III
八歳くらいになった時だった。
その日も連日食い物にありつけないで路地裏で姉さんとじっと座り込んでいた。
動き回ればその分腹が減るのと、そんな気力も湧いてこなかったからだ。
路地の合間から、一際綺麗な衣服を着飾った男を見た。
気になって様子を伺った。
周りに召使いと女を連れた赤い服の男。
癖のある黒髪は首の後ろで長く編み込まれ、額の中心には小さな赤い石の装飾が貼られている。
赤いアイシャドウを引き、赤い瞳を向ければ隣の女はうっとりした表情で寄りかかっていた。
男はカーネリアンと呼ばれていた。
まだ若いのに何人も召使いを連れて歩いている。
こいつを襲えば金目の物が手に入る。
逃せばいつ食い物にありつけるか分からない。
そう思った時にはそいつを尾行していた。
召使いが奴から離れた時、俺はカーネリアンに襲いかかった。
しかし、寸前で用心棒の男に捕らえられた。
「カーネリアン様、お下がりください。ドブネズミがうろついています」
捕らわれた俺の顔をカーネリアンが覗き見る。
「本当にドブネズミだな」
汚ないものを見るような目。
笑うその顔に唾を吐いた。
「貴様!!」
乱暴に地面に投げ捨てられ、息が詰まる。
首を締め上げられ意識が遠退いた。
そんな時、姉さんの悲鳴が聞こえた。
「サード!!」
「姉さん!逃げて!!」
姉さんはすぐに逃げた。
姉さんを見た用心棒は直様姉さんを捕まえようと後を追った。
「やめろ!姉さんに手を出すな!!」
俺の叫びを聞いたカーネリアンは思いついたように言った。
「気が変わった。放っておけ」
「しかし」
「オレ様はガキに興味はない」
あと十年待ってからだと笑いながら隣にいた女の腰をいやらしい手つきで撫でていた。
撫でられた女もクスクスと笑いカーネリアンにしなだれかかっている。
「だが貴様は別だ。良い目をしている。オレ様が憎いのだろう?」
今にも噛みつかんばかりに睨む俺を見てカーネリアンは笑う。
「オレ様はこの国の領主だ。この国の全てはオレ様の物。貴様の命もオレ様の物……どうしようがオレ様の意のままだ」
「どうされるおつもりですか?」
「闘技場の剣闘士にしよう。今から育てれば良い戦士になるんじゃないか」
「さすが!ご名案です!」
「しかし、こんなガキに務まりましょうか?」
「どうせこのままいてもゴミのように死ぬだけだ。一試合分の価値くらいはあるだろう」
カーネリアンは俺の髪を引き上げ言い放った。
「良かったな、ドブネズミ。今から貴様は『奴隷』に昇格だ」
赤い瞳が楽しそうに笑っていた。




