その2
「つーワケで。こうして皆に集まってもらったわけだが」
「『皆』って言っても四人だけだけどな」
昼休み。奇跡的に全員がパン食の星名兄妹、武猪悠真、九泉ハルの四人は、それぞれの昼食を持って食堂横のテラスに集まっていた。丸く白いテーブルに、時計回りに錬、静香、悠真、ハルの順に座っている。
「色々と言いたいことはあるけど、まずはおかえり、静香」
「あ、それは僕が最初に言いたかったな。ま、いっか。順番なんて。おかえり、静香」
「ただいま! 悠、お兄ちゃん!」
「えーっと。ワタシはその、改めまして初めまして。静香」
「うん! 初めましてだね、ハル」
霊渉者+帰国子女+悠真の幼なじみの転入生ということで、休み時間ごとに揉みくちゃの質問攻めにあった静香。お蔭で午前中はゆっくり話す機会を得られなかった四人は、改めて再会を喜び合っていた。無論、静香が再び兵士となってしまったことは、錬と悠真からすれば複雑な展開ではあったのだが。
「早速一つ質問だけど。なんでお前は錬のアパートに一緒に住まねえの?」
「んー? あ、それは今日皆を驚かせたかったから昨日まで軍が用意してくれた部屋で寝泊まりしてただけ。今日からお兄ちゃんとこで住むんだよ」
ねー? とでも言いた気に。静香は兄の方を向き直るが、当の兄は渋い顔で
「ちょい待ち。そんなこと僕は聞いてないぞ」
と応じる。
「あれ? 言ってなかったっけ。じゃあ、今言いました」
「そんなあっさり言うことか」
「駄目なの? じゃあ私、今日から宿なしになっちゃうんだよ? 冷たいなあ。ねえ、ハル」
「いや、暑いですが。夏ですし」
「……」「……」「……」
流石に。ハルのその間の抜けた発言には、静香も黙り込まずにはいられなかった。
「ま、まあとにかく。静香が構わないなら僕としても問題はないけど、本当にいいのか? あんまり広い部屋でも綺麗な部屋でもないぞ。というか、ハッキリ言って狭いし汚い」
「狭いのは仕方ないとして。汚いって言うのはどうせアパートそのものよりも部屋が散らかって汚いってことでしょ? お兄ちゃん、意外とそういうところだらしないもんね」
「そういやそうだったな。たまにはお前も掃除ぐらいしろよ」
「意外ですね。レンさんはもっとしっかりしているイメージがあったのですが」
「薮突っついたら三匹も蛇出てきたよ。なにも三人で一斉に責めなくってもいいだろ……。つうか、悠真の部屋は僕とあんまり変わらない惨状じゃないか」
今の部屋も昔の部屋も。一度も見せたことのないハルにまで苦言を呈された錬は少なからずのショックを受けて俯いた。そんな彼の肩をバンバンと叩きながら、静香は、
「ま、私が帰ってきたからには大丈夫だよ! ちゃんと掃除してあげるから」
と宣言する。彼女の言葉を受け、悠真が思い出したように発言する。
「確かに。静香はそういうところマメだったな。こっちはこっちで相っ当に意外だけど」
「ただの潔癖症という可能性も拭いきれませんよ」
「二人ともひどいよ!」
「そうだぞ、お前ら。静香はゴキブリにトラウマ持ってるせいで掃除好きになっただけなんだからな。ゴキブリに磨かれた清潔感を持っている」
「お兄ちゃんの言い分が一番ひどいんだけど」
錬なりのささやかな報復なのだから、ひどいのは当たり前である。