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綺石のクラウン  作者: もももか
第十章 『セラフィナイト』
99/145

VIII

同じ頃。

東の大国、フローライト王・ジェダイトを乗せた馬車がある城の前に止まった。

開けられた扉。

地に足を付け、目の前に高々とそびえる城を見据える。

東国連合・シャーマナイト。

その拠点となるのが目の前にそびえるシャーマナイト城だ。

黒に蛇の紋章が入った御旗が風にはためく。

この国の特産である鉄鉱石から鉄を製造する際に出た黒煙のせいで、空は昼間なのに薄暗い。

「ひぇ〜……相変わらずでっけぇ城だな」

同じ様に馬車から降りるなり、城を見ながらデマントイドが間延びした声で言う。

懐から煙草を取り出し、近くにあった松明から火をもらう。

「こんな時ぐらい我慢しろ」

「硬い事言うなよ」

「同盟国内だぞ」

「城の外だし問題ねぇだろ」

ジェダイトはそれ以上何も言わなかった。

デマントイドが吸う煙草の灰が数回地面に落ちる頃、数人のシャーマナイトの兵士がやっと迎えに来た。

黒い鉄が全身を覆う甲冑。

一糸乱れず敬礼する動きにデマントイドは口笛を吹いた。

「フローライト王・ジェダイト様、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」

案内に従いジェダイトは兵士の後に続く。

デマントイドも煙草を踏んで火を消し後に続く。

城内の軍の訓練施設に案内される。

道中、開発された軍事兵器が所狭しと並んでいて、それらを使いこなす兵士が訓練をするの姿が見えた。

「物騒なモン溜め込んでんな〜」

どこか他人事のようにデマントイドが呟く。

シャーマナイトは大陸の中でも有数の軍事国家だった。

国の特産品の鉄鉱石は武器に、甲冑に、兵器に使われている。

鉄鉱石を発掘する者、それを加工し武器を製造する者、その武器を戦で使用する者……国の全てが戦で回っていると言っても過言ではなかった。

シャーマナイトが絶対的な技術で軍事国家にのし上がったのは数年前。

先代は築城が趣味の欲深い王で、その前の王はどちらかと言うと非戦を唱えていたという。

軍事主義になったのは今の政権からだ。

「プラチナ陛下、お連れ致しました!」

黒い鎧の兵士が声を張る。

前方に一際細やかな細工が施された黒い甲冑に身を包んだ、軍人にしては線の細い人物が一人、声を聞いて振り返った。

黒いマントが風ではためく。

頭部も同様に黒い鉄で覆われ、表情は伺えない。

近くにいた兵士に伝言を伝える。

その兵が此方に近付き言う。

「今から最新の兵器をお見せいたします。轟音のため、耳をお塞ぎください」

ずらりと乱れなく一列に配備された黒い兵士。

皆、黒鉄製の細長い銃を装備している。

その数十メートル先には敵を模した藁人形が数百体並んでいる。

「何だありゃ?」

「言われた通りにしろ」

ジェダイトに言われ、デマントイドは渋々手で耳を塞ぐ。

伝言を伝えた兵が合図すると、黒マントの人物は片手を高く上げる。

整列した兵たちは一斉に銃を構える。

ほんの少しの静寂。

黒マントの人物の手が振り下ろされた瞬間、凄まじい轟音が辺りを裂いた。

手で塞いでいたはずなのに耳鳴りがする。

漂う火薬の匂いと、立ち込める煙。

風が吹き、視界が晴れるなり、ジェダイトとデマントイドは驚愕した。

遥か向こうに並んでいた藁人形が見るも無残な姿になっていた。

黒マントの人物はゆっくり此方に歩み寄って来る。

「プラチナ、これはどういう騒ぎだ?」

ジェダイトは黒マントの人物に問うた。

シャーマナイト女王・プラチナ。

絶対的な軍事国家を築いたその本人だ。

「見て分からぬか?開発した新兵器だ」

凛と冷たい声でプラチナは言う。

プラチナの足元に跪く一人の兵士が、先程使用した黒鉄の銃を手渡す。

「美しいだろう?我が国が誇る技術の結晶だ」

様々な角度から銃を眺める。

放り投げられたそれを慌ててデマントイドが受け取る。

「従来のものから更に改良を加えた。発動時間、製造工程、まだまだ問題点は尽きぬが、実戦投入し起動に乗れば結果は見ての通りだ」

「これを私に見せるために呼んだのか?」

「五百ほど貴殿のために作らせよう。まずは手薄になったチャロアイトだ。あのスカした豚野郎を海に沈めてやる」

チャロアイトの軍事縮小の話は東国連合にも届いていた。

丁度ジェダイトの耳にそれが届いた頃、目の前にいるプラチナから来城要請が来た。

