VI
間もなく、アラゴナイト、サンドライト、ラズライトの合同慰霊祭は行われた。
水城の湖の畔、立てられた慰霊碑を囲むように参列者が並ぶ。
アラゴナイト主催のこの慰霊祭は毎年行われている。
中立国ということで、西と東、双方に配慮し年をずらし、今年は西国同盟との年だった。
アラゴナイト側は西国同盟諸国全ての国に式の招待状を送ったそうだが、参列の返事が返ってきたのはサンドライトとラズライトだけだった。
どっち付かずな優柔不断な国と関わりたくないのでしょうとアラゴナイト王は笑っていた。
恐らく東国連合の年でも同じ思いをしているのだろう。
長く続く戦で命を散らした同胞に捧げられる鎮魂歌。
セレスタイトはロードナイト教総本山の出身という事で、今回の式の代表として人々の前で祈り唄を唄う。
普段あの小さな体からは想像も出来ない神秘的な姿。
自分の隣では、アイオライトも同じ祈り唄を唄っていた。
神を信じていない自分はその唄を唄えないが、この長い戦で散って行った人々の魂が少しでも楽になるのならと静かに祈りを捧げた。
隣のルーベライトの様子に気付いたのは、丁度唄が詠まれ始めて数分経った頃だった。
どこか遠くを見つめているような、触れては壊れてしまいそうな表情。
思わず声を掛けた。
「気分が悪いのか?」
自分の声にも気付かず、ただ遠くを見つめている彼女。
名を呼べば、やっと気付いてくれた。
「体調が悪いのなら休んでくれ。後はこっちでやっておく」
「……いいえ。そうじゃないんです」
彼女は式を邪魔しないよう、小さな声で話してくれた。
昔、恋人が戦で命を落としたと。
初めて愛したその人は、彼女を残し、戦に出たまま帰らなかった。
この時代、その手の話はごまんと聞いた。実際自分の父も戦で命を絶った。
それでも彼女の口から想い人の話を聞くのは、自分にとって意外に思えてしまった。
「本当は、どこかで彼が生きているんじゃないかって、そう思ってしまうんです。いけませんね……もう気持ちの整理が付いたと思っていたのに……私はまだ、前に進めていない」
「無理に進まなくていい。ゆっくり、時間を掛けて進めばいい」
母が死んだ時を思い出した。
自分はそんな悠長な事を言って許してもらえる立場ではなかった。
気持ちの整理も上手く出来ないまま、多くの死を見てきた。
だから、この世界は神様から見放されたんだと思うようになってしまった。
彼女には自分と同じ思いをして欲しくなくて、アレキサンドライトは静かに囁いた。
「辛いなら、立ち止まってもいい」
「……はい」
高くそびえる慰霊碑を見上げる。
彼にこの鎮魂歌は届いているのだろうか。
「……早く、戦のない世界が来るといいですね」
心配させまいと笑う彼女は、いつもより無理をしていた。
そんな彼女が背負う重荷を、少しでも軽くできるのなら。
アレキサンドライトは誰にも気付かれぬよう、ルーベライトの手を握った。
魂を鎮めるため、街の塔にある鐘が鳴り響く。
いつもは定時になるとその時間を知らせるために鳴る鐘が、今は戦で命を落とした者たちに向けて鳴らされている。
城からの帰り道、街の楓通りでシトリンは鐘の音を聞いた。
鳴り止まない鐘の音。その高くそびえる塔を見上げる。
そう言えば、この鐘の音が鳴るまでよく彼と遊んだっけと思い出した。
黄色に色付く楓の木々を抜けて走り回り、落ち葉に足を取られて転んで、痛くて二人で泣いた事もあった。
どっちが大物を釣れるか勝負しようとムキになり、川に落ちて服が乾くまで家に帰れなかった事もあった。
木登りを教えてくれたのは彼だった。登りやすい木を見つけては得意気に上から笑っていた。
代わりに自分は持っていた本を見せてあげた。文字ばかりだと眠たくなってしまうからと、お気に入りの絵本を見せれば興味を持ってくれた。
ついこの前まで当たり前だった日常が、どこか懐かしく、遠くに感じた。
「トパーズのバカ……!」
誰にも聞こえない呟き。
少年は振り返らず家路を走った。




