第4話 祭りの始まり_4
いつもありがとうございます。
真っ暗だったダンジョン内が徐々に明るくなっていく。
「いったん小休止だな」
「そうなの?」
「ああ、この間は新しいモンスターは生まれないはずだ。だいたい三時間くらいか。その間に睡眠と食事を取る」
「了解。んじゃ、せっかくだからランタン売り出してくる」
そう言って俺は階段を駆け上がる。
「気をつけていけよ」
「ああ」
みんなの言葉に頷いて俺は他の冒険者達を探してダンジョンを跳び移動する。
* *
桐生が飛び出して行ってすぐにラックは狩人からの買取を終え、冒険者達に尋ねる。
「いつも通りのダンジョン値段になりますが、売買する方いますか?」
「はいはーい! 俺、もうすぐ百ポイント溜まるんだ。ぜひ、お願いしたい!」
「おい。俺はお前だけの儲けじゃないだろうが」
「あと、何ポイントなんだよ」
「三ポイント!」
「「「売って良し!!」」」
パーティーメンバーは即座に許可する。
「というか、お前、いつの間にそんなに貯めたんだよ」
買取の様子を見ながらパーティーメンバーが尋ねる。自分達はまだそこまで溜まっていない。どこかでズルでもと思ったが他三名に気づかれずそこまでの差をつけるのは無理だ。
「ふっふっふっふ。マジックカードで三十ポイントゲットしたんだぜ! 即使っちゃった!」
「すげぇ!」
「あれ、当たるのか!?」
「あ、今日、オリハルコン当たってた人も居ましたよ」
不信そうに呟いた言葉にラックが否定するように言う。
「おう! 当たったぜ!」
Vサインを出すのはリラーマだ。アフゥロゥが新商品を必ず買っていく常連なら、リラーマはマジックカードをよく買っていく常連だ。
「あれって買ったこと無いんだよな」
「一回引くのに中銀貨一枚だもんな」
「お前ら何言ってんの? 一枚小金貨一枚でも安いようなのものだぜ。あれ」
「そう! もっと言ってやってくださいよリラーマさん!」
「えー。種火とか貰っても」
「砂とかもあるし」
不平不満を上げる人達にラックは苦笑を一つした。
「あ、あれ、消火用に使えますよ」
「「え?」」
「それもあるけど、マジックカードの凄い所はこっちの意志を反映して結果を出す事だ。右手にカードを持ってても、その結果を左手に出したいとか、そこの地面に出したいとか、普通の魔法と同じように使えるんだよ。ソレがお前、百ゴルドーだぞ!? しかも、この専用ケースに入れればカードの種類が違っていても一枠カウントで済むんだ! ヘタな荷物持つよりもよっぽど軽いし、種類が豊富なんだぞ! 食べ物も飲み物も色々あるし、熱々が食べられるんだぜ! あの『カレーライス』だって『ハンバーガー』だってな!」
『!!』
それは知らなかったらしいメンバーが目を見開いた。
「お、俺達が見た時にはそんなものなかったぞ!?」
「馬鹿野郎! マジックカードは日に日に種類が増えてくんだぞ!」
「五日に一回は見た方が良いレベルで増えていくな」
「最近では協力してくださる神さまも増えたので、三日に一度くらいの方がいいかもしれませんよ」
ラックの言葉にリラーマとアフゥロウが渋い顔になる。
キリュー教が販売しているアイテムはどれも画期的である。他では買えないようなものも多くある。むしろ、ほぼ他では買えない物だ。
それらの販売額は、有用性を考えると安いのだが、種類が豊富過ぎて幾ら金があってもたりない。という状況になってくる。
周りとの軋轢は大丈夫なのかと心配にもなってくるが、まだ冒険者になっている者の方が少ないので今の所は大丈夫なのだろう。
「じゃあ、俺も試しにやってみようかな。ラック、一枚」
いいつつ大銅貨十枚差し出してくる。
「あ、あれはギルド内でしか売ってません」
「あ、そうなんだ」
それは誰もしなかったらしい。みんな意外そうな顔をしていた。
「そういえば、そこの狩人さん達は今のうちに地上に戻って冒険者登録をして来た方がいいんじゃない?」
レイカが親切心でそう声をかける。
「冒険者に登録すれば、冒険者袋が貰えるわよ? もっとも貴方たちが多神教に嫌悪感がないのなら、だけど」
「どういう意味だ?」
「ギルドの運営は僕達多神教のキリュー教が主に行っているので」
「……あの第5区画に出来たやつか」
「はい」
「登録すれば、あの袋が貰えると言っていたが」
