日常の中での異変
新しいシリーズを作ってみました。
こっちも神さまか! って言われそうです。
俺は家に帰ると、持っていたゴミを分別して片付け始める。
窓から駐車場で遊んでいた子供達の声が聞こえてくる。だいたいは、帰るための挨拶だ。
「…………」
片付けも終わり、ゆっくりとした時間が流れるダイニング。先ほどまで体験し
ていた事を改めて考える時間が出来た。
「俺が……かぁ……」
ポツリと呟き、俺はイスに座るとそれから天井を眺める。眺めていたその天井が、白い壁紙ではなく、夕暮れの星空になっていた。一番星や、目をこらせばもう少し小さい星も見えた。
俺はしばしそれを見つめて考え事をしていたが、立ち上がると便せんを探し始めた。
便せんは見つからなかったので、メモ用紙に書くことにし、それを黒いがま口財布に入れる。その後、同じがま口財布から取り出した金に興奮し、イスの上で小躍りした後、自分の行動の怪しさに恥ずかしくなって、慌てて夕飯作りを始めた。
妹と母さんが帰ってくるのを待ちながら俺はパソコンにて仕事を行い、その横で新しいパソコンもセットアップしていた。
夕飯? もう作り終えたよ。
俺はメールを二通出す。
一人は従兄で、左隣に住む駿兄貴。ちなみにスグルと読む。
もう一人は右隣に住む幼なじみであり親友である千影。
兄貴に対しては帰宅時間の質問であったが、千影には『今日、相談したい事があるんだけど、夜暇か?』という内容だった。
しばし間が合って返事が返ってくる。
『問題ないぞ。飯食った後でいいのか?』
そんな内容だったので、書く内容を変えることにした。
『野菜たっぷり煮込みでいいのなら、持ってくぞ』
『光ちゃんが作ったのか?』
『いや、俺』
『食う』
素直だなぁ、おい。
妹の光はあまり料理が得意じゃないからな。
俺としても不味い物は食べたくないのでもっぱら俺が作ってる。おかげであいつは全然料理が上手くならないんだけどな。
将来あいつに彼氏なり旦那なりが出来た時に頑張って貰えばいいだろう。俺に被害がくるわけじゃないし。
そんな事を思いつつ夕食の量を増やそうかって思っていたら、メールが入ってきた。
「……」
『駿兄貴、七時過ぎに帰ってくるって』
戻ってきたメールの内容を伝える。
『+2時間と見た方がいいだろう』
『俺もそう思う』
駿兄貴んとこブラック企業だからな。
そんなやりとりをしながら俺はキッチンへと戻り、夕食を増量していく。
六時前に追加した分が出来上がり、取りに来るようメールを送る。返事が来る前に扉が開いたから、もう取りに来たのかと思ったが違った。
「つっかれた~」
「お兄ちゃんごはーん!」
母親と妹だった。
「一緒だったのか?」
「時間帯が合うからって帰ったら、大変だったよ、もぉー」
「重たい物持ってないんだから文句を言わない!」
どうやら一緒に帰れるよう、帰り道を変えたらしい妹の光は、そのままタイムセールに付き合わされたようだ。
「それにしても今日は良い匂いね……それに、なんだか量が多い?」
「千影とおじさん、駿兄貴の分も入ってる」
「お兄、野菜が多い!」
「お前も年頃の女なら肉より野菜が食べたいなんて殊勝な言葉を言ってみろ」
「じゃあ、肉よりイチゴが食べたいです!!」
言い放った光は、むっちゃドヤ顔である。
俺は皿を取り出し、それをテーブルに置いた。そこには真っ赤に熟れたいちごが入っている。
「食べ過ぎんなよ」
そう一声だけかけて、千影ん家の分のおかずをタッパーに詰めていく。
なんの疑問も浮かべず早速食べようとしていた光だが、部屋から母さんからが着替えてからと声をかけてくるので、大人しく着替えに行った。
詰め終わった所で呼び鈴が鳴らされて、扉が開いた。
「邪魔しても?」
「問題ないぞー」
二人が着替えているとしても、扉は閉まってるから。
「おばさん達帰ってきたんだな」
「ん?」
「声が聞こえた」
「それは近所迷惑で悪かったな」
「いや、問題無い」
千影は気にした様子もなく首を振った。
エレベーターから、千影ん家、俺ん家、駿兄貴ん家となっている。
「そういえば、駿さん、本当に七時に帰ってくるようだぞ」
「へ?」
「駐車場を歩いているのが見えた」
「マジか」
なんかあったのかな?
