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所変わってアレキサンドライトとルーベライトの二人は城壁沿いを探していた。
二人の姿を見るなり、城内の警備に就いていた兵士達は背筋を真っ直ぐに伸ばし敬礼した。
それに答えるようにルーベライトは笑顔で手を振ると、兵士から「おい、今の見たか?」だの「今日も可愛いな〜」だの浮ついた小声が聞こえた。
だが、そんな声にも気が付かない程、今のアレキサンドライトは生きた心地がしなかった。
闇雲に茂みを掻き分ける度、近くの兵士からお探し物ですかと尋ねられ、何でもないと取り繕ってはその場を離れるのであった。
知らずの間に大きなため息をついていた。
「大丈夫ですよ。きっと見つかります」
再度ルーベライトは笑顔で声をかけた。
「……すまない。元はと言えば、管理を怠った私が悪いのに」
「私も大事な物をなくしてしまったら気が気でないですもの。そうですわ!おまじないをしましょう!」
閃いたように目を輝かせルーベライトは提案した。
「おまじない?」
「はい。なくした物が見つかるおまじないです!神様にお願いするんです!」
もはや神頼みしか残されていないのかと肩を落とすアレキサンドライトだったが、そんな彼の両手を取る。
「こうして手を繋いで、お願いするんです。『無い無いの神様、無い無いの神様、探し物は何処ですか?』」
ルーベライトはまるで呪文を唱えるかのように言葉を紡ぐ。
思わず尋ねてしまう。
「……何だそれは?」
「神様にお願いして探し物を手伝って貰うんです。ほら、アレクも一緒に!」
アレキサンドライトは近くに誰もいない事を確認すると、恥を偲んでルーベライトと共に言葉を紡いだ。
「『無い無いの神様、無い無いの神様、探し物は何処ですか?』」
すると、城壁を身軽に駆ける白猫の姿が見えた。
口には深緑の駒が咥えられている。
「いた!」
「ね?」
見つかったでしょう?と言わんばかりに笑うルーベライト。
このチャンスを逃してなるものかと、アレキサンドライトは白猫を追って走り出す。
途中、白猫がさらに高い塀に飛び移ると、アレキサンドライトも近くにあった木を身軽によじ登り、その後に続いた。
「アレク、危ないです!」
下から聞こえるルーベライトの声に大丈夫だと返し、ついに白猫を追い詰める。
白猫は駒を側に置き、体を舐めて毛繕いしている所だった。
アレキサンドライトの気配に気付き、声を低くして唸る。
今迄必死に追っていたため気が薄れていたが、いざ猫を目の前にし、アレキサンドライトの全身から冷や汗が流れる。
ふと下を見ると、かなりの高さを登っていたようで、不安定な足場でのこの境地に絶望感を抱く。
「しゃー!!」
「ひぃぃぃぃいいい!!!」
歯を剥き出して威嚇する声に悲鳴をあげる。
丁度白猫を追って来たアイオライトとクオンタムも、城壁の上の彼らの攻防を見つけ駆け寄る。
「アレク、大丈夫ー?」
クオンタムが声を張ると「無理だ!!」と情けない涙声が返ってきた。
「貴様も男だろう!?意気地を見せろ!」
「出来るわけないだろう!?」
そうアイオライトに返していると、白猫が一歩、また一歩とアレキサンドライトに近付いて来た。
「ひぃぃぃぃ!!来るな!!来るなぁぁぁあ!!」
逃げるに逃げれないこの状況、絶体絶命だと思われた時、アレキサンドライトの前に一つの影が舞い降りた。
艶々と光る黒い毛並み。ツンと立った小さな耳。暗闇でもギラリと光る縦長の目。虫や鼠をいたぶる鋭い爪。くねくねと柔らかくしなやかな体。こちらを伺うように動く、又の割れた長い尻尾……
