II
俺の名はサードニクス。
幼い頃から双子のアゲート姉さんと、街のスラムで息を潜めるように生きてきた。
母に抱かれた記憶はない。
父が誰かも分からない。
気付いた時には腹を空かせ、薄汚い街の路地裏を姉さんとうろつく生活をしていた。
毎日水も食い物もなく、落ちていた物を拾ったり、店や買い物客から奪った物で食い繋いでいた。
服も捨てられていた物を拾った物。この国の人種特有の褐色の肌は素足だけでなく、全てが汚れていた。
街のバザールに買い物に来る大人の殆んどが綺麗な服を着飾り、割腹の良い姿だった。
対する俺や同じような孤児たちは痩せ細っていて、無駄に着飾った富裕層を恨めしく物陰から見ていた。
貧富の差が激しいこの国はアンデシンという。
大陸の南に位置し、灼熱の気候から『太陽の国』と呼ばれているらしい。
国の北側は険しい山岳地帯、南側は果ての無い広大な砂漠が広がる。
周りの国から攻められにくく、長年『独立自治区』という独自の文化を築いてきた。
国益となっている紅茶の茶葉を輸出することによって国は潤っていた。
もっとも、異国の貴族たちが口にする物を、俺たちが口にしたことはない。
交易で街のバザールには異国の食糧、衣類などが所狭しと並び溢れ返っている。
そんな物に溢れた国で、物に飢えた生活をしていた。
たった一人の身内の姉さんは、いつも俺を気に掛けてくれた。
やっとの思いで手に入れたパンの食べくさしを二人で分ける際、いつも大きい方を俺にくれた。
貴重な飲み水も、いつも先に口を付けるのは俺だった。
気温が下がり、凍てつく夜は二人で身を寄せ合いながら眠った。
自分たちと似た境遇の孤児が飢えと寒さで死んで、結晶となっていくのを目の当たりにしては、細く汚れた姉さんの手を握り締め、見なかったふりをしてやり過ごしてきた。
姉さんはどんな時でも明るかった。
そしていつも俺の身を案じてくれた。
たった一人の家族を想うのは、姉さんも同じだった。
ある日、食い物にありつけなかった日々が続いた。
私に任せて。そう言い店に並ぶ食い物を奪おうとした。
いつもなら走って逃げ切れるはずだったのに、あまりの空腹で捕まってしまった。
助けるので必死だった俺は近くにあった棒で店主を襲い、姉さんの手を引いて逃げた。
あの時は本当に危なかった。
なんでそんな無茶をしたんだと怒れば、姉さんは泣きながら謝り続けた。
謝る必要なんてない。
姉さんは何も悪い事をしていない。
生きるために必死だっただけだ。
どうして俺たちだけこんな思いをしなければいけないんだろう。
俺たちが何をしたっていうんだ。
優しい親に手を引かれて街を行く、同年代の裕福な子どもを見てはそんな思いにかられていた。
俺はいつしか、全てを憎むようになっていった。




