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花咲くハルに逢う  作者: 直弥
第五章「最期」
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その4

 打ちのめされていた。錬とハルが眠るカプセルを目の当たりにして、悠真と静香は言葉を失って立ち尽くしていた。彼らの後方には洋祐。

「お前たちの怒りや絶望はもっともだ。どんな罰であろうとも、お前たち自身の手で下されるのであれば、儂は慎んで受ける覚悟だ」

 歯を食いしばり、俯き、目を閉じた洋祐は、いつ悠真たちに殴られてもいいような態勢を取った。だが、悠真の拳が洋祐にぶつけられることはなかった。

静かに口を開いた悠真が言葉を紡ぎ出す。

「俺が祖父さんを殴れば錬もハルも今すぐ目を覚ますのか? そうじゃないだろ。ああ、分かってんだよ。錬はこうするしかなかったし、祖父さんはこうさせるしかなかったんだよな。誰も悪くない。悪くないのに、架空の責任を創って、祖父さんがそれを一人で被ろうとしてんだろ? そんなことも分からないほど、俺は子どもじゃないつもりだ」

「しかしだな……」

「『それでは儂の気が晴れん』ってか? 知るかよ。そこまで面倒見きれねえ。どうしても罪滅ぼしがしたいってんなら、その罪悪感を死ぬまで背負い続けろよ。アンタにゃそっちの方がずっと堪えるだろ」

 洋祐は沈黙する。

 悠真の言葉はまったくその通りであった。なまじっかにしこりを残したままで放置されるより、痛みを伴いつつも摘出した方がいいのは当然のことである。時には、成人して尚予防接種すら嫌がる人間もいないではないが。

「だからもう、俺のことはいいよ。それより静香だろ、問題は」

 言って、悠真は横目で静香の顔を覗く。

「お兄……ちゃん…………。ハル……」

 虚脱。自失。正体もなく。彼女はただ茫然としていた。悠真と洋祐の会話もまったく耳に入っていなかった。静香は確かにここにいて、だがどこにもいなかった。

「――今すぐは無理だよな。ゆっくりでもいい。俺が必ず、静香を取り戻す」

 静香を背中から抱きしめながら、悠真は決意を固くする。想い人に抱きしめられても何の反応も示さない彼女を立ち直らせるというのは、如何にその想い人といえども容易ではない。悠真が己に課した使命は余りにも険しい。

 他方。悠真の言葉と行動と、それに対する静香の無反応を見て、洋祐は一つの事実に気が付く。錬が言った『静香をよろしくお願いします』とは、このことだったのだと。

 錬はお人好しだが、自分を見下している類の人間ではなかった――それは洋祐も、十年以上の付き合いで理解していた。

(自己の〝眠り〟が誰かに哀しみを与えることぐらい、彼に想像出来ぬはずなかったか)

 星名錬。

〝誰かの為に在る〟ことが〝自分の為に在る〟ことだった彼は、文句なしに気配りの天才だった――どう贔屓目に見ても、主人公気質ではなかった。


 後に『大霊発生』と呼ばれることとなるこの事件によって、世界中で一体どれだけの人命が失われたのか、正確な数は定かではない。どこかでは一国の大統領が死んだし、またどこかでは国民的なアイドルスターが命を絶たれ、いずこかでは本当の名も忘れられた孤児も骸になったし、粟村という名の霊渉者に至っては行方知れずとなっていた。籤で決められたかのように、無作為に人は死んだ。戦った者も、戦わなかった者も、戦えなかった者も。

 また、残された者たちは死んでいった者たち以上にいる。この日、残された者たちが、霊魔そのもの以上に脅威に感じたのは死。或いは、先永劫の別れであった。

「最〝期〟って、言い得て妙な表現だよな。誰だよ、こんなゾッとしない言葉作ったの」

 そう言って、悠真は静香を抱く腕の力を少しだけ強めた。


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