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綺石のクラウン  作者: もももか
第九章 『スギライト』
83/145

III

晩餐会の会場は、演奏会を行ったホールの近くに位置するチャロアイト宮殿だった。

テーブルはスギライトの計らいでチャロアイト、サンドライト、ラズライトの三国が同席だった。

「同じ同盟国の中でも我ら三国の結び付きは特別です。是非皆様のお話をお聞かせください」

そう通された席にはアイオライトとセレスタイトが既に座っていた。

ルーベライトの姿を見るなりアイオライトは立ち上がる。

「ルーベ、大丈夫か?」

「ご心配おかけしました。夜風に当たって良くなりました」

胸を撫で下ろしたアイオライトと一緒に席に座る。

料理が所狭しと並ぶテーブルの向かい、スギライトの隣に座る一際煌びやかな貴婦人がルーベライトを見るなり声を弾ませた。

「貴方がルーベライト様?噂に聞いていた通り素敵な方ね」

チャロアイト王妃・マリアライトだった。

スギライト同様、質の良い毛皮をふんだんに身に纏い、宝石が散りばめられた蝶の形をしたアクセサリーが眩しく光る。

豊満な胸の谷間を強調したドレスは正直目のやり場に困るほど大きく露出している。

長い銀色の髪を高く結い盛った髪型は、チャロアイトの上流階級の中で流行しているようで、彼女がそれを流行らせたと何処かで聞いた事がある。

優雅に扇子を仰ぐ彼女の隣、スギライトは言う。

「マリアライトにマドモアゼルの事をお話したらずっと会いたがっていたんですよ」

「わらわは美しいモノが大好きですの。サンドライトに美しい姫君がいると聞いて一目お会いしたいと主人にお願いしていたんですよ」

「お前にかなうレディなんていないだろう?」

「まぁ、貴方ったら。オホホホ」

笑い合う二人の様子を見て、セレスタイトの口はぽかんと開く。

初めて顔を合わせるルーベライトが軽く会釈すると、スギライトは料理を差して言う。

「さ、冷めない内に召し上がってくださいまし」

周りを見れば、招待された人々は楽しい食事を進めている。

テーブルの上に乗った料理はとてもこの人数で食べ切れる量ではなかった。

それでも招待状された身だからとアイオライトは食前の祈りをし、皿に乗った料理を口に運んだ。

「アイオライト様、ラピスラズリ陛下のお加減はいかがです?倒れられたとお聞きしましたが」

「今は落ち着いている。安静にしなければいけないのは変わりないが」

「それは何よりです。陛下は我ら西国同盟になくてはならない存在、一日でも早く戦場に戻られる事をお祈りしています」

『戦場』という言葉にルーベライトの瞳が揺れる。

それに気付いてアイオライトは少し遅れて相槌を打った。

「セレスタイト様もその若さで王室に嫁ぐとは。アイオライト様同様、さぞラズライト民の希望となっているのでしょう」

「そんな、私なんて……」

「ブラボー!そしてマーヴェラス!!お二人がいればラズライトの未来も安泰でしょう!!」

「オホホホ」

大げさな身振りで讃えるスギライト、その隣で高貴に笑うマリアライト。

再び開いた口が塞がらないセレスタイトに、アイオライトは二人から見えないよう閉じろと肘で小突いた。

アレキサンドライトに出された料理が減っていないのに気付き、スギライトは声をかけた。

「アレキサンドライト様、お口に合いませんでしたか?」

「……いえ」

「此方の魚、今の季節に獲れるのは稀なんですよ。アラゴナイト大河の冷たい海流に晒された身は程よく引き締まりバジルソースとの相性も抜群です。今宵の晩餐会のために何がなんでもと命じてご用意させました」

「滅多に食べれないものを頂くだけでも美味しいですわよね。オホホホ」

傍に控えていた給仕に命じて一本のボトルワインが用意された。

「こちらのワイン、ラズライト産の最高ランクのものです。この年は近年稀にみる当たり年で最も価値ある一本だと称されています。滑らかな口当たり、爽やかで甘みを含んだ香りは絶品です」

スギライトの言っている事は本当らしく、アイオライトも自国の中でも滅多に見れない最高級のワインを見て驚いているようだった。

「こんな高価なもの、どこで手に入れた?」

「おや?アイオライト様は普段お飲みにならないのですか?」

「戦が長引いている今、そんな贅沢ができるわけないだろう」

「いけませんねぇ。一国の王子とあろう方がそんな事を言っていては心まで貧しくなってしまいますよ」

クスクスと笑うスギライト。

アイオライトの眉間に一筋の皺が入る。

隣のセレスタイトはスギライトのグルメトークを聞いて目を輝かせた。

「スギライト様は美味しいモノ、たくさん知ってるんですね」

「ワタクシ、美味しいモノには目がないんです。『美食』といいましょうか。最高級のモノをいかに美味しく優雅に頂くか、それがワタクシの『食』に対するこだわりでございまし」