「はい。そうです。登録内容は、名前、出身地、所属する教会、所在地と血を媒体にした魔力情報を登録します。これにより、アイテム袋の所有者を登録します」
「金は?」
「冒険者の登録・会費は無料となってます。商人ギルドの方は初年度は無料、翌年からは千ゴルドーを会費として払って貰います」
「……無料だと? ……ならいったい何を対価として差し出せっつってるんだ?」
「何も」
「……何を企んでいる?」
そう彼が問いかけた時、そこに居る全員がそれぞれの笑い方で笑った。
「なんだ!」
笑われて面白いはずがない。男は思わず怒鳴る。
「いやいや、悪い悪いあんた達を笑ったわけじゃないだ。ただやっぱり、誰だってそう思うよなって思っただけなんだ」
「フフフ、みんな、そうよ。これだけのものをタダで貰えるのだもの。怪しむに決まっているわ」
「僕もそうでした」
ラックが苦笑を一つして目を閉じた。
「でも、桐生さん、いえ教祖はそんな事を全然考えてません。冒険者は命をかけている。だからこれ以上取る必要はないと。基本的にはそんな考え方なんです。命に関わる物や健康に関わる物はとても安く設定されてるんです。少なくとも自給自足できるものに関しては、ですが」
「それを信用しろってのかい?」
「信用して貰うしかありません」
「そうだなぁ。信用ができないっていうのなら諦めるしかないな。それでもいつもよりは楽だろ。あ、いくら信用が出来ないつっても、便所はきちんと『トイレキー』を使えよ」
「といれ? ああ、これか。……わけ、わかんない事言ってたけど、なんなんだ、コレ」
「お! 説明してやろうか」
アフゥロゥが楽しげに良いながら二本のトイレキーを取り、一つをリーダーに渡し、もう一つは自分が持った。リーダーの男の手首を握りキーワードを唱える。
「『解錠』」
その一言に二人の姿が一瞬にして消えた。二人が居た場所には半分に割れた鍵がクルクルと回っている。
「な、何が!?」
驚くのは狩人のメンバーだけ。
「心配しなくても大丈夫。トイレに行ってるだけだから。あ、トイレってのは便所の事だぞ」
「きっと今頃びびってるぞ。二重の意味でな」
「確かに。アレがトイレなんて初め思わねぇもんな」
けらけらと笑い声が上がる。それはラックも同じ思いだった。
昔と言う程昔でもない。ほんの数日前。まだ一月にもならない昔、ラックも同じ事を思ったのだ。
思い起こせば自分の愚かさに苦笑するしかない。
「どうした?」
「あ、いえ、ちょっとここに来た時の事を思い出しまして」
ブラッキーに答えてラックはやっぱり困ったように笑った。恥ずかしかったのかもしれない。
「ラック君はどんなご縁でキリュー教に?」
「ご縁というか、ただ僕が愚かで、キリュー教の皆さんが優しかっただけです」
レイカの言葉にラックは素直に答えた。それが耳触りの良い言葉に聞こえるだろうとは分かっていてもそうとしか言えなかった。
「田舎から出てきたその日にキリューさんに会えた僕は幸運だったと思います。あちこちの教会から断られ続け自暴自棄になりかけてましたから」
ラックはそう答えて、レイカを見る。
「興味あります?」
「ええ、気になるわね。キリュー教は、誰でも入れるわけでもないし」
「ああ……それに関しては何故、僕が入れたのか未だに謎なんですけどね」
ラックはそう答えて、周りを見回す。
「練習がてらお茶を用意しますけど」
「あら、いただけるのかしら?」
「はい、みなさんもいかがですか?」
「飲む飲む」
みんなの返事を受け、ラックはお茶を出す。
お湯も今度は自分で用意し、お茶を蒸らしながら話始める。
「教会に入会して狩人になれば楽に金が稼げる。僕もそんな夢を見て田舎から出てきた馬鹿な子供でした。そんなのごく一部の人だけ、そんな甘くないっていう大人の意見を聞かずに」
自嘲し、ラックは記憶を思い起こして話始めた。
* *
「お金が要るんですか?」
ラックは絶望の淵に立たされた表情で尋ねた。
「あのね、当たり前でしょ? 入ったその日から神の加護が貰えるの。強力な火の魔法が使えるのよ? それを力の使い方も知らない新人に渡すわけないでしょ? こちらが提示する金額を集められるだけの実力があって初めて入れるのよ。だからさっさと帰りなさい。迷惑だわ」
「か、神は、その庇護を望む者を見捨てないのでは?」
ラックはすがるように女性を見たが、女性はもはやラックを見る事もなく、窓口を閉じた。
