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扉をくぐると、真夜中の教会は静まり返っていた。
月明かりが色硝子を照らし、床に虹色の模様が現れる。
見慣れたサンドライトに戻った途端、アレキサンドライトは崩れるようにその場に膝を付いた。
驚いたルーベライトが駆け寄ると、彼の体は小刻みに震えていた。
「アレク、大丈夫ですか?」
整わない息、滲む汗。
背中を優しく摩ってやると、やっと深く呼吸をしてくれた。
「さすがのアレク様も今回ばっかしは危なかったね〜。正直もうダメかと思っちゃったもん」
その様子をケラケラと笑いながらルシファーは話す。
「ま、偶然でも勝ちは勝ちだかんな!お願い事もベルゼブブが責任持ってきかしてくれるだろうし、そんな怯えんなよ。な?」
軽く肩を叩こうとしたら、鋭い剣幕で跳ね除けられた。
「私に触れるな!」
「何だよ、せっかく慰めてやろうと思ったのに。ま、いいや。またゲームがしたかったらいつでも呼んでくれよな。バイにゃら〜!」
そう手を振り、死神・ルシファーは姿を消した。
肩で息をするアレキサンドライトの背を優しく撫でる。
「……今回は、偶然だ。もしあの時、目の前に剣が落ちてこなかったら……私は……!」
自分の手が震えている。
剣が手の届かない所まで弾かれていたら。
あと数秒タイミングがずれていたら。
そう考えると、身体中の震えが止まらなかった。
「私は……今頃、」
言いかけたアレキサンドライトの唇に手をかざす。
「大丈夫です。大丈夫ですから」
ね?顔を覗き込んで微笑む。
アレキサンドライトは震えの原因を知っていた。
死の一歩手前だったからというのもあるが、何より、『自分の正義が貫けなくなる』事に対して、とてつもない恐怖心を抱いてしまった。
しかし、ずっと自分に寄り添って、何度も大丈夫だと囁いてくれるルーベライトの声が心地良くて、アレキサンドライトはゆっくりと瞳を閉じた。
今だけは全てから遮断された世界で、彼女の暖かい腕の中でいたかった。




