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綺石のクラウン  作者: もももか
第九章 『スギライト』
85/145

V

スギライトに通された一室に入った途端、三人は所狭しと並ぶコレクションに息を飲んだ。

豚が描かれた油絵や豚の置物の数々。

何処を見ても豚だらけだった。

「何だこれは?」

「豚でございまし」

「そんなもの見ればわかる。この悪趣味なコレクションは何だ?」

アイオライトはスギライトに問うた。

「可愛らしいでしょう?ピーちゃんグッズです。ここまで集めるのに苦労しました」

呆れるアイオライトとアレキサンドライトだったが、セレスタイトは部屋中のコレクションを一つ一つ見て回っている。

「あ、この小物入れ可愛い!」

「でしょう!?セレスタイト様は見る目がありますね!」

セレスタイトはスギライトの指先に光ものに目を寄せる。

「スギライト様の指輪もブタさんなんですね」

「えぇ、素敵でしょう?お気に入りなんです」

金で作られた豚の形にできた指輪を見せてやる。

「どうしてそんなにブタさんが好きなんですか?」

「まだワタクシが若かった頃、軍の船に乗船する時でした。ワタクシが船に乗ろうとした際、黒い子豚が現れて落としたワタクシの帽子を咥えて走って行ってしまったんです。その豚を追いかけている内に船に乗り遅れてしまったのですが、なんとその船が沖に出た途端、嵐に巻き込まれて沈んでしまったんです」

「えぇ!?」

「その数年後、宮殿までの道を馬車で走っている時でした。また黒い子豚が現れました。いきなり道に飛び出してきたもので馬車が急停車したんですが、偶然にもそのお陰でワタクシの命を狙っていた暴漢に襲撃されず、難を逃れたのです」

「すごーい!」

「更にその数年後、東国との戦の時でした。本陣にいたワタクシの前にまた黒い子豚が現れました。三度目の対面に気になって子豚を捕まえようと屈んだ時、流れ矢が飛んで来てワタクシの頭上を掠めていきました。屈んでいなければ脳天直撃、危ない所でした」

「そんな偶然ってあるんですね!」

興味津々とスギライトの話を聞くセレスタイトとは逆に、アイオライトは興味がなさそうに部屋のコレクションを見ていた。

「悪運が強いだけじゃないのか」

小さく呟いたアイオライトの言葉にアレキサンドライトは同調した。

「以来ワタクシはその黒い子豚を守り神として崇めてきました。チャロアイトを象徴とする動物を豚にしたのはそのためです。豚の形をした物、描かれた絵を集めていった成果がこのコレクションの数々です!ブラボー!そしてアメイジング!!」

「もしかして、その時の黒い子ブタさんって……」

「お察しの通り、ピーちゃんです」

「やっぱり!素敵な出会いですね!」

アイオライトは目をキラキラさせるセレスタイトの腕を引く。

「もういい。聞くな」

「え?どうしてですか?」

「豚の話はもういい!目障りなのだよ!」

ぴしゃりと怒られ、セレスタイトはごめんなさいと謝った。

「見せたかった物とはこれのことですか?」

満足気にコレクションを眺めているスギライトにアレキサンドライトは尋ねた。

「いいえ。これはほんの一部です。本当に見せたいのは此方です」

そう言い奥の部屋に通された。

鹿や狼、その他多種に渡る動物の剥製が並んでいた。

「何だこれは?」

「剥製でございまし」

「そんなもの見ればわかる。何だこの数は?」

アイオライトはスギライトに問い詰めた。

「素晴らしいでしょう?自慢の博物館です。ここまで集めるのに苦労しました」

スギライトは満足気に笑っていた。

ふと目に止まったある鳥の剥製を見て、アレキサンドライトは思わず声を上げた。

「この鳥……」

緑色の美しい羽を持った大きなオウムの剥製だった。

「オオミドリオウム。サンドライトに生息する絶滅危惧種です」

アレキサンドライトの目が鋭くなる。

「知っていて、何故その剥製がここにあるのですか?」

「珍しい物を集めるのがコレクションの醍醐味でございまし」

「この鳥は我が国で保護をしている鳥です。如何なる理由があっても命を脅かす行い、捕獲は硬く禁じています」

「これはワタクシが捕獲したのではありません。密猟者から買い取ったものです。罪を問うのならその方々にお願いいたします。もっとも、ワタクシが一羽保有した所で大して現状は変わらないでしょう?」

スギライトは構わず部屋に掛けられたある毛皮を見せる。

「これはオオヤマギツネの毛皮です。フローライト山脈に生息する、市場では中々出回らない一級品の毛皮です」

その隣に飾られたドレスを見せる。

「これはノースパイソンの皮で作られたドレスです。マリアライトが蛇柄のドレスが欲しいと言っていたのでシャーマナイトを隈なく探させ作らせました」

続いて大きな剥製の横に立つ。

「これはリバーベアの剥製です。アラゴナイト大河周辺に生息する数少ない熊な上、剥製化は大変難しいようで専門家に手伝っていただきました」

最後に壁際の棚に置かれた大きな瓶を取る。

「これは南アンデシン砂漠に生息する蠍の亜種です。朱色の蠍は百万匹に一匹の割合でしか生まれることがないそうで、こうしてホルマリン漬けにしているんです」

狐はフローライトを、蛇はシャーマナイトを、熊はアラゴナイトを、蠍はアンデシンをそれぞれ象徴とする動物だった。

それらの動物が手中のコレクションとして見せられている本当の意味が分かり、アレキサンドライトとアイオライトは顔を強張らせた。

「なんだか、可哀想……」

「そんな事はありませんよ。毛皮や剥製になる時点でその動物はそうなる運命だったのですから」

セレスタイトに放った言葉にアレキサンドライトは酷い憤りを感じた。

「怖い顔をなさらないでください。そうだ、最近手に入れたお気に入りをお見せしましょう」

そう言って奥の棚から宝箱を持ってくる。

鍵を開けて中に入っていた何かの角を見せる。

「何だと思います?」

三人は答えなかった。

「解らないのも無理ないですね。これは一角獣の角と言われています」

一角獣。ラズライトを象徴とする聖なる動物だった。

アイオライトはとうとう声を荒げた。

「貴様!どういうつもりだ!?」

「やめろ、アイオライト」

今にも掴みかかりそうなアイオライトをアレキサンドライトが止める。

セレスタイトも驚いて体をビクつかせている。

「我らを愚弄しているのか!?」

「愚弄だなんてとんでもない。ワタクシはただ貴方方にコレクションを見せたかっただけです。この部屋に出入りできるのもワタクシが心を許した者だけです」

「心を許した者に対する行いがこれか!?」

「怒らないでくださいまし。一角獣は架空の生き物です。きっとこれも作り物です。でも良く出来ているでしょう?だからお気に入りなんです」

クスクスと笑うスギライト。

その指に嵌められた豚の指輪がキラリと光り、更にアイオライトの神経を逆撫でした。

険悪になる空気に耐えられず、セレスタイトは話題を変えようとスギライトに尋ねた。

「スギライト様ってコレクターなんですね!こんなにたくさんコレクションがあったら、もう欲しい物なんてないんじゃないですか?」

「いいえ。欲しい物ならまだありますよ」

スギライトの紫色の瞳がアレキサンドライトを捉える。

「若い雄獅子の敷物……ですかね?」

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