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綺石のクラウン  作者: もももか
第十章 『セラフィナイト』
96/145

V

「絵は進んでいるのか?」

「うん!モデルが良いから捗ってるよ!」

坂道を下りながら三人はクオンタムの描く絵の話をしていた。

「やっと全体塗り終えた所なんだ!あとは詰めの作業だから気合入れないとね!」

「そうか」

「僕も今日画材買いに行くんだ!一緒できて嬉しいよ。ね、ルーベさん?」

そう話を振ったが、返事が帰ってこない。

見るとルーベライトが坂道から見える城下町に目を奪われていたからだった。

王都・サンドリア。サンドライトで最も活気に満ち溢れた城下町。

行き交う人々、立ち並ぶ家や店、見た事のない景色にルーベライトは目を輝かせている。

「大きい街でしょ?びっくりした?」

「はい!」

ずっとラズライトの塔の中で過ごしてきたルーベライトにとって、サンドライトは見た事のない景色で溢れた夢のような世界だった。

「こんな所で満足してたら保たないよ?サンドリアには素敵なお店い〜っぱいあるんだから」

自然と足が早くなるルーベライトに、転んだら危ないよと後を追いかけるクオンタム。

自分たちが何年もかけて築いてきた街を見て喜んでもらえた事が、アレキサンドライトは嬉しかった。

坂道を下りると、ルーベライトは一層目を輝かせた。

果物や野菜、衣類の生地や雑貨など、様々な店が立ち並び、通りを多くの人々が行き交う。

商人が威勢の良い声で客を呼んでいる。

子どもたちが大人の合間を縫って楽しそうに駆けて行く。

至る所に演奏家が自慢の腕を披露し、街には楽し気な音が満ち溢れている。

「今日は人でいっぱいだね。祝日だから仕方ないか。ルーベさん、はぐれないようアレクに捕まってるといいよ」

そうクオンタムに言われたものだから、ルーベライトは言われた通りにアレキサンドライトの腕を持つ。

途端驚くアレキサンドライトに首を傾げる。

「どうかなさいました?」

「い、いや……」

「何驚いてるの、生娘でもあるまいし。じゃ、まずは僕のオススメのパン屋さんから行こうか!」

そう言い先を行くクオンタムに二人は後に続いた。

その少し後ろを甲冑姿の四人組が店の物陰から見守る。

「あ〜ぁ、折角の休みなのになんでこんな事しなきゃなんねぇんだ……」

「しょうがないだろ、それが仕事なんだから」

「でも面白いよね。稽古してるより何倍もマシだし」

「陛下にバレたら怒られるで済まないだろうけどな」

セラフィナイトから下された命令。

主君であるアレキサンドライトの護衛。

そして追跡。

その任務を全うするため、四人組は気付かれぬよう物陰に隠れながら尾行している最中だった。

「おい!姫様が陛下の腕取ったぞ!」

「やっぱりあの二人、いい感じなんだな〜」

「くそう!悔しくなんてねぇぞ!」

「ほら、追わないと見失っちゃうよ!」

四人組は一行の後に続く。

しかし、騎士である甲冑姿で身を潜め、コソコソと尾行しているものだから、街を行く民衆から奇怪な目で見られている。

「ママ、あれ何?」

「しっ!見ちゃいけません!」

そんな会話が聞こえても、任務を全うするのが近衛兵の仕事だ。

興味を惹く店の前を通る度、ルーベライトが足を止める。

店主の話を聞き、クオンタムのうんちくを聞き、ルーベライトは楽し気に頷いている。

その後ろでアレキサンドライトは一緒になって街の様子を楽しんでいた。

