XIII
翌朝。
アラゴナイトを発つ朝。
一行は最後の挨拶にアラゴナイト城に立ち寄る予定だった。
宿を出る際、包帯を巻いた手を見た途端セラフィナイトから質問攻めに合った。
助け舟を出してくれたのはアイオライトだった。
二人で酒を楽しんでいた時、自分が割ったグラスを片すのに怪我をさせてしまったという内容だった。
破片で切ったにしては大怪我に見えますがと問われると、雑菌が入らないよう念を押すのは当たり前だと返した。
セラフィナイトはそれ以上追求してこなかった。
「助かった。恩に着る」
「隠すならもっと上手くやれと言ったはずだ。見ているこっちが気が気でない」
あんな小僧にしてやられてとも小言を言われたが、身を案じてくれた事に礼を言うと、いつものように耳を赤く染めていた。
アラゴナイト城に着くと、王と王妃、そして浮かない顔のトパーズが待っていた。
「貴殿らと過ごせた時間、とても楽しかった。よければまたアラゴナイトへいらしてください」
「さ、トパーズ。陛下たちにご挨拶は?」
トパーズはずっと下を向いていた。
無理もないだろう。
大人のアイオライトですら視線を外してしるのに、昨日の今日で少年が平常でいられるはずがなかった。
王妃の影に隠れてずっと下を向いている。
アレキサンドライトは膝を折って優しく声をかけた。
「チェスの決着、まだ着いていないだろう?いつでもサンドライトに来てくれ。待っているぞ」
ポンポンと頭を撫でると、トパーズは顔を上げた。
しかし、手に巻かれた包帯に目がいくと、何も言わずそのまま城の中へ戻ってしまう。
「何だか元気がないですね」
「お気に入りのぬいぐるみをなくしてしまったようで……ごめんなさいね」
「あの黒いクマちゃんですか?可愛かったのに残念ですね……」
何も知らないセレスタイトが王妃と話していると、戻る際に一度だけトパーズがこちらを振り返った。
気付いたルーベライトが笑って手を振るが、それも効果はなく、トパーズは俯いたまま城の自室へ戻って行った。
馬車に乗り込んだ後も、トパーズの様子が気掛かりなセレスタイトは、どうにかできないかと考えていた。
「雑貨店で代わりのぬいぐるみ見つけて来ましょうか?やっぱりクマが好きなのかな?ウサギも可愛いですよね」
「ぬいぐるみの問題ではありませんわ」
「そうですか?じゃあ何がいいかな?木馬だともう喜ぶ年頃じゃないですし……」
「何故他所の子に玩具を買い与えねばならんのだ。放っておけ」
「でも可哀想ですよ。あんなにしょんぼりしちゃって。私もあんな可愛いクマちゃん、なくしちゃったら落ち込みます」
「クマの話はもういい!目障りなのだよ!」
ぴしゃりと怒られ、セレスタイトは謝りそれ以上話さなかった。
街を流れる運河と、延々と続く楓の木々。
馬車からアラゴナイトの街並みを眺めていると、一人の少年とすれ違った。
少年は城の方へ走って行く。
アレキサンドライトは窓越しに少年の後ろ姿を見て優しく笑う。
「大丈夫。ぬいぐるみより、もっと大切な人が来てくれるさ」




