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綺石のクラウン  作者: もももか
第八章 『サードニクス』
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VIII

数日経った夜、またあの死神が現れた。

「お久しぶりです、サードニクスさん!今からロイヤルゲームを始めるので一緒に来てもらえませんか?」

何も答えない俺にアスモデウスは了承したと受け取ったのか、そのままカーネリアンのいるモスクに連れて来られた。

「喜べ。今からキャスリングだ。七国王ヘプタークの決闘・ロイヤルゲームが始まる!」

カーネリアンは嬉々としていた。

モスクの中にある武器庫に連れて来られ、ここにある好きな武器を取れと言われた。

「相手は連勝中のサンドライト王だ。まだ若いが剣の腕は立つそうだ。これなんか良いんじゃないか?急所を一突きできる。それともこっちの長いのがいいか?」

楽しそうに部屋中に掛けられた武器を手に取り選ぶカーネリアンは話し続けたが、俺は何も答えなかった。

「ずっとそういう態度でも構わんが……姉を大切に思うのなら少しは協力的になって貰いたいものだな」

悔しさに歯を食いしばった。

目に付いた槍とシャムシール、そしていつも自分が使うグラディウスを手に取った。

武器を取った俺を見てカーネリアンは笑う。

「アスモデウス、扉を開けろ」

「はい!只今」

アスモデウスは懐を探り、黒い鍵を取り出すと武器庫の扉の鍵にそれを差し入れた。

手首を捻ると鍵の鳴る音が響いた。

扉を開くと、見た事もない地下へ続く階段が見えた。

「これが決闘場に続く階段か」

「さ、入ってください!足元に気を付けてくださいね!」

先に降りろとカーネリアンに足蹴りにされ、俺は薄暗い階段を降りる。

何処までも続く螺旋階段。

少しして大きな扉が見えた。

「そこにある溝にお二人のピースをはめてください。扉を開けるとゲームが終わるまで戻って来れないので心の準備が出来てから開けてくださいね!」

カーネリアンは懐から二つのピースを取り出す。

一つは前に見た蠍の形をしたピース

そしてもう一つの城のような形をしたピースを俺に寄越した。

「貴様のピースだ。奇石きせきの持ち主だった者でなければ扉は開かれない」

カーネリアンは自分のピースをはめながら俺に言った。

「ここから先は七国王ヘプタークとのロイヤルゲームだ。勝てば相手を思うがまま。負ければ……分かっているな?」

「お前こそ。俺との約束、忘れていないだろうな?」

「オレ様は約束は守る主義だ。貴様が勝てば姉には手を出さないと約束してやろう」

「本当だな?」

「そんなに信用できないか?まぁ、貴様に拒否権などないがな」

喉を鳴らして笑うカーネリアン。

悔しくて自分の手にあるピースを強く握りしめた。

「あぁ!ダメですよ!そのピースはご自身の奇石きせきから出来たものですから、壊したりしたら死んでしまいますよ!」

「さっさと開けろ。オレ様は待つのが嫌いなんだ」

瞳を閉じる。

心臓の音が大きい。

その音を聞いていると、いつもの闘技場での試合を思い出した。

これから俺は闘う。

いつもと同じ。

勝って戻ってくるんだ。

必ず。

ピースを溝にはめ、鍵が開いた音の後、重い扉を開いた。

眩しい光に目を瞑る。

明るさに目が慣れ、ゆっくりと瞼を上げると、澄み渡った青空が見えた。

白と黒が敷き詰められた床。

遥か前方に見える扉の前に、二人の人影とアスモデウスと似た姿の死神が見えた。

血のような赤い髪の男。

そして、傍に控える薔薇色のドレスの美しい女。

白い肌の人間を初めて見た。

カーネリアンは白い肌の女を見るなり口笛を吹いた。

「噂通り絶世の美女だな」

嫌な視線に気付き、一歩下がる女。

赤毛の男は庇うように前に出た。

「アンデシン領主・カーネリアンか?」

「そうだ。貴様がサンドライト王・アレキサンドライトか。噂通りの若造だな」

「何が望みだ?」

異国の王・アレキサンドライトは訊ねた。

「そこにいる絶世の美女……お前の物にしておくには勿体無い」

隣のアスモデウスが『生贄サクリファイスのルーベライトさんです』と説明すると、再度女の方に舐めるような視線を向ける。

「彼女は物じゃない」

「そんな事はどうでもいい。このゲームに勝ってその女をオレ様の物にする。そして全ての七国王ヘプタークを倒し『ロイヤルクラウン』を手に入れる。オレ様の願いのため、貴様には舞台から降りてもらう」

