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綺石のクラウン  作者: もももか
第七章 『キャッツアイ』
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II

穏やかな午後のひと時。

今日もルーベライトをモデルとした作品制作の合間、中庭で休憩がてらのお茶会をする事になった。

いつもの席でルーベライトが淹れてくれた紅茶を楽しんでいた時、姿を見せたアレキサンドライトを見てクオンタムは声を上げた。

「どうしたの?」

顔色が悪く、生気を抜かれたかのようにやつれた表情。

アレキサンドライトは何も言わず席に座った。

その様子を見兼ね、ルーベライトはクオンタムに耳打ちする。

「今朝、アレクのお部屋にネコさんが遊びにいらしたようで」

「ネコ?」

「塀伝いに開いていたバルコニーから入ってきたらしくて。お目覚めがよろしくなかったようなんです」

アレキサンドライトが大の猫嫌いというのは親しい間では有名な事であった。

クオンタムがそれを知ったのは、彼の肖像画を描かせて貰う事になってからだった。

『クライアントの娘さんから可愛いポストカード貰っちゃった〜』

可愛い子猫のデッサンが描かれたポストカードだった。

他愛ない雑談の中、そのポストカードを見せた途端、彼は悲鳴を上げて部屋の隅に逃げた。

その怯え方は、自分が抱いていた彼のイメージを崩させるには十分だった。

近い将来、サンドライトを背負って立つであろう若獅子と謳われるアレキサンドライト。

剣術に長け、何事も器用に卒なくこなし、民の憧れの的である、人として最高のステータスを兼ね備えている彼は、大の猫恐怖症であった。

つい先日もルーベライトと一緒にいた際に黒猫が現れ、見た途端腰を抜かして逃げていたなと思い出した。

この様子じゃ今朝は相当の騒ぎになっていたのだろうとクオンタムは思わず吹き出してしまった。

「笑い事じゃない!」

アレキサンドライトはテーブルを叩き声を荒げた。

「ごめんごめん、でも、想像しただけで面白くて……!」

堪えようとしていたクオンタムだが、想像しただけでまた吹き出してしまった。

「普通の人なら可愛いサプライズだけど、君にとっては大問題だったんだろうね」

「起きた時にネコさんが枕元で寝ていたら、可愛いくて和んでしまいますものね」

「二人は奴らがどれだけ恐ろしい生き物か分かっていないんだ……」

あたかも仇のように忌々しい調子でアレキサンドライトは呟く。

「ツンと立った小さな耳。暗闇でもギラリと光る縦長の目。虫や鼠をいたぶる鋭い爪。くねくねと柔らかくしなやかな体。こちらを伺うように動く長い尻尾……考えただけで恐ろしい……!!」

「そうかな?フワフワしてて可愛いと思うけど?」

「のんびりしてらっしゃる所を見ると、とっても羨ましいですわね」

「奴らはそんな平和的な動物じゃない。己の欲望のままに生きる悪魔だ……!!」

そんな大げさなと返すクオンタムだが、今朝の出来事が余程怖くてショックだったのか、アレキサンドライトの表情はますます強張るばかりであった。

「アレクはどうしてネコさんが苦手なんですか?」

淹れてやった紅茶を差し出しながら、ふとルーベライトは尋ねた。

「え?」

「そういや嫌いになった原因聞いてなかったね。いつから苦手なの?」

二人から問われてアレキサンドライトは暫し考えた。

少しの間を開け、ポツリと返す。

「……わからない」

「小さい頃から苦手なんでしょ?何かされたの?」

「いや、物心付いた頃にはもう怖くて……自分でもよくわからないんだ」

「理由もわからないのに嫌いなの?」

「それじゃあネコさんが可哀相です」

二人から同時に言われ、ぐっと喉を詰まらせた。

「これを機に克服してみたら?」

ぎょっと目を見開くアレキサンドライトとは対象的に、ルーベライトはいい考えだと頷いた。

「アレクもネコさんとお友達になりましょう」

「冗談だろう!?無理だ!」

「良い年した大人が、それも一国の王様がネコが怖いなんて方が冗談だと思うけど?」

「それは……」

「仮にも君はサンドライトの『若獅子』って呼ばれてるんだよ?ライオンが大丈夫なのになんで小さいネコが駄目なのさ?」

そのクオンタムの言葉の後に、ある人物の声が聞こえた。

「同感だな」

声がした方を見ると、仁王立ちした見覚えのある人物が一人。

海のような青い瞳を鋭くさせたラズライト王子・アイオライトだった。

「出たなープンプン王子」

じとりと睨み付けながらクオンタムは言う。

「お兄様、いらしていたんですか?」

「あぁ。軍の用事があってな。近くだったから寄ってみたんだ」

父であるラピスラズリが倒れて以来、アイオライトの執務は多忙であった。

各地の駐屯地へ視察へ出るのも珍しくない話で、今日はサンドライトとの国境沿いまで来ていた。

妹の顔を一目みたいと早々に仕事を片付け、早馬を飛ばして城まで来たようだった。

アイオライトはルーベライトの姿を見るなり足早に駆け寄り、白く細い両手を取る。

「ルーベ、元気でやっているか?体は壊していないか?陰湿な女官に嫌がらせなどされていないか?辛かったらいつでも」

「辛くありませんから帰りませんわ」

以前にも見た事のある光景にうんざりするかのようにクオンタムは横目で見ながら紅茶を飲んだ。

アイオライトはアレキサンドライトにと出されていた紅茶を横取りし、彼に詰め寄る。

「話は聞かせてもらった。貴様、何寝言を言っている?それでも一国の当主か?」

「誰にだって苦手な物の一つや二つあるだろう?」

「一般庶民ならそれも許されるだろう。だが貴様は別だ。戦で兵器として使われた時、貴様は平常でいられるのか?」

戦場に猫……

クオンタムは想像してみた。

多くの猫が一列に配備され、にゃーにゃー鳴いている様が浮かんだ。

あまりにもシュールな光景であった。

「あり得ないんだけど」

「とても可愛らしい敵さんですわね」

ルーベライトに至ってはクスクスと笑っていた。

だが、アレキサンドライトは違った。

顔色を更に悪くし、頭を抱えガタガタと震えている。

「……終わりだ」

「そんな事で終わらないでよ!」

クオンタムのツッコミも耳に入らないのか、アレキサンドライトの震えは止まらなかった。

「東国に弱点を握られてみろ?何をされるかわかったものでなはい」

「例えばどんな風にですか?」

言われてアイオライトは考えを巡らせる。

「大砲の玉変わりに城内にネコを砲撃されたり」

「城中ネコさんだらけになってしまいますわね」

「ひぃっ!!」

二人の言葉にアレキサンドライトは悲鳴を上げた。

「拷問の道具として利用されたり」

「お膝に乗せられたらあったかいですわね」

「ひぃぃっ!!!」

アレキサンドライトは更に高い悲鳴を上げた。

「牢獄に大量に投入されたり」

「ネコさんパラダイスですわね」

「ひぃぃぃっ!!!!」

アレキサンドライトの尋常ではない怯え方にクオンタムはしっかりしてよと背中をさすってやる。

彼の怯え方を見て、改めてルーベライトは言う。

「やはり、克服するのが一番ですわね」

「そういう事だ」

「確かにネコのせいで国が落ちたなんてなったら、それこそシャレになんないしね……」

アレキサンドライトは嫌な予感がした。

逃げようと席を立った時、アイオライトに首を摘まれ、そのまま引きずられてしまった。

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