VII
翌朝、姉さんの呼び声で目が覚めた。
俺を呼ぶ小さな声。
「サード、いないの?サード」
いつもの自分が収容される牢獄。
僅かな隙間から見える朝の光と赤い瞳。
「姉さん……」
「サード!返事がないから心配したじゃない!」
「ごめん、今起きた……」
どうしてここにいるのか姉さんに問えば、姉さんは笑って答えた。
「ご主人様、今日は買い付けに行ってお屋敷にいないの!だから、サードにお土産持ってきたの!」
狭い隙間から渡された小袋。
「それね、私が摘んだ茶葉なの!今年は豊作で味も良いから一度飲んでみなさいってご主人様から頂いたの。でも私はまた飲めるかもしれないからサードにあげる!飲み方分かる?」
「……ありがとう。誰かに聞いてみる」
「サード、私ね、あれからすっごい頑張ってちょっとずつだけどお金貯まってるんだ!もっと頑張ってサードを買い取れるようにするから、だから頑張ろうね!」
赤い奇石を見せながら笑う姉さん。
俺は腕を見せようとしたが、ある事に気付いた。
奇石がなくなっていた。
「サード?どうしたの?」
「……なんでもない」
「どこか悪いの?」
「いや、そうじゃないんだ……」
姉さんには本当の事を言えなかった。
今まで隠し事なんてしたことがなかったのに。
あの日の誓いを、俺は裏切ってしまった。
「……姉さん。もうここには来ない方がいい」
「どうして?」
「誰かに見つかったらただじゃ済まない」
「私が簡単に捕まると思ってるの?」
自慢げに笑う姉さんに何て答えたらいいか、俺にはわからなかった。
「本当に、もう来ないで」
「何言ってるの!弟を心配しない姉なんていないでしょ!?」
「俺は、姉さんに心配される資格なんてない」
「私が来たいから来てるの!それともサード、私の事が嫌いなの?」
「そうじゃない。だけど、俺はもう……」
言いかけた時だった。外で誰かの声が聞こえた。
「誰だ!?誰かいるのか!?」
見回りの兵士だった。
姉さんは一度だけ俺を見て、直ぐに走って逃げた。
その後を追いかけるように兵士が行く。
捕まってしまったんじゃないかと心配したが、しばらくすると追いかけていた兵士が舌打ちしながら戻ってきた。
ほっと息をついて座り込んだ。
奇石を奪われた二の腕を見る。
憎いあの男の顔が浮かんで、奇石のあった場所に爪を立てた。
引っ掻くように爪で肉をえぐると血が溢れた。
痛みで詰まる呼吸が嗚咽に変わるのに、時間はかからなかった。




