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花咲くハルに逢う  作者: 直弥
第二章「最後の再会」
12/23

その6

「やっと終わった。あー、疲れた」

「かなり片付きましたね」

 塵一つなくなった床に座り込んだ二人は、缶ジュースを飲み一息ついていた。元々ゴミ以外の物が少なかっただけあり、掃除の終わった部屋は殺風景なほどに小ざっぱりとしていた(扉の外では二十リットルのゴミ袋が二つ、パンパンに膨らんでいたが)。

「それにしても、もう十時か。早く飯にしよう」

「そうですね。流石にワタシもそろそろお腹が空いてきました」

「よし、じゃあお湯を沸かすか」

 立ち上がった錬はポットに水道の水を注ぎ込み、コンセントに繋いでスイッチを入れた。掃除中、錬がコンビニにゴミ袋を買いに行ったついでに調達してきたカップ麺とおにぎりがこの日の晩餐であった。


 夕食も終え、順番にシャワーも浴び、ハルはベッドに、錬は冬用の掛け布団を敷いた床に寝っ転がっていた。ハルは錬の寝間着を借りている。多少サイズが大きいが、仕方がない。灯りを消した部屋は真っ暗な闇に包まれていた。

「折角、兄妹再会出来たというのに。とんだことになりましたね」

「なんだ。ハル、まだ起きてたのか。まあ、大変なことと言えば大変なことになったけど。考えてみると、結果だけ見ればそれほど珍しいことでもないさ。霊渉兵士ともなれば怪我をすることぐらいある。それにしても今回は特殊なケースではあったけどさ」

「……レン、どうしてアナタに霊撃が通用しなかったのでしょうか」

「さあな。理由は分からないけど、とにかく今回はそれで皆助かったんだから良かった。一番喜んでるのは多分僕だろうな。これで悠真が病院送りにならなければもっと良かったんだけど」

 錬は自嘲気味にふと笑う。そんな彼を不思議に思ったハルは、思ったままを口にした。

「一番喜んでいるのがアナタ? 意味が分からない。どういうことです?」

「僕はこれまで、霊魔に関することは役立たずどころか足手まといでしかなかったから。どんな形にせよ、悠真たちの役に立てたことが嬉しいんだよ。だからどうして僕に霊撃が通用しなかったのかなんてことはこの際二の次だ。だって、これからも悠真や静香の力になれるのかもしれないんだから、原因なんてどうでもいいんだ」

「それは――自分が何者なのかということを放棄するということですか?」

「大げさだな。自分が何者か、なんて。ちょっとした特異体質みたいなもんだろ、多分。もしかしたら霊渉の一種かもしれないけど。って、考えてみれば確かになあなあで放っておくようなことでもないな。霊撃が通用しない、なんて。明日、悠真の見舞いついでに洋祐さんに話してみるか。病院では言いそびれたし」

「まったく。お部屋の散らかり具合といい、アナタは意外にいい加減ですね」

「悪かったな。とにかく今日はもう寝よう。ハルも疲れてるだろ?」

「……そうですね。それではおやすみなさい」

「おやすみ」

 目を瞑り、先にまどろみの中に溶けて行ったのはハルであった。先に『もう寝よう』と言った錬は、目は瞑ったものの、まだハッキリとした意識を保って考え事をしていた。

(自分のことも気になるけど、ハルのことも聞いてみようかな。明日、洋祐さんに)


 ◇

 深夜二時を回った軍施設の一室で、武猪洋祐と、彼の一つ年下の部下が、それぞれ同じ資料を片手に話し込んでいた。

「なあ斎藤、この世界の人間は、本当に※※の人生を犠牲にしてまで守らなければならないものなのだろうか」

 洋祐からの質疑を受け、しばし思案してから、斎藤と呼ばれた男が口を開く。

「……司令、私が昔読んだ漫画の一節で、子ども心にとても感心したものがあります。甲曰く『一個の命は地球全体に匹敵するほど重い』。乙曰く『その地球にどれだけの命があると思っているのだ』」

「――お前の言い分は分かった。しかし、割り切れんものだな。それに遣り切れん」

「私とて納得しているわけではありません。しかし、それも仕方のないことです。『主人公』などというものは、物語にだけ存在できる空想の産物。唯一絶対の人物など、実際にはいやしないのですから。誰でも死ぬ時は死ぬ。生き残る時は生き残る」

「残酷なまでに平等だな。世界というものは……。※※一人の人生と全人類の命を天秤に掛ければ、傾く方は明らかというわけか」

 やれやれと、二人は肩をすぼめる。

「話は変わりますが、悠真君が入院している間、第四室の守りはどうするおつもりで? 三日間とは言え、油断は禁物でしょう。自由自在には動き回れない立場にある司令と、ナルナから送られてきた『静霊(カドシュ)』の少女だけで第四室全体を守るのは難しいでしょう? この間も、動ける霊渉者のいなかった第三室が、中規模以上の被害を被ったところですし……。あれの二の舞は御免ですよ」

「心配は要らん。ちゃんと代理は呼んでいるよ。既に今日の昼間、ここへ到着している」

そこへ、一本の電話が入った。斎藤の携帯が着信音を鳴らす。

「失礼。なんだ、こんな時間に。……なに? うん、うん。そうか。分かった。ちょうど今ここに司令もいらっしゃる。私から直に話す。じゃあな」

 携帯電話を切った斎藤に並々ならぬ不穏を感じ、洋祐はすぐさま彼に通話内容の確認を取る。

「どうした、何があった?」

「実は、つい一時間前のことなのですが――ベルリンに出現した霊魔が、一度消失してから再び現れ、また消失し、三度(みたび)出現したと」

「? どういうことだ? 姿を消す能力を持った霊魔とかではないのか?」

「いえ。向こうのセンサーによると確かに二度〝消失〟したとのことです。センサーにも写らないような消失能力を持つ霊魔はかつていなかったでしょう? それに、三度現れた霊魔は間違いなく全て同個体ということです。未知の能力を持った霊魔が出現したとも考えられなくはないですが、しかしおそらくこれは……」

「ああ。どうやら想像よりは遥かに猶予は少ないようだ」






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