ラックはしばしその場で立ち竦んでいたが、後ろから男が襟首を捕まえ引きずりだし追い出そうとする。抵抗を試みるが、ラックが憧れた狩人はそれを苦にする事もなく、ラックを追い出し無情にも扉を閉める。
しばらくラックは立ち尽くしていたが、早く次を探しに行かなくてはと重い足を動かし、区画の出入り口近くでうずくまってしまった。
ここに来る時に調べた教会は全て駄目だったのだ。
後は出来たての宗教しかない。そうすると、神の加護はそう大したものでもなく、モンスターと戦うに当たって役に立つかも分からない。神の加護を強くするためにはまずは布教が先だろう。
一刻も早く稼ぎたいラックにとって、教会に縛られる分、デメリットの方が多くなる。
このまま帰るわけにも行かない。だが、どうすればいいのかが分からない。夢に溢れていた分、それが崩されて、視野が狭くなり、思考が短絡的な方にと傾いていく。
「どうした?」
そこに声をかけてくる人間が居た。
黒い髪に黒い瞳。日焼けとも違う淡く色づいた白い肌。
漆黒の服を身につけ、飾りは金が使われていると思われるボタン。そのボタンには、彫刻もされている。ただの学生服なのだが、見たことのないラックにはそれが分からない。
見慣れぬ生地と服と佇まいに貴族に思えた。そのせいか、それは関係ないのか、ラックは桐生に気品と内側から溢れる魅力を感じた。
ラックはポカンとしたあと、少し照れた。同じ男として憧れたのた。
「田舎から、出てきまして……。狩人として働こうと思ったんですけど……、目当てにしてた教会には入れず……」
言いつつラックは恥ずかしくなってきた。
美味い話には裏がある。
大人の多くはラック達若者の夢を否定した。
「入れなかった?」
意外そうに彼は聞き返した。
「はい、入りたければ金を払えと」
「ああ、なるほど、中位神以上の所に行ったのか。そりゃ言われるよ」
ラックの言葉に納得がいったと笑う。
「俺は桐生。君は?」
「ラック……。ラック・ベルです」
「そうか。ラック、お前、今日寝るとこは決まってるのか?」
「いえ……」
「じゃあ、ついてこいよ。俺の仕事手伝ってくれたらタダで泊まれる場所紹介してやるよ」
「仕事って……」
今、美味い話は無いと思ったばかりだ。いくら貴族でもついて行くのは怖い。
「明日、門の外に行って、薬草を採ってくる。そういう仕事だ。採ってくる薬草の種類も多いし、薬草五枚で大銅貨一枚から薬草一枚で小銀貨一枚なんてのもある」
「本当ですか!?」
「見つけにくいクルクル草ってのがそうなってるな。ちょっとは安心したか?」
「あ……」
怪しんでいるとばれたのだろう。恥ずかしくなり顔を俯けて頬をかいた。
「ま、それぐらいでいいんじゃないか? お人好し過ぎて騙されても困るし」
「すいません」
「謝るなって。実はな俺、今度新しい事業を始めるんだ。商人や狩人、教会と教会の橋渡しみたいな感じのやつ。まずは狩人達の仕事をゲットしてこないといけないから、色んな店行ったり、教会行ったりしてさ、数は少ないが仕事を取ってきたばかりで、ちょうど、君みたいにまだどこにも属してない狩人志望を探してたんだ」
「どうしてですか?」
「君みたいに、門前払いされた子達の支援ができるかどうか、ってのを試したかったんだ。入りたい所があるのに入れないってのは辛いだろ? 個人の能力でも、性格でもなく、金の有無なんてさ。だから俺は『冒険者ギルド』を作る事にした。もちろんただの慈善事業じゃない。俺たちも利益を出すために依頼を出す側には、年会費もしくは、一つ幾らでって事で金を取るし、冒険者ギルド内のショップは月幾らって、場所代は取る。冒険者といわれる事になる狩人達は仕事を仲介料として、成功した時に手数料に10パーセント払う事になるが、最初に金を払うことはない。多くの者たちは命をかけて仕事するわけだからな。ただし、冒険者証をなくしたりすると、再発行代は払ってもらうが基本は無料だな」
「はぁ」
「でも、実際にやってみないと問題点なんて、分からないじゃん? だからラックには一週間、冒険者として働いてもらいたいんだ。で、毎日、俺に報告してもらいたいわけ。やってみてどうだったとか、これなら田舎に帰った方がましだ。とか。本当に思ったことを教えて欲しいんだよな」
「僕で出きることなら」
「商談成立」
嬉しそうに桐生は笑った。
ブクマ、評価ありがとうございます。