「……言っても分からない相手のようだな」

アレキサンドライトは携えた剣を抜き、カーネリアンに切っ先を向けた。

深緑の瞳が鋭く射抜く。

「勘違いするな。貴様の相手はコイツだ」

顎をしゃくり命じてくる。

俺は持っていた槍を構えた。

「コイツはアンデシン最強の剣闘士だ。戦の術しか知らぬお前と違い、決闘のプロだ」

カーネリアンはルーベライトに視線を向ける。

「ルーベライトと言ったな。その男の最後を目に焼き付けておくんだな」

怯えるルーベライトは前に立つアレキサンドライトを見つめる。

「アレク……」

「大丈夫だ。下がって」

一度だけ彼女に振り向くと、アレキサンドライトは俺に剣を向けた。

「なんだか面白い展開になってきたな!よ〜し始めっか!王様だ〜れだ?」

ルーベライトの傍にいた死神が楽しそうに声を張った。

アレキサンドライトは短く息を吸い、俺に向かってきた。

鋼を振り下ろし、槍で受け止める。

強い力を弾き、柄を握り返しアレキサンドライトに向けて突く。

柄が長い分こちらに利があるのに、アレキサンドライトは見事に剣でそれを受け止める。

何度も攻撃を繰り出しても動きを読まれ防がれる。

鍔迫り合いの後、一瞬の隙を突かれて柄を絶たれた。

今まで闘技場で戦った相手と比べ、此奴の腕は本物だった。

使い物にならなくなった槍を捨て、腰に差していたシャムシールを素早く抜く。

鋼が擦れ合う高い音。

近くなった顔を見る。

見慣れない深緑の目が鋭く俺を睨んでいた。

「サードニクス、加減するな!アゲートがどうなってもいいのか!?」

カーネリアンのその言葉に、俺は歯を食いしばり鋼を振り上げた。

しかし、目の前の男は驚いていた。

「人質がいるのか?」

「だったら何だ!?」

「やめろ、君とは戦いたくない!」

「何を今更!」

俺の繰り出す鋼をひたすら受け止める。

「俺はお前を倒して帰るんだ!」

自分で言って疑問に思った。

俺は、何処に帰るんだろう。

たった一つしかなかった拠り所を裏切ってしまったのに。

何処に帰るんだろう。

「コイツに何を言っても無駄だ。サードニクスは闘うために生まれてきた奴隷……オレ様の駒だ」

アレキサンドライトは俺の首輪を見ると更に表情を曇らせた。

俺は、闘うために生まれてきたのか。

彼奴の駒になるために生まれてきたのか。

「君は彼奴の言いなりなのか!?それでいいのか!?」

「うるさい!何不自由なく生きてきたお前に!人を物としてしか見ていないお前たちに!俺の何がわかる!?」

何も知らないくせに。

生まれてきた場所が違っただけなのに。

俺たちがどんな思いで生きてきたかも知らないで。

「お前に何がわかる!?」

シャムシールの曲がった切っ先が、避けきれなかったアレキサンドライトのマントを掠めた。

「サードニクスは姉のためなら何がなんでも相手を倒す。そうだろう?」

剣を弾き、距離を取る。

肩で息をしながら互いを見据える。

「俺は、姉さんを守る……例え他の女が犠牲になっても、姉さんだけには触れさせない!!」

シャムシールを振り下ろす。

アレキサンドライトが振る鋼とかち合い、刃が折れた。

グラディウスを素早く取り、アレキサンドライトに目掛けて斬りかかる。

鍔迫り合いから鳴る高い鋼の音。

「俺は……俺は……!!」

生まれてきた場所が違ったら、俺はどんな生き方をしていたんだろう。

姉さんとずっと一緒にいれたのだろうか。

顔も知らない父さんと母さんと、仲良く四人で暮らせていたんだろうか。

汚れのない服を毎日着れていたんだろうか。

暖かい飯を腹一杯食べれていたんだろうか。

容赦のない雨風も、気力を失う暑さも、身も凍る寒さもしのげる家に住めたのだろうか。

何も気にせずに、幸せに生きることができたんだろうか。

溢れ出した感情は止まらなかった。

「俺は、闘うために生まれてきたんじゃない!!」

取り乱した太刀筋にアレキサンドライトの剣が舞う。

手から離れたグラディウスは軌跡を描き、地に落ちた。

「チェックメイトだ」

喉元に向けられる切っ先。

初めての敗北。

そして姉さんの運命に絶望し、俺はその場に崩れ落ちた。

「サードニクス!貴様、わざと負けたな!?こんなのオレ様は認めんぞ!?」

遠くでカーネリアンが何か吠えているが、今の俺には何も耳に入らなかった。

「奴隷風情がオレ様に逆らう気か!?許さん!立て!勝つまで闘え!!何のために生まれてきたんだ!!」

俺に切っ先を向けていたアレキサンドライトがカーネリアンを睨んだ。

「貴様、まだそんな事を言っているのか!?」

「黙れ!オレ様に指図するな!!」

アレキサンドライトはアスモデウスに目を向ける。

「カーネリアンのピースを寄越せ」

「え??」

「寄越せ!!」

「は、はい!只今!!」

一瞬反応が遅れたアスモデウスに声を張る。

アスモデウスは言われるがままにカーネリアンからピースを取り上げようとするがカーネリアンはそれを拒んだ。

「やめろ!何故オレ様のピースを渡さねばならんのだ!?」

「すみません!それがルールなので!」

「貴様、オレ様を裏切る気か!?」

「ルールに従っていただかないとカーネリアンさんが死んじゃいますよ!」

カーネリアンの手からピースを取り、アスモデウスは小走りでアレキサンドライトの元に来るなり膝まづいてそのピースを渡した。

放心状態の俺に目も向けず、アレキサンドライトは赤い蠍のピースを取ると、カーネリアンに言い放つ。

「カーネリアン、貴様の国の奴隷を解放しろ」

「何!?」

「何人たりとも、人を物と扱う事を禁ずる。労力としても、見世物としても今後一切の奴隷の使用を許さん」

「馬鹿を言うな!そんな事をしたら国がもたないだろう!?国益の茶葉も奴隷がいなくては成り立たたんではないか!貴様の国にも影響するぞ!わかっているのか!?」

「ロイヤルゲームの勝者の願い、従ってもらう」

迷いのない深緑の瞳。

カーネリアンは舌打ちしながら悔しそうに崩れた。

赤い蠍のピースをアスモデウスに放り投げ返すアレキサンドライトを見上げた。

深緑の瞳と目が合った。

先程まで命のやり取りをしていた人間とは思えない、優しい目を向けられた気がした。

異国の白い肌の王は何も言わず、薔薇色のドレスの女と共に扉の向こうに消えた。

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