V
十八になったある日の試合の終わり。
闘技場のゲートに戻る際、歓声を割って声をかけられた。
アゲート姉さんだった。
姉さんは生きていた。
俺はすぐにある場所に来てと伝えた。
闘技場の外、収容されている牢獄の裏。偶然にできた壁の隙間。
その僅かな隙間、俺は姉さんと再会した。
姉さんは俺と離れ離れになってから市場で売られ、ある貴族に買取られた。
運が良かったのか、姉さんの主人は仕事さえきちんとこなせば手を挙げられることはないそうだった。
俺の評判を聞きつけて、主人が出かけている今日を見計らって闘技場に紛れ込んだらしい。
数年ぶりに見た姉さんは、奴隷の身でありながらも美しく成長していた。
「サード、ごめんね。あの時、私を庇ってなかったら逃げれたかもしれないのに……本当にごめんね」
俺は首を振った。
「姉さんが生きてるだけで良かった」
本当にそうだった。
こんな思いをするのは俺だけでいい。
姉さんが少しでも人らしい生き方ができるのなら、俺はそれだけで良かった。
僅かな隙間から手を伸ばし、姉さんは俺の手を取った。
「私、頑張って働く!働いて、稼いだお金でサードを買う!そしたらこんな所から逃げて二人で暮そう!」
姉さんは国益となっている紅茶の茶摘みの労力として買われた。
それくらいの仕事と賃金では、剣闘士として名が売れはじめた俺だけでなく、一生かけても自分すら買い取るのも難しいだろう。
だけど、姉さんのその言葉が嬉しくて、俺は手を握り返した。
「俺も闘う。勝ち続けて自分を買い取る。ここを出て姉さんを迎えに行く」
「サードはもういい!これ以上闘わないで!」
「どうして?」
「今日みたいな闘い、ずっとしてるんでしょ?サードが死んじゃったら、私、ひとりぼっちじゃない」
私を置いて行かないでと、隙間越しに泣いているのが見えた。
「大丈夫、俺は負けない。死なない。姉さんを迎えに行くまで、必ず」
「サード……」
二の腕に巻いていた布を取る。
赤い奇石。
姉さんと同じ色、同じ石を分け合ったそれを見せる。
「約束する。俺は死なない。必ず姉さんを迎えに行く」
姉さんは涙を拭い、笑顔を見せながら同じように二の腕の奇石を見せた。
「私も。絶対サードを迎えに来るから!」
二つの赤い奇石。
呪われたその石だけが、俺たちを繋いでくれた。
俺は絶対負けない。
この闘技場を生きて出るまで。
姉さんを迎えに行くまで。
必ず。
赤い奇石に、俺は誓った。




