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綺石のクラウン  作者: もももか
第九章 『スギライト』
82/145

II

ルーベライトはすぐに見つかった。

顔色が悪い彼女を連れ、ホールの外に併設されていたベンチに座らせる。

夜風が少し寒いかもしれなかったが、少しでも気分が楽になるならとこの場所を選んだ。

自分のマントを外し、彼女の肩にかけてやる。

「大丈夫か?」

今度は自分の声に反応してくれた。

「……ごめんなさい。大事な所で席を立ってしまって」

「気にするな」

「スギライト様のお話を聞いて、昔の事を思い出してしまって……もう大丈夫です。ありがとうございます」

ルーベライトは戦が嫌いだった。

大好きな父と兄を戦場へ連れて行き、双方多くの民の血が流れる。

何より最愛の人を奪った。

それを知っていたから、彼女の前では極力戦の話を避けてきた。

少し休めば元に戻ると気丈に振舞う彼女の隣に座る。

「謝らなければいけないのは私の方だ。演奏会だと聞いていたのに、結果として嫌な話を聞かせてしまった」

数週間前、サンドライト城に一通の招待状が届いた。

チャロアイト国王・スギライトからだった。

親愛なる西国同盟諸国の皆様へと綴られた内容は、この乱世を生き抜く同胞として親睦を深めるため、主催する演奏会の誘いだった。

チャロアイトは西国同盟に加盟する諸国の中で、領地、軍事力、全てにおいて最も権力を持った国だ。

特に軍事は独自の造船技術と優れた航海術から海軍に特化し、度重なる戦もチャロアイトの海軍の力で多くの勝利を収めてきた。

スギライトとは王位に就く前から戦の度に顔を合わせてきた仲だ。

だが、自分の手の内を明かさないスギライトのやり方を快く思っていなかった。

表向きは調子の良い事を言って煽ててくるが、裏では何を考えているのか分からない所が苦手と感じていた。

招待状にはどこで聞きつけたのか『アレキサンドライト様の素晴らしいバイオリンを是非聞かせてください』とスギライトの直筆で書かれていた。

ピアノの腕前が知られていたアイオライトも、同じ内容の手紙を受け取っていた。

招待状は王族以外にも貴族やその家族、軍幹部の関係者にも行き渡っていたようで、招待された全ての客に開催地であるチャロアイト宮殿までの馬車を用意させるといった徹底ぶりだった。

演奏会の後には晩餐会も予定されていたが、ルーベライトがこの様子では参加は難しいと考えた。

集まったのは西国同盟関係者とは言え、あんな話を戦に無関係の人の前で話すだなんて。

アレキサンドライトの中で、スギライトの配慮のなさに憤りが生まれていた。

「私から参加したいと申し出た事ですもの。貴方のバイオリンが聞けて良かったです」

お上手なんですねと笑うルーベライトにアレキサンドライトは複雑な表情を浮かべた。

「本当は、バイオリンは好きじゃないんだ。小さい頃に覚えさせられて身に付いたものだから。教えてくれていた先生が厳しくてな、怒られていた記憶しかない」

ふと目に止まった木に茂る葉を一枚ちぎり取る。

それを唇に当てて音を鳴らす。

ルーベライトは初めて聞く不思議な音色に驚いて、葉を当てるアレキサンドライトの口元を見る。

「こっちの方が性に合っている」

バイオリンの練習を抜け出して、城の兵士に教えて貰った葉笛。

器用に鳴らす可愛い葉音。

さっきまで舞台の上で優雅にバイオリンを奏でていた人物と思えなくて、ルーベライトは楽しそうにクスクスと笑う。

悪かった顔色が少し戻ったようで、アレキサンドライトはほっと胸を撫で下ろした。

「こちらにいらしたのですか、マドモアゼル」

その声に顔を上げた。

スギライトだった。

「ご気分が優れないとお聞きしました。御対応が遅れてしまい申し訳ありませんでした」

「いえ。こちらこそ気を使わせてしまって……」

「客人を持て成すのが主催者の務めでございまし。さ、こちらへ」

言いながらルーベライトの手を無理に引く。

その腕をアレキサンドライトが掴んだ。

「やっと落ち着いた所です。無理に立たせないであげてください」

スギライトの紫色の瞳がアレキサンドライトに向く。

一度目を細め、笑みを浮かべ言う。

「……そうでしたか。『お邪魔』してしまったようで申し訳ありません」

「誤解しないでください。そういう意味で言ったのではありません」

「しかし、春とは言えチャロアイトは北国……サンドライトと違ってこちらの夜風はまだ冷たいです。マドモアゼルが風邪を引いては大変です。此方より室内の方がよろしいのでは?」

スギライトの肩にかけられた上等な上着の毛皮が冷たい夜風に揺れる。

マントを借りたルーベライトが寒そうにしているのを見て、スギライトは続ける。

「お食事のご用意は出来ております。暖かいスープでも飲んでお腹が膨れれば少しは良くなられるでしょう」

言っている事は最もだった。

ルーベライトを見ると大丈夫だと頷いて、スギライトの後をゆっくりと続く。

どこか一方的で高圧的なスギライトを、アレキサンドライトは好きになれなかった。

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