こうして自分の目で、民のありのままの生活を見て体感できる機会は本当に少ない。

ルーベライト同様、それらが自分の目で見れるのが嬉しい様子だった。

通常の数倍時間をかけて、目的の場所に着く。

噴水のある広場。

空いていたベンチにハンカチを敷いてやると、ルーベライトは嬉しそうに礼を言って座った。

「疲れたか?」

「いいえ。とても楽しいです」

アレキサンドライトの心配にルーベライトは首を振って答えた。

サンドリアには五つの大通りがある。

その中でも、サンドライト城から街の中心部であるこの広場まで続くメインストリートを歩いてきた。

まだその通りの半分も歩いていないのに、これでは一日で全て回れませんねとルーベライトは笑う。

「全部回る気でいたのか?」

「はい。貴方や皆さんが大切に築いてきた街ですもの。皆さんとても楽しそうですね。こちらまで楽しくなってしまいます」

周りを見渡しルーベライトは言った。

「でも流石にこんなに広いと目が回ってしまいそうです」

「そうだな」

アレキサンドライトも釣られて笑っていると、買い物を終えたクオンタムが戻ってきた。

「お待たせ〜!丁度焼き立てあったから買って来たよ!」

熱いから気を付けてねと紙に包まれたパンを渡してやる。

ルーベライトはその暖かさに感動していたが、いつまで経っても食べる気配がなかった。

「あれ?パン嫌い?」

「いえ、どうやって食べたらいいかわからなくて……」

「かぶりついちゃいなよ」

「いけませんわ、はしたないですし」

手で千切るには火傷してしまう。

ここまで来て周りの目を気にしているルーベライトにアレキサンドライトは声を出して笑った。

「いいよ、そんな事。今は誰も、君がラズライトの姫だと思ってないよ」

「そうそう。逆にかしこまって食べてる方がヘンだよ。こうやって豪快に食べるのがサンドリア式だよ」

いただきまーすと美味しそうにパンを頬張るクオンタム。

アレキサンドライトも一緒になってパンを頬張る。

「美味しい」

「でしょ?」

「城で出されるのも美味しいが、この味も私は好きだ」

「『王室御用達』にしないでね。気軽に食べれなくなるから」

二人のやり取りを見ながら、ルーベライトも口を開けパンを頬張る。

外はさっくりとしていて、中はふかふかと柔らかい。

生地に練りこまれたバターがいい香りを出していて、空腹を満たしていく。

「美味しいです」

「良かった、喜んでもらえて。いつも美味しい紅茶ご馳走してくれてるお礼だよ。たくさん食べてね」

「ありがとうございます」

「こうやって気軽に食べるのも悪くないな」

すっかりサンドリア式の食べ方が板についたアレキサンドライトを見て、彼の応用力の高さに感心するクオンタムだった。

「あそこのパン屋さん、確かに美味しいよな」

「いいな〜焼き立てなんて食った事ねぇぞ」

「見てると腹減ってくるな」

「美味しそう〜」

物陰から見守る四人組もパンを食べる三人を見て腹の虫を鳴らす。

丁度昼ご飯時だ。

任務とは時に過酷で残酷である。

パンを頬張りながら、アレキサンドライトはクオンタムが買い込んできた買い物袋を見た。

三人で食べるには量が多いのと、金額が心配になったため、尋ねてみた。

「ちょっと買いすぎじゃないのか?」

「大丈夫大丈夫!今日特別セールだったから!」

「特別セール?」

「パン屋のおじさんが『アレキサンドライト陛下に声をかけられた日記念セール』って言ってたよ」

自分に声をかけられた?