「あ!いつかの黒猫くん!」
クオンタムの声に応えるように、現れた黒猫は二つに分かれた尻尾を揺らした。
ルーベライトはその黒猫の正体を知っている。
アレキサンドライトを七国王とし、ロイヤルゲームへと誘った死神・ルシファーだった。
「助けてくれるのでしょうか?」
ルーベライトの声に黒猫は一声鳴いた。
「ひぃぃぃぃぃ!!もう一匹きたぁぁぁぁ!!??」
腰を抜かし怯えるアレキサンドライトを余所に、黒猫は白猫に威嚇する様に全身を逆立てて低く唸る。
「にゃー」
「にゃー」
「しゃー!!」
「しゃー!!」
「ふしゃーー!!!」
「ふしゃーー!!!」
「ひぃぃいいいいい!!!!」
激しくなる威嚇にアレキサンドライトも悲鳴を上げた。
激しい威嚇の末、白猫は鋭い爪を向け黒猫に飛び掛かる。
対する黒猫も鋭い爪で抗戦する。
まるで縄張り争いを見ているような激しい喧嘩だった。
「アレク!今だよ!早く駒を!!」
そうクオンタムに言われ、アレキサンドライトは恐る恐る手を伸ばし、駒を取ろうとするのだが、二匹の激しい喧嘩に悲鳴を上げては手を引っ込めて怯えている。
「何をやっている!?早く取れ!」
痺れを切らしたアイオライトに怒鳴られながらも、何度手を伸ばそうとしても、傍で暴れる二匹が怖くて届かない。
「アレク!頑張って!」
ルーベライトの声に今度こそと手を伸ばした途端、尻尾が当たり、駒が倒れてしまう。
ころりころりと転がり、城壁から落ちてしまう。
アレキサンドライトは意を決して身を乗り出して駒を掴むが、バランスを崩して落下してしまう。
ルーベライトが悲鳴を上げて目を覆うと同時に、アイオライトとクオンタムが反射的に駆け寄り、落ちたアレキサンドライトを受け止める。
が、上手くキャッチできるわけがなく、下敷きになる形でアレキサンドライトを受け止めた。
ルーベライトは急いで駆け寄る。
「皆さん、大丈夫ですか!?」
「痛たたたた……腰打った……」
「重いのだよ!いつ迄乗っかっている!?」
腰を摩るクオンタムをアイオライトが押し退ける。
だが、肝心のアレキサンドライトが中々起き上がらない。
まさかと思い、恐る恐るアレキサンドライトの肩を揺さぶる。
「アレク?大丈夫ですか?」
ルーベライトの声にゆっくりと瞼を開ける。
守るように硬く閉じた両手をゆっくり開く。
深緑の獅子の駒は無事だった。
駒の無事に安堵し、アイオライトはふぅと息をついた。
「やれやれなのだよ」
「本当だよ、皆に心配かけて!」
クオンタムに肘で小突かれ、謝罪と共に礼を言う。
「助かったよ、二人とも」
「礼はいい。それより二度とこんな事がないようにしろ!付き合ってられないのだよ!」
「まったくだよ、もう!」
二人にそう言われながらも、アレキサンドライトは手元に戻った駒を見て、やっとの事で安堵の表情を浮かべた。
「良かったですわね」
にこりと笑顔で声を掛けてくれたルーベライトに頷いた。
「ありがとう。おまじないが効いたみたいだ」
「でしょう?」
鈴のように笑うルーベライトに、アレキサンドライトはもう一度手の中の駒を見る。
傷付かず、無事に手元に戻ってきたのは彼女たちのおかげだ。
その後、すぐにパイクを持った兵士がやって来て、二匹の猫は城外に追いやられた。
城外に逃がすのに少々乱暴なやり方で、助けてくれたのに可哀想だと呟いたルーベライトに『野良猫風情にそのような情はいらない』とアイオライトは不機嫌な顔で切り捨てた。
かくしてアレキサンドライトの駒を巡る騒動は、アイオライトの引っ掻き傷を残して無事に終焉を迎えたのである。




