感じてて」

 ひぐっ、えぐっ。と、泣くラックに桐生達は理解した。

 色々傷ついていたところに優しくされて泣き出してしまったのだろう。

「そっか、頑張ったな。取りあえず涙を拭けって」

「す、すみまぜん」

 ぐすっ、ヒック。っと、しばし声が聞こえたが、やがて落ち着いたらしいラックはミュークと部屋に上がっていった。


ブクマ・評価・ありがとうございます。

書ける範囲内でなるべく毎日投稿頑張っていきたいと思います。

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