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異国の少年

作者: 賀名さりぃ

あの夏からもう、三年が経とうとしていた。


出会いはとても、とても暑い日だった。


******


小学生最後の夏。目一杯遊ばない手はないよなぁ。


俺はそう思いながらプールカバンを片手に家を飛び出した。



六年生にもなると、塾へ行き出す奴らは増えたし、遊ぶとなってもみんな家でゲームだったから俺はいつも少し不満。

基本的に俺はアウトドア派なんだ。


夏休みなら、誰か一緒に川へ行ってくれるのがいるかと、普段つるんでいる奴らに声をかけてみるけど答えは決まって、


「いやだ」


どうしてか尋ねても、

「暑いじゃんか」

「塾あるし」

「家でゲームしようぜ」

といつも通りのものだった。



少しやけくそになった俺は、

「じゃ、いいや」

と言って一人で川へ行くことにした。

泳ぐのは一人でも出来るんだから、まぁいいかと思っていた。



*******



けれどそこには先客がいた。


一瞬女の子かと思うような長い髪をした奴が。


そいつの髪は金髪で明らかに日本人じゃなかった。


どうしてこんな辺鄙へんぴな川に外国人が…と少し驚いていると、そいつは俺の方を振り返って何か話しかけてきた。



何か…というのは俺にはその少年が何を言っているのか全然わからなかったから。


まぁ、いきなり日本語で話しかけられてもビックリしていただろうけど、その言葉は英語ですらなかった(英語は小学校でも少し習うから、挨拶位なら知っていた)。


キョトンとした顔で見ていると、相手にも俺に言葉が伝わらないことがわかった様で、少し困った顔をした。



でも、何かを思いついたように笑顔になって、少年はジェスチャーを始める。


どうやら、そいつは橋の上から飛び込みをしていたらしい(飛び込みにちょうどいい橋があるのだ)。


なぜこんな所に来たのかは全くわからないが、一日の遊び相手には十分だった。


とりあえず名前だけはと思ってなんとか「かける」だと伝えると、少年も「リュウ」だと教えてくれた。



後は細かいことは言わず(言うことも出来ないし)飛び込みを繰り返したり、

クロール

平泳ぎ

背泳ぎ

バタフライ

と、泳げるだけの形で泳いでみたりした。


俺は結構泳ぐのは得意だと思ってる。でもそれ以上リュウは泳ぐのが早かった。


普段から泳いでいるのか、半端ない早さで泳ぐのだ。


リュウは泳ぐのが本当に好きなようで俺が休憩している今も、休まず泳いでいる。



その姿は魚のようで、笑えてしまった。



ようやく彼が上がってきたときには夏と言っても、そろそろ泳げなくなる時間になっていた。


またリュウが話しかけてくる。


やっぱり何を言っているのかはわからなかったけれど、何となく日本語で言うバイバイ、と言っている気がした。



ある程度わかってくるもんだなぁなんて思いながら……

俺もバイバイと返して、家に戻った。


次の日、俺はまた昨日の川へ行ってみることにした。


どうせ、誰を誘っても来ないだろうし、一人で行った。


少しリュウがいることを期待していたけれど、別に明日も遊ぼうなんて約束はしていなかったし、いればいいな、程度だった。



いなければ一人で泳げばいい。

昨日も初めはそのつもりだったんだから。



川について、辺りを見渡しても誰もいなかった。


そんなに、毎日は来ないよな。


つまらない…ちょっとだけそう思ったけれど、暑い夏のことだし、冷たい川の水は気持ちよかったから一人でおよいでいた。



飛び込みをしてそのままぼぉっと浮かんでいると、橋の上から俺を呼ぶ声がした。


カケル!


少し変わったイントネーション。



顔を上げるとそこにはリュウがいて、笑顔で手を振っていた。


伝わらないとは思いながら、「暇だなぁ」なんて自分を棚上げして言ってみる。


やっぱりリュウは笑っているだけだった。





もうすぐお昼という時間だったから、二人で弁当を食べた。


俺は母さんが作ってくれたオニギリ。

リュウはサンドウィッチ。



少し分けて貰うと、たまに食べる卵サンドとは違って本格的な味だった。


食べながら会話…にはならなかったけれど、フランスから来ていることと、おばあさんは日本人なことは教えて貰えた。


その後はまた泳ぐだけ。同じことを繰り返しているだけだったけど何故か楽しいと思えた。



そうこうしているうちに夕方になって、またそこで別れた。


結局その夏休みの間はほとんどその川で遊んでいた。


そして、夏休みも終わりに近づいた頃、リュウは泣きそうな顔でもうすぐフランスに帰ることを伝えてきた。



日本語じゃなかったから、やっぱり細かいことまではわからなかったけれど…


表情でもう遊べないんだな、と何となく思った。


記念にリュウは綺麗な石をくれて、俺はその夏見つけたカブトムシやクワガタをあげた。


ほとんど話も通じないような奴だったけど、夏の思い出はその異国の少年のことで一杯だった。



日本を発つ日、俺は空港まで見送りに行って、少しだけ泣いた。


もちろん、リュウが飛行機に乗った後だったけど……



空には、朝からふっていた雨がやんで虹が出ていた。






********



あれから三年。



俺もさすがに高校受験前だったか

ら塾に行って、小学生の頃みたいには遊んでなかったけど、やっぱり川は好きだ。



その夏のことをはっきり思い出して、また行ってみようかなと思った。


久しぶりの川は何も変わっていなかった。



あのとき飛び込みをした橋も、綺麗な川も、周りの林も、金髪の少年も。





……少年も?


一瞬わけがわからないでいると、その少年は振り向いて、あのときの様に話しかけてきた。


ただ一つ違ったのは、それが日本語で「ただいま」と言っていたこと。





俺は条件反射で「おかえり」とかえした。






*********




リュウはおばあさんの家で一年間過ごすらしい。


留学、のようなものだそうだ。


中学は俺と同じ所で…と少しつっかえながら日本語で教えてくれた。




夏が開ければ、高校受験モードで単調な毎日になると思っていたけど……


また面白い日々が過ごせるかもしれないと少し笑みがこぼれた。




                      end.



               

読んで下さってありがとうございました。

水乃霰拝

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