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綺石のクラウン  作者: もももか
第八章 『サードニクス』
72/145

I

薄暗い鉄格子の中。

心臓の音を聞きながら静かにその時を待つ。

傍にいた俺と同じ剣闘士は、囁き声で仲間と話をしていた。

「なぁ、今日の試合、カーネリアン様の復活祭だろ?」

「先日盗賊に襲われたらしいが奇跡的に生き返ったらしい。今日はそれを祝しての復活祭だそうだ」

「やっぱり観に来てるのかな?」

「もし働きが認められたら、ここから出してくれたりしないかな?」

瞳を閉じる。

心臓の鼓動が大きい。

その音を聞いていると、俺はまだ生きているのだと安心できた。

「大丈夫、オレらにはアンデシン最強の剣闘士様がいるんだ。な?そうだろ?」

気安く肩を叩く褐色の肌。

その手が邪魔で赤い瞳で睨むと、男は驚いて手を引っ込めた。

「お前たち、静かにしろ!」

ガシャリと乱暴に鉄格子を蹴り上げる音が響く。

「奴隷風情が好き勝手に喋るんじゃねぇ!反吐が出るぜ!」

剣を持った警備兵。

下品な笑みを浮かべてその鋼をちらつかせる。

「聞いてるのか!?あぁ!?」

耳障りな声がうるさくて、鉄格子の隙間から手を伸ばし胸倉を掴むと、警備兵は一瞬にして震え上がる。

「ひっ!貴様、3286!離せ!!離さないとどうなるかわかっているのか!?」

3286。ここでの俺の名前。

胸に押された烙印。

そして、戒められた鉄の首輪。

奴隷の印だ。

「煩いのはお前だ」

そう言って胸を離すと、警備兵は腰を抜かし逃げ出した。

それを見ていた剣闘士たちが笑い合っている。

最後かもしれない。

好きなだけ笑えばいいと放っておくと、目の前の鉄格子が開いた。

時が来た。

剣闘士が使用するグラディウス。

その剣を手に、いつもと同じ階段を登れば、目も眩む青空が広がっていた。

「さぁ!本日のメインイベント!アンデシン最強の剣闘士・3286ことサードニクスの登場だぁーー!!」

割れんばかりの歓声。

闘技場に詰めかけた人の波。

強い日差し。

熱い風。

乾いた土を踏みしめて前に進む。

これから俺は闘う。

いつもと同じ景色。

何も変わらない。

何も。

「ルールは簡単!五人の奴隷チームが一人でも生き残れば奴隷チームの勝ち!相手はアンデシンの選りすぐりの兵士たち!どっちが勝つかさぁ、賭けた賭けたぁーー!!」

札束が客席を行き来する。

それを横目に見ながら闘技場の中央に立つ。

ぎらつく太陽と眩しい空を仰ぐ。

うるさい心臓に手を置いて深呼吸した。

乾いた空気が喉に張り付いた。

「カーネリアン様復活祭最終試合!はじめーー!!」

ドラの大きな音と共に、向かいのゲートから武装した兵士二人と騎兵が二騎現れた。

歓声がさらに大きくなる。

馬に乗った騎兵が闘技場の周りを駆ける。

兵士の一人がこちらに向かって来た。

構えたグラディウスで鋼を受け止める。

もう一人の兵士に後ろの剣闘士が何人か向かって行ったが、すぐに一人やられた。

奇石きせきの呪縛。

命が散る時、その体は結晶クリスタルとなり、土にも還れず天にも召されない。

仲間がやられ、結晶クリスタルとなっていく様を見た誰かの悲鳴が聞こえた。

「随分余裕だな。お前の相手は俺だ!」

視線を戻すと兵士は俺を見て笑っていた。

舐められたものだ。

鍔迫り合いから剣を弾く。

素早く乾いた土を手に取り、相手の目に叩きつけた。

目を抑えた隙に胸を一突きした。

赤い血が溢れ、もがきながら倒れていく。

しばらくして動かなくなり、体が結晶クリスタルとなった。

「ご覧ください!これがアンデシン最強の剣闘士の姿です!!この闘いっぷり、まさに闘うために生まれたと言っても過言ではありませーーん!!」

「サードニクス、もう一人倒したぞ!?」

「さすがアンデシン最強!!強ぇ〜!!」

「いいぞ!もっとやれー!!」

「お前に賭けたんだ!勝ってくれなきゃもってかれちまう!」

うるさい歓声。

突き刺した自分の剣に変わり、動かなくなった兵士から持っていた剣・シャムシールを奪う。

数回振って感覚と重さを確かめ、もう一人の兵士に斬りかかる。

先程自分が戦っている間にもう一人やられた。

その結晶クリスタルとなった体に足を取られた隙に首元に刃を入れた。

吹き出した血が顔にかかる。

噎せ返る鉄の匂い。

騎馬から矢が飛んできた。

斬ったばかりの兵士の体で矢を防ぐ。

避けきれなかった一人が喉に矢を受けて倒れた。

痛みと苦しさで呻いていたが、やがて静かになり同じように結晶クリスタルになった。

相手が矢を構える隙を見て駆け出した。

落ちていたナイフを拾い馬に投げる。

脚に刺さり、痛みに暴れ回る。

振り落とされた兵士に馬乗りになる。

抵抗されたが体重を掛けて首に剣を突き立てると、しばらくして動かなくなった。

「サードニクス強い!強すぎる!!さすがアンデシン最強の剣闘士ーー!!もう三人も倒したぞ!!残るは一人!さぁどうする!?」

場内の歓声に煽られたのか、残る一騎に跨る兵士が槍を構えた。

「貴様!よくも俺の仲間を!ただで死ねると思なよ!」

そんな台詞、何度も聞いた。

未だに俺は死んでいない。

馬を走らせ向かってくる兵士。

寸前に身を交わし、馬の脚に刃を入れる。

馬が前のめりになって倒れ、乗っていた兵士も振り落とされた。

落ちた槍を拾い、切っ先を兵士に向ける。

「ま、待て!待ってくれ!!」

何か言うより先に槍を胸に突き刺した。

兵士は口から血を吐いて、やがて動かなくなった。

結晶クリスタルとなる体。

流れた血すらも石になっていく。

観客が立ち上がって歓声をあげた。

「勝者は奴隷チーーム!やはりサードニクスは最強の剣闘士だぁーー!!」

俺に賭けていたであろう観客が満面の笑みで褒め称えている。

くだらない。

槍を貫いた兵士が纏っていたマントを外し、体に付いた返り血を拭う。

「あ、あの……!」

不意に声をかけられた。

俺以外に生き残った剣闘士。

ずっと逃げ回っていたのか、足が砂埃で汚れていた。

「お前のお陰で助かったよ!……ありがとう!」

俺は何もしていない。

ただ闘っただけだ。

そうする以外に選択肢はなかったから。

何も言わずゲートに戻って行く。

途中、観客席で日差し除けの屋根の付いた一際豪華な特等席が目に入った。

きらびやかな赤い衣服を纏い、両手に女を抱いた男が見える。

アンデシン領主・カーネリアン。

忘れもしない。

俺をこの闘技場に放り込んだ張本人である奴と目が合った。

カーネリアンは楽しそうに俺を見て拍手して見せた。

その態とらしい仕草が気に入らず、血を拭ったマントを投げ捨てゲートに戻る。

アンデシン領主の復活祭と題された今日の最終イベントに、観客の声援は止むことはなかった。

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