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綺石のクラウン  作者: もももか
第九章 『スギライト』
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IX

暗い螺旋階段を無言で降りて行く。

扉の前に立ち、ルーベライトは自分のピースを溝にはめ込む。

先程から口も開かず、少しも動かないアレキサンドライトを見上げる。

「アレク……」

声をかけても、返事は返される事はなかった。

「あれ〜?アレク様ってばもしかしてビビっちゃってるの?めっずらし〜!」

ケラケラと耳障りな声で死神・ルシファーは笑う。

「まぁ無理もないよねー。相手は今まで何度もゲームに勝ってる常連さんだもん」

「常連?」

「そ!前の持ち主だった『怠惰スロース』、『色欲ラスト』のピースの王様にも勝ってるんだよね〜。ひょっとしたらアレク様より強いかもよ?」

あそこまでの大国にのし上がった理由を知り、ルーベライトは再度アレキサンドライトを見つめる。

意を決したように目を見開き、深緑の獅子のピースを差し込む。

鍵が開く音がなる。

深呼吸をし、扉を開く。

白と黒の大理石。

どこまでも続く青空。

その先に見える人影をアレキサンドライトは見据える。

「やっと来たんだな。待ちくたびれたんだな」

丸々と太った死神・ベルゼブブが言うと、スギライトは一礼する。

「お待ちしておりました、アレキサンドライト様。今宵のゲーム、思う存分楽しみましょう」

スギライトの肩にかけていた上着。

マリアライトはそれを広げ、袖を通してやる。

腰に携えたレイピアを鞘から抜き、切っ先を向け構える。

「お手柔らかに」

野心が渦巻く紫色の瞳。

アレキサンドライトも鞘から剣を抜き、静かに構えた。

「どっちも負けられない一戦、楽しんで行こー!っつーことで、王様だ〜れだ?」

先に動いたのはスギライトだった。

素早く踏み込み、切っ先が体を掠める。

片手でレイピアを振るうスギライトだが、驚異的な早さと的確な箇所を攻めて来る。

あまりの早さにアレキサンドライトはそれらを剣で弾くのが精一杯だった。

大きく振り下ろした鋼も難なくスギライトに受け止められる。

鍔迫り合いで鋼の擦れる高い音がなる。

「噂には聞いていましたが、中々の腕前ですね。しかし」

鋼を弾き、細い切っ先がアレキサンドライトを目掛けて突く。

避けきれず深緑のマントが裂かれた。

「ワタクシの剣を受けてゲームに勝った者はいませんよ」

細く鋭い鋼。

何度も自分を目掛け突かれるそれを、アレキサンドライトは剣で防いでいく。

(早い……!!)

追撃を許さないスギライトの腕前は本物で、アレキサンドライトは少しずつ追い詰められていく。

息が上がり、体が付いていけなくなった頃、視線の端にルーベライトを見た。

自分の身を案じて、小さな手を握りしめている。

戦なんてさせない。

あの夜の言葉を思い出し、アレキサンドライトは剣を構え直した。

「ブラボー!そしてファンタスティック!!その負けん気、数多のゲームを勝ち抜いてきただけはありますね。こんなにも楽しいゲームは初めてです。まことに残念ですが……」

スギライトも剣を構え直す。

「そろそろフィナーレにいたしましょう」

素早く踏み出し、アレキサンドライト目掛けて突く。

踊る切っ先。

弾かれ、高く舞い上がる剣。

アレキサンドライトの剣だった。

バランスを崩し、床に手を付いた時、スギライトの剣が目の前に向けられた。

「アレク!」

遠くでルーベライトの声がする。

心臓の音がいつもより大きく動いているのが自分でもわかる。

自分を見下ろすスギライトは笑みを浮かべていた。

「貴方では良い敷物にはなりませんが、サンドライトは責任を持って我がチャロアイトが後見いたしましょう。豊かな領地、使い捨ての兵士、有り余る愚民はまだ利用価値があるでしょう」

歯を食い縛り、深緑の瞳で鋭く睨むと、スギライトは更に楽しそうに続ける。

「心配なさらずとも、貴方のお友達のアイオライト様もすぐに送って差し上げましょう。あちらの世界でも仲良く手を取り合ってくださいまし」

クスクスと笑い、剣を振り上げる。

「ごきげんよう」

そうスギライトが発した時だった。

高く舞い上がっていたアレキサンドライトの剣が目の前に落ちてきた。

偶然にも切っ先がスギライトの手を掠め、血が溢れた。

あまりの痛みに剣を手放し、体制を崩す。

床に突き刺さった剣を引き抜き、スギライトに斬りかかったのは一瞬の事だった。

痛みに手をかばっていたスギライトの視線が回り、次の瞬間には雲一つない空と、切っ先を向けたアレキサンドライトが映っていた。

「チェックメイトだ」

自分が床に倒れ、剣を取れぬよう肩を踏まれているのに気付いたのは、アレキサンドライトの言葉を聞いた時だった。

「……ば、馬鹿な……!?ワタクシが……負けるなど……!!」

スギライトは狼狽した。

アレキサンドライトは現実を突きつけるかのように、さらに切っ先を喉元に近付ける。

「嘘よ!偶然じゃない!!先に負けたのはそっちでしょう!?」

マリアライトが金切り声を張り上げるが、それにはルシファーが答える。

「いんや。アレク様、負けたなんて言ってなかったもん。そっちが勝手に舞い上がってただけっしょ?『何が起こるかわからない』それがロイヤルゲームだし」

「お黙り!わらわは認めないわ!もう一度やり直しよ!!」

「自己都合の引分ステールメイトは認められませーん」

アレキサンドライトはスギライトを見下ろす。

「スギライト、貴殿の財産の半分を自国の民に明け渡せ」

「な!?」

「民は貴殿らの私欲のせいで生きる事すらままならない。金も宝も食糧も、全ての財産を独占する事を禁ずる」

「偶然で勝てた貴方がワタクシに命令ですか?」

ぐっと喉元に切っ先を向けられ、言葉を詰まらせる。

「言ったはずだ。民を脅かす存在を、私は決して許さない」

「貴方はご自分の言っている意味を理解しているのですか?今チャロアイトが資金を失えば軍事にも影響が出る。西国同盟の死活問題です。その事が東国に知られたら、貴方方もただでは済みませんよ?」

「例えそうなったとしても、貴方の行いを見過ごすわけにはいきません。ロイヤルゲームの勝者の願い、従ってもらいます」

アレキサンドライトは言う。

「それが、私の『正義』です」

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