「主軸となるチャロアイトを潰せば後はなし崩しだ。サンドライトとラズライトも同じ……この機を逃すわけにはいくまい」

ジェダイトはデマントイドから銃を引ったくり、プラチナに放り返した。

今度はプラチナの足元にいた兵士が慌ててそれを受け取った。

「不服か?」

頭部を覆うヘルムのせいで表情は伺えなかったが、鼻で笑われたのは確かだった。

「言ったはずだ。フローライトはこの戦から手を引くと」

「まだそんな冗談を言っているのか」

「新たな兵器は新たな争いを生む」

「もう剣で正義を語る時代は終わりだ。これからは銃で力を示す時代だ」

ジェダイトの表情が強張る。

「貴殿の兄なら賛同してくれただろうに」

「兄者は兄者、私は私だ。私は私のやり方でフローライトを守る」

「守っていては道は開けぬ。攻めて勝ち取る事が最大の防御だ」

再度兵から銃を引ったくり、ジェダイトの前に差し出す。

「受け取れ」

差し出された銃を受け取る事の意味を、ジェダイトは理解していた。

新たな兵器で西国を、邪魔者を一掃する。

それはロイヤルゲームでのアレキサンドライトの願いに背く事であり、自分の信念に反する事であった。

受け取る気配のないジェダイトにプラチナは笑う。

「残念だ」

「プラチナ、もう戦はやめよう。これ以上は双方一利も生まぬ」

「引き下がる気か?」

「我々には他にすべきことがあるはずだ」

「ここで全て叩かねば後々厄介だ。我はそんな面倒事は御免だ」

プラチナは身を翻す。

「ジークハイル!!(勝利万歳)」

手を高く伸ばし、声を張る。

シャーマナイト式の敬礼。

そのプラチナの言葉に兵士たちが答える。

「ジークケーニギン!!(女王万歳)」

全ての兵が立ち上がり、乱れの無い動きで敬礼に答える。

その圧倒的な光景にデマントイドは息を呑む。

「戦は勝たねば意味がない。何が何でもだ」

プラチナはどこか言い聞かせるように呟いた。

「殺し合いをしてきた者同士が本気で手を取り合うと?笑わせるな。そんな絵空事、本気で信じているわけではあるまいな?」

「生憎だが、他国でも私と同じ意思を持つ者がいる。今は貴殿の声が正しく聞こえるかもしれぬが、何れ取り残されるのは貴殿の方になる」

プラチナは一度笑い、間を開けて口を開く。

「……これは風の噂だが、我ら東国連合に内通者がいる」

ジェダイトは何も言わずプラチナを見据える。

「我らの思惑は全て西国のサンドライトに筒抜けらしい。他の東国諸国からも疑いの声が上がっている。現に勝てる戦にも賛同しないときた」

これにはデマントイドが黙っていなかった。

「女王陛下、アンタうちの王様疑ってんのか?」

「我らを信頼してくれていないと取れるが?」

「顔も見せねぇ相手に腹割れるわけねぇだろうが」

頭を差しながらデマントイドは臆する事なく言う。

デマントイド自身、戦場でも、軍議の場でも一度もプラチナの素顔を見た事が無い。

常に黒い鉄の鎧とヘルムで覆い隠されたプラチナの本心を見抜けた試しがなかった。

ジェダイトは真っ直ぐプラチナを見つめ言う。

「仮に通じて居た場合、私を処分するのか?」

「フローライトは東国兵力の要だ。我らが量産した武器も使う人間がいなければただの持ち腐れだ」

「ではどうするつもりだ?」

「従わせればいい」

簡単な話だとプラチナは言う。

「サンドライトと通じているのなら、此方に引き込めばいい。仲が良い相手が近くにいれば、貴殿もやり易いだろう?」

「おい、誰も通じてるなんて言ってねぇだろ?」

デマントイドの言葉に耳を貸さずプラチナは続ける。

「貴殿の汚名、我が晴らしてやろう。聞く所によれば、サンドライト王は『ゲーム』を好むそうだな。我もゲームは大好きだ」

ゲームという言葉に、ジェダイト、デマントイドの目の色が変わる。

「プラチナ……何を考えている?」

その問いかけにプラチナは答えなかった。

代わりに背後に控えた一人の黒い騎士に投げかける。

「楽しみじゃないか。なぁ、アメジスト?」

高い背丈。

広い肩幅。

漆黒の鉄の鎧とマント。

そして表情が読めない重厚なヘルム。

アメジストと呼ばれた騎士は静かに跪く。

「女王陛下の、仰せのままに……」

絶対的なその言葉に満足し、プラチナは颯爽と踵を返す。

「次は我が相手だ。アレキサンドライト……」

ヘルムの奥、漆黒の瞳が光る。

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