そんな事を思いながらタッパーに入れていたのだが。
「あら、すぐる君ももうすぐ帰ってくるの? ちかげ君のお父様は?」
「父は遅いそうです。十一時を過ぎると」
「あら、本当に遅いわね。じゃあ、一緒にご飯食べて行きなさい。すぐる君も声かけて」
「わかりました。確保してきます」
母親の言葉に千影は頷いて出て行った。
エレベーターから出てくるのを待っているのだろうか。なんて思っていると、廊下で賑やかな声が聞こえてきた。そして扉が軽く開く。
「着替えてからもう一度きますんで!」
と、駿兄貴の声が聞こえた。
……とりあえず、説明は一回ですみそうだな。
そんな事を俺は考えながら戻ってきた千影にテーブルを拭くよう指示を出す。
テーブルの上やイスにあった物の片付けは母さんがしてくれてるし。妹の光は食器洗いが専門だ。
「五人で食べるのは久しぶりか?」
「駿さんが就職する前まではちらほらあったが」
「駿兄貴んトコ、ブラック企業だよな。本人はこの業種はこんなもんだって言うけど」
ご飯を入れ、味噌汁を入れ、おでんを入れと準備している間にそんな話をする。
「深夜1時過ぎに帰宅する事も多いみたいだな」
「よく知ってるな」
「父さん待ってて起きてる時があるからな」
だからって……って、いいかけて気づいた。そういや、こいつの部屋廊下側だった。
「つか、お前も遅くまで起きてるな」
「趣味に没頭してるとな。だから父さんが帰ってくるまでって決めてる」
「……そっか」
その時間で終えるようにしている理由は、親父さんとの時間を取るためなんだろうな。
おばさんが亡くなった後、一番落ち込んでたのおじさんだったから。
「あまーい!」
突然響いた声に俺と千影は驚く。
「叫ぶなよ。びっくりするだろうが」
「お兄! このイチゴとっても甘い!」
「知ってるよ。全部食べるなよ?」
「はいはーい。仕方ないな。お兄にもお裾分け」
そう言って一摘まみして、俺の口元に持ってくる。
「……」
俺は差し出されたイチゴを一瞥したが、大人しく齧り付く。
俺がイチゴを銜えたのを見て、光はぱっと手を離し、本命へと同じようにイチゴを差し出した。
「チィ兄もどう?」
横目に見てると、わっかりやすい光の態度なのだが。
千影は口元すぐ近くにあったイチゴをわざわざ手で取り、ありがとうと言ってヘタを取り食べ始める。
残念だったなぁ。と兄貴としては笑ってしまう。
呼び鈴が一度鳴る。それを合図として扉を開け入って来たのは、着替えてきた駿兄貴。
「はーい、全員揃ったわねぇ。じゃあ、食べましょう食べましょう」
「清音さん、ビール冷やしてていいっすか?」
「どうぞ~」
駿兄貴からビールを受け取り冷蔵庫に突っ込む。
「さぁ、食べましょう。お母さん、お腹ぺっこぺこなのよ~」
皆も早速席に着き、俺も空いている所に座る。
一斉に「いただきます」と始まり、俺も言うだけ言って、周りの反応を待つ。
「「「「!!」」」」
みんなの目が見開いて、異口同音で「美味しい!」と大絶賛し始めた。
「大根、味しみてて美味しい! それに甘い!?」
「白菜おいし~!」
「腕を上げたな。いつでも嫁にこい」
「いかねえよ」
「じゃあ俺んトコ来るか!?」
「落ち着け、兄貴」
何とち狂った事言ってんだか、この二人。
まあ、反応としては気分の良い物だったので、俺もおでんを食べていく。
「ごはんも美味しい……。これ、いつものお米?」
「いつものお米。炊き方は変えた」
今日は炊飯器保温にしか使ってねぇ。
「…………味噌汁も……、お兄のくせに……」