「主人はとてもグルメなんですの。口に合わないモノはもちろん、飽きたモノにも手を付けませんからシェフがメニューを考えるのが大変だと仰っていますのよ。オホホホ」

セレスタイトの口がまたぽかんと開いた。

アレキサンドライトのグラスに紹介されたワインが注がれる。

「さ、どうぞ。お味は保証しますよ」

グラスに注がれた白いワイン。

爽やかで香り高く、見るからに上等なものだとわかる。

しかし、アレキサンドライトはそれを飲む気になれなかった。

「……せっかくで悪いのですが、今夜は遠慮しておきます」

「おや?弱い方でしたか?」

「まだやり残している仕事があって、この後も手を付けたいので……」

「真面目な方ですね。今夜くらいはお忘れになっても罰は当たらないでしょうに」

スギライトは自分のグラスに注がれたワインを口に含む。

途端、紫色の瞳が見開いた。

「ブラボー!そしてデリシャス!!これぞ最高級のハーモニーです!!」

「オホホホ」

セレスタイトはまた口が開いたままだった。

「……すみません、今日はもうお休みさせていただきます」

そう切り出したのはルーベライトだった。

「マドモアゼル、大丈夫ですか?」

「水を差してしまって申し訳ありません。今夜はゆっくりお休みさせていただきます。ごちそうさまでした」

席を立つルーベライトを見て、部屋まで送ろうとした時だった。

スギライトはアレキサンドライトに声をかけた。

「アレキサンドライト様、よければワタクシのコレクションをご覧になりませんか?」

「コレクション?」

「はい。どうしても貴方に見せたいものがありまして。アイオライト様、セレスタイト様もご一緒にいかがです?」

返答に困る三人だったが、代わりにルーベライトは言う。

「私は大丈夫です。皆さんで楽しんで来てください」

「しかし、ルーベ」

「せっかくスギライト様とご一緒にいるのですから、貴重な時間を大切にしてください」

心配だったアイオライトに大丈夫だと言いながらルーベライトは一礼する。

「ルーベ、本当に大丈夫か?」

アレキサンドライトは再度ルーベライトに問いかけるが、彼女はニコリと頷き席を離れた。

「そうと決まれば話は早い。早速参りましょう」

皿に残った料理を見てアイオライトはスギライトに言う。

「まだ残っているだろう?」

「美味しい食事は腹八分目まででございまし」

「え?残しちゃうんですか?」

「いいえ。彼が食べてくれますよ」

スギライトが指を鳴らすと『彼』はやってきた。

黒い丸々と太った小さな体を揺らし、大きな鼻をヒクヒクと鳴らす。

くりんと回った尻尾を見て、セレスタイトは首を傾げた。

「子ブタさん……ですか?」

「ぷぎー」

スギライトの足元にトコトコとやってきた黒い子豚。

途端、スギライトの凛々しかった表情が破顔する。

「ピーちゃぁ〜ん!おいでおいで〜!可愛いでちゅね〜!良い子にちてまちたか〜?」

蕩けるような笑みで抱きかかえ、赤子に話すような言葉をかける。

ぷぎーと一鳴きする黒い子豚の頭にちゅっとキスをしてやる。

「何だそれは?」

「ピーちゃんです」

「ぷぎー」

「名前を聞いているのではない。どうするつもりだ?」

眉間に皺を寄せたアイオライトが言うと、スギライトは残った料理を黒い子豚に差し出した。

黒い子豚は慣れた様子でそれらをガツガツと食べ始めた。

「ピーちゃん美味しいでちゅか〜?良かったでちゅね〜!たくさん食べてくだちゃいね〜!」

「ぷぎー」

アイオライトの眉間が更に深くなる。

「せっかくの料理を無駄にする気か?」

「無駄になんてしていませんよ。ピーちゃんが食べてくれますから。ね?ピーちゃん」

「ぷぎー」

「家畜にやるためにこんなに作らせたのか?これらの食物を作るのにどれだけの労力と命がかかっていると思っている」

「ピーちゃんは家畜ではありませんよ。ワタクシの守り神です。そう言えばラズライトは女神・ロードナイトの教えに忠実でしたね。ですが私は違います。好きなモノを好きなだけ食べる。欲しいモノは必ず手に入れる。いらないモノは容赦なく切り捨てる。それがワタクシのポリシーです」

黒豚のピーちゃんの頭を撫でてやりながらスギライトは悪びれもなく言い放った。

アイオライトだけでなく、アレキサンドライトの表情も険しくなる。

「さ、ピーちゃんもお食事中ですし、コレクションルームに参りましょうか」

席を立つスギライトだが、傍にいたはずの人物がいない事にセレスタイトは気付いた。

「あれ?マリアライト様は?」

「あぁ、マリアなら何時もの『遊び』に行ってるのでしょう。お構いなく」

どうぞ此方へと通されるがままに、三人はスギライトの後を続いた。

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