VII
クオンタムの地図通り、他の通りより古い街並みの東通りに足を進めている途中、一つの雑貨屋の前を通りかかった。
店の前で髪飾りや腕輪など、色とりどりのアクセサリーが並んでいる。
ルーベライトは目を輝かせそれらを見ている。
「いらっしゃい、お嬢ちゃん」
「少し見せてくださいな」
「あいよ」
店主と思われる背が曲がった老婆がニコリと頷くと、ルーベライトは飾られたアクセサリーの一つ一つを眺める。
「あんたも大変だねぇ。女子はこういうのが好きじゃからのぉ」
笑いながら言うと、アレキサンドライトは照れながら軽く会釈した。
たくさん並んだアクセサリーの中、一つの指輪に目が留まった。
細い金色の輪に小さな薔薇の細工が付いた小指用の指輪だった。
「付けても構わんよ」
言われるがままに小指にはめてみると、彼女の白い手にアンティークゴールドがとても映えていた。
「綺麗ですね」
「お嬢ちゃん、薔薇が好きなんか?」
「はい」
「よく似合ってるよ」
アレキサンドライトも一緒になってルーベライトの手元を見る。
細い小指にかかる細い金細工。
中央にある小さな薔薇が彼女を表しているようで、とてもよく似合っていた。
財布を取り出し銀貨を数枚老婆に渡すと、老婆は毎度と頭を下げた。
「そんな。悪いですわ」
「いいよ、大した額でもないし」
「でも……」
「私にも『お小遣い』があるから。気にするな」
アレキサンドライトも王と言っても一人の人間だ。
欲しいものもあれば買いたいものもある。
物の価値を知るという点で、幼い頃から多少の小遣いをもらっていた。
しかし、買い物と言っても殆どがセラフィナイトが代わりに買ってくるため、流行りの小説や教養のある参考書などにしか使った試しがなかった。
「良かったなぁお嬢ちゃん。薬指に付ける指輪はもっと良い店で買ってもらうんだよ」
目を細めて笑う老婆。
アレキサンドライトは言われた意味がわかり、顔を赤らめる。
老婆に礼を言いながらルーベライトの手を引いて、足早にその場を後にした。
暫くは笑いながら早歩きでアレキサンドライトに付いていたルーベライトだったが、アレキサンドライトの足の早さが一行に戻らないため、首を傾げた。
「どうしました?」
「つけられている」
小声だが、はっきりと彼は言った。
「誰にですか?」
「後ろにいる」
言われてルーベライトは後ろを振り返った。
城にいた近衛兵四人組が慌てて物陰に隠れているのが見えた。
「皆さんもお買い物でしょうか?」
「私とルーベを尾行している。きっとセラフィナイトからの命令だ」
少し不機嫌な声音にルーベライトはもう一度後ろを振り返える。
頑張ってこちらの後を追う四人組に手を振ってやる。
「おい、姫様にバレてるぞ」
「ていうか陛下にもバレてるかも」
「どうする?」
「様子見るのが命令だし、このまま帰れないよ」
ルーベライトはアレキサンドライトを見上げ言う。
「怒っているのですか?」
「私を信用していない証拠だ」
「心配で来てくれたのではないでしょうか?」
「同じ事だ」
目の前に大通りの合流点がある。
丁度数台の荷馬車がゆっくりと横断しようとしているのが見えた。
「ルーベ、走れるか?」
「え?」
次の瞬間、アレキサンドライトは走り出した。
驚いたルーベライトだが、彼の手を握りながら何とかついて行く。
走った勢いで帽子が脱げ落ち、赤い髪が流れる。
走り出したアレキサンドライトたちを見て、慌てて四人組も後を追う。
しかし、荷馬車の間を上手い具合にすり抜けられ、四人が大通りに差し掛かる頃には驚いた馬たちが急停車してしまう。
アレキサンドライトたちが走る通りの向こう側に渡れなくなってしまった。
「おい!陛下見失っちまったぞ!?」
「まずい!セラフィナイト様に怒られる!!」
「きっと陛下にも怒られるね……」
「あーぁ、どうすっかねぇ〜」
うな垂れる四人組の元にクオンタムが歩み寄る。
「もう!揃いも揃って何やってんのさ!」
「だって陛下足早いんだもん……」
「そうだそうだ!」
「王様に逃げられてちゃダメでしょ!?君たち近衛兵なのに!」
「その通りです……」
「返す言葉もございません……」
落ちていた帽子を拾い、付いた埃を払いながらクオンタムはつまらなさそうに言う。
「アレクも行っちゃったし、つまんないから僕帰ろっと」
「え!?」
「画材買いに行きたかったし、お店閉まる前に行かなきゃ。あ、アレクとセラフィナイトには黙っててあげるよ。もうバレちゃってると思うけど。じゃあねー!」
にっこり笑いながら手を振って通りを行くクオンタム。
取り残された四人組はその場に立ち尽くしていた。