さっきの千影のセリフのせいか、純粋に料理の味を楽しめなくなったらしい光がどこか暗い顔でそんな事を言い始める。
「面倒だなんて言わずにレシピ通りにやればいいんだよ。お前、いつも調味料おおざっぱにいれるだろうが」
「お兄とお母さんもそうじゃん!」
「長い事主婦してきてますから」
「俺は最初きちんと量ってた」
母さんと俺の切り返しに光りは何も言えなくなって、プルプルしていたが、やがてご飯を大人しく食べ始めた。
怒ってても、食べないという選択を取らないくらいには飯は美味かった。
まあ、千影がいるからって事もあるかもしれないが。
みんな進んでお代わりし、男が三名も居たせいか、鍋一杯に作ったおでんはあっという間に無くなった。
おじさんの分先に分けといて正解だったぜ。
片付けは光の担当なので皿をまとめて光に渡す。
「流しに置いたら戻ってこい。ちょっと真面目な話がある」
そう言うと光も驚いた顔をしていたが、聞こえていた周りも驚いた顔をしていたらしい。
「『相談事』というやつか?」
「そう」
「相談事? それでお前、今日俺の帰り聞いたのか?」
「うん。駿兄貴の帰りが早くて良かったよ」
「…………なんだ、やっかい事か?」
「やっかい事っていう訳じゃ無いけど、駿兄貴の手を借りたいなって思ってはいる」
「……いいぜ。どうせ仕事辞めてきた所だし、次の就職先が決まるまで付き合ってやるよ」
そんな爆弾発言に俺達の動きは止まり、ガチャンと盛大な音がした。
「わっ!?」
「光!?」
「やだ! 大丈夫!?」
「大丈夫。大丈夫だけど、ものすっごく汚れた~!」
驚いた拍子に、皿を落としたらしい。
使った皿だったからな、床は汁やらタレやらで汚れていた。
「いいよいいよ。お前は動くな。危ないから」
そう言いつつ俺は割った皿の所に行く。普通に片付けようとして、動きを止めた。
「……分かりやすいかもな。みんなちょっと来てくれるか?」
そう声をかけると、みんななんだと言いながら廊下へと集まった。
ちょっと狭かったし俺が邪魔でみんなから見難いだろう皿の破片を越えて、反対側に立つ。
「えー、実は先ほど、俺、就職決まりました」
「「「「はぁ?」」」」
「で、俺が駿兄貴に手伝って欲しいっていうのはその就職に関係あるんだけどさ。俺、さっきまで異世界に居たんだ」
「……熱でもあるの?」
「……中二病というやつか」
光と千影が神妙そうに言ってくる。俺だって、自分の身に起きなきゃ信じない
けどな。
パチンッ。
分かりやすいように小さく指を鳴らすと割れて散らばった皿が巻き戻しの映像の様に元の形に戻り、そして宙に浮いていく。その落下する直前を俺は受け取り、光に差し出す。
「もう落とさずキチンと流しに入れろよ」
光はしばらく硬直しているようだった。
「光、俺が夕飯作ったら、洗い物はお前の担当だろう?」
そう声をかけると光は我に返ったのか頷いて、それでもどこか慎重に受け取った、
「俺がさっき言った大事な話ってのは、今の力も含めてだ。皆にも聞いて欲しいんだよ」
きちんとそう告げると光は頷いて皿を流しに置き、俺達は先ほどと同じ位置に座り直した。
「まず、事の始まりは、少年の姿をした神様が俺の夢に現れてきた事だ」
今にして思えば夢かどうかも分からないけどな。異空間だったかもしれないし。
「その少年神は言ったんだ。お前は選ばれた、と」
俺は今までの出来事をゆっくりと、抜けが出ないように話していく。
お気に入りや評価をしてもらえるよう頑張っていきたいと思います。
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