アレキサンドライトは意味がわからず首を傾げた。

「アレクが前にサンドリアに来た時、たまたまパン屋のおじさんがアレクが通る場所にいて『励んでください』って声かけてくれたんだって。覚えてない?」

サンドリアには何度か視察に訪れただけでなく、凱旋する際にもパレードルートとして訪れている。

その時に声をかける機会があったのだろう。

「はっきりとは覚えていないが……そんなことでセールをするのか?」

「国王陛下に御言葉貰えるなんて民衆にとっては名誉なことだしね。よく顔合わしてる僕が言うのもなんだけど、言われた方は嬉しいし、一言でもずっと覚えてるもんだよ」

ルーベライトも思い出したのか後に続く。

「先程通りかかった雑貨屋さん、アレクに似た方の肖像画を飾られてました。もしかしてアレクの肖像画だったのかもしれませんね」

「あぁ!あのおばさんアレクのファンなんだって!遠目でしか見た事ないからどんな顔してるか知らないって言ってたけど」

「皆さん、貴方の事を慕ってらっしゃるのですね」

アレキサンドライトが照れ隠しに視線を逸らすものだから、ルーベライトもクスリと笑ってしまう。

「でもあの肖像画ひっどいよねー。全然似てないし!毎回通る度に笑っちゃうよ。誰が描いたんだろ?」

「私も最初、誰かはわかりませんでした。でも、少しでもアレクを近くに感じたい気持ちは伝わりました」

「僕が描いた作品あげようかな。こっちのが似てますよって。でも見たことないんじゃ信じてくれなさそうだしな」

「私の絵なんてやっても喜ばないだろう?」

「そんなことないよ!何ならさっきの店戻る?おばさん感動して店どころじゃなくなるよ?」

「……いや、遠慮しておく」

顔を赤くしながら残りのパンを食べる姿に二人も笑いながら焼き立てのパンを堪能する。

腹も満たされた頃、そう言えばとクオンタムは切り出した。

「お茶っ葉、ここの通りで見かけなかったね」

「やはり街にもないのでしょうか?」

「どうだろう。唯でさえ品薄だからね……あ!ちょっと待って」

閃いたクオンタムは鞄の中を探り、木炭と紙切れを出し、簡単な地図を書く。

「東通りなら古いお店が多いから置いてるお店あるかも」

「本当ですか?」

「ここが今居る噴水広場。で、ここの角を曲がって、突き当たりを行って……」

クオンタムの説明に耳を傾けるアレキサンドライト。

ルーベライトも一緒に聞いていたが、やはり初めて来た場所では道順を理解できそうになかった。

「だいたいわかった。行ってみる」

「本当に大丈夫?僕付いて行こうか?」

「これでも騎兵団を指揮する身だ。街の中くらいで迷わないさ」

クオンタムが書いた地図を受け取りアレキサンドライトは立ち上がる。

「日暮れまでには戻らないとな。ルーベ、行こうか」

「はい」

「じゃあ僕画材屋さん行ってくるから。わかんなくなったら近くの優しそうな人に聞きなよ」

手を振ってクオンタムと分かれると、アレキサンドライトとルーベライトは地図通りに街を行く。

「あ!陛下が動いた!」

「え!?ちょっと待って俺まだ食ってない!」

「何やってんだよ!早く食え!」

「見失っちゃうよ!」

空腹に耐えきれなかった四人組がその辺りで買ってきたサンドイッチを食べている時だった。

移動しようとしているアレキサンドライトを見て慌てた一人が抱えていたサンドイッチを落としてしまった。

「あー!僕まだ一切れしか食べてないのに!!」

「しょうがないだろ!?てかお前さっき俺の事押しただろ!?」

「押してねぇよ!お前が勝手に落としたんだろ!?」

「あーぁ。もったいない……」

せっかくのランチを落としてしまい、揉めていると声を掛けられた。

「何してるの?」

クオンタムだった。

「ひぃぃぃぃ!?」

「いや!これは、その、えっと!!」

「別に怪しい事では!」

「散歩だよ散歩!」

明らかに慌てる四人組にクオンタムはニヤリと笑う。

「はは〜ん?さてはセラフィナイトに言われて尾行してるんでしょ?」

「ど、どうしてそれを!?」

「馬鹿!言ったらバレるだろ!?」

「てかもうバレてるよ!」

「あ、あの、お願いですから陛下とセラフィナイト様には黙っていてもらえませんか?」

「う〜ん。どうしよっかな〜」

勿体ぶるクオンタムに四人は土下座して許しを乞う。

「お願いです!この通りです!」

「もしバレたら減給どころじゃ済まなくなります!」

「田舎の親を泣かせたくないんです!」

「お願いします!」

「しょうがないな〜。いいよ、僕は心が広いからね」

「ありがとうございます!!!!」

「その変わり、僕もついて行くよ!」

「え!?」

「だって面白そうじゃん!こんな機会滅多にないし。それに二人をそのままにしておくの心配だったしね」

満面の笑顔で言うクオンタムとは対象的に、四人組は顔を引き攣らせた。

早くしないと二人を見失うとクオンタムは四人組の背を押しながら、物陰に隠れながらアレキサンドライトたちの動きを見る。

「でも意外だな〜セラフィナイトって案外過保護なんだね。まぁらしいっちゃらしいんだけど……」

「セラフィナイト様は陛下が子どもの時から傍にいますから」

「身分や立場だけの心配じゃないんだろうな」

「そのお陰でこうして俺たちが休日出勤してるわけだけどな」

「いや、案外セラフィナイト様も姫様のこと狙ってるのかもしんないぞ?」

「えー!?何それ面白い展開!」

「そんなわけないだろ」

「お前のゴシップネタ程信憑性に欠ける話はないからな」

「おい!人を嘘つき呼ばわりするんじゃねぇよ!よく陛下と姫様が二人でいる時遠くから見てるだろ?案外陛下じゃなくて姫様の事見てたんじゃねぇの?」

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