第3話【大五郎の芝居】
ある日の授業中のことである。クラス中の生徒たちがテスト用紙と格闘していたきのことだった。大五郎がすっと席を立ち、先生のもとに歩み寄って教室中に響き渡る声でこういった。
「先生、激しい便意に襲われたので、トイレに行って大便をしてもよろしいでしょうか?」
その瞬間、50代のおばさん先生は目を丸くして『えっ?』と訊き返した。
それはクラス中の生徒たちも同じであり、みんなが一瞬自分の耳を疑った。
ただひとり泰然自若していた大五郎はもう1度同じ質問を先生にした。すると先生は戸惑いながらも『え、ええ、行きなさい』といった。
男子トイレ━━大五郎が洋式便器のトイレに入ってしばらくすると予想どおり、ほかのからかい目的の男子生徒たちががやがやしながらトイレに集まってきた。そして大五郎は用をたしたふりをして水を流し、ドアを開けてトイレから出た。
そんな大五郎を待ち受けていたのは、やはりほかの大便をした生徒たちと同様に心ないからかいと嘲笑だった。
「ハッハッハー、ついに大五郎もやっちまったか!」
「おまえもタグモの仲間だな!」
そんな男子生徒たちを大五郎は無視し、ひょうひょうとした様子で教室に戻った。




