VII
その夜はアラゴナイト城で晩餐会だった。
客人に最上級のもてなしをと城の料理長が腕を振ってくれた料理はとても美味しかった。
食事の席では粗相のないようにと事前に注意を受けていたトパーズは何も言わず、それでも彼らの行動をじっと観察していた。
七国王のアレキサンドライトとアイオライト。
自分が戦う相手の行動を見逃すまいと凝視している。
そんな彼の視線に二人は最初から気付いていた。
アレキサンドライトは特に何事もないように振舞っていたが、先に声を掛けたのはアイオライトだった。
「見られている」
「そうだな」
「それだけか」
「相手は子どもだ。知らない大人と食事するのに緊張しているんだろう」
こちらを見るのに必死で、手元が疎かになり口の周りにソテーのソースがついている。
隣の椅子にはお気に入りのものなのか、昼間抱いていた黄色いリボンが巻かれた黒いクマのぬいぐるみを座らせている。
どう見ても可愛い盛りの子どもだ。
ワインのおかわりはいりますかとの給仕の声に、アレキサンドライトはグラスを差し出す。
「あの目付き。気に入らん」
「普段のお前と比べたら可愛い方だと思うがな」
キッと睨むが、当の本人はワインを次いでくれた給仕に礼を言い、視線を合わせようとしなかった。
「そう言えば、アレキサンドライト陛下が王座に就いてから、こうして皆で食事をするのは初めてですな」
話の節目にアラゴナイト王はこちらに話しかけてきた。
「まだまだ父には及ばない部分もありますが、今後共アラゴナイトとは良き仲でいたいと思っています」
「そう言っていただけるとこちらも嬉しいですわ」
「この百年間、戦は治まるどころか激化する一方だ。身を削り国を守る貴殿らからすれば、我らのような国は臆病者で邪魔な存在なのかもしれん。しかし今、両者の間に位置する我らがどちらかに加担すれば戦は止められん。どちらかが滅ぶまで戦い続ける事になるだろう。私は、そんな世界になってほしくないのだ」
食事の手を止め語り掛ける王の言葉を、アレキサンドライトは親身になって受け止めた。
「陛下の御言葉、正にその通りだと思います」
「誤解しないでくれ。貴殿らが悪いという話ではないのだ。ただ、一日でも早く両国が手を取り合える仲になれる事を、私は願っているのだ」
「この時代に陛下のような想いを貫くのは至難だと思います。東との和平を願っているのは私もアイオライトも同じです。血を流す事のない、皆が笑い合える世界が一日でも早く訪れる事を切に願っています」
突如テーブルを勢いよく叩く音が響いた。
トパーズだった。
ガタリと勢いよく立ったせいで、座っていた椅子も後ろに倒れてしまっている。
「トパーズ、失礼でしょう!」
王妃の言葉も虚しく、トパーズは食堂から出て行ってしまった。
「行儀の悪い小僧だな」
「お兄様」
思わず出てしまったアイオライトの言葉をルーベライトは咎める。
「申し訳ない。近頃、義戦運動やらで外で遊べていないせいかストレスが溜まっているのだろう。許してやっていただきたい」
「仲良しのお友達とも遊べないで辛い思いをさせてしまっていますの。ごめんなさいね」
あれくらいの年の男の子なら、もっと外で遊び回りたいだろう。
自分もよく近衛兵や、城の兵士たちにせがんで遊んでもらっていたのを思い出した。
ずっと城の中で大人しくしているのはさぞ辛いだろうと思った矢先、彼はある物を抱えて戻ってきた。
小さな手に大きなチェスボード。
アレキサンドライトとアイオライトの元に来るなり、彼は言う。
「遊べ」
「は?」
「オレと遊べ。勝負だ」




