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綺石のクラウン  作者: もももか
第六章 『トパーズ』
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IV

セラフィナイトやラズライト側の使者とは後で合流するとして、四人はアラゴナイトの船頭の案内で船に乗り込んだ。

船と言ってもこの運河を行き来するカヌーより少し大きいだけで、こんなボロ船で大丈夫なのかとアイオライトは一人顔色を悪くしていた。

先程見えなかった魚だが、アレキサンドライトが指差す水面を見ると、ゆっくりと泳いでいるのが見えた。

「わぁ!お魚さんだぁ!」

身を乗り出して水面を見るセレスタイト。

珍しい景色にはしゃいでいるのは彼女だけでなく、ルーベライトも同じように見るもの全てに目をきらきらさせていた。

レンガ作りの三角屋根と楓の木々がゆっくりと流れて行く。

途中、街中で大きな声を耳にする。

運河からその声のする方を見上げた。

男性が一人、必死に何かを訴えて演説しているようだった。

「皆さん、アラゴナイトは長い間中立を保ってきました。戦を嫌い、常に物資で解決してきた代償が今のアラゴナイトの領地です。この百年で領地の1/3は東西の諸国に奪われました。それでも戦は消えない。もう黙っていては戦は収まらないのです!今こそ武器を取り、立ち上がろうではないですか!」

民衆を前に男は臆する事なく意見を述べる。

「何の話でしょうか?」

「ただの民衆の戯言だ。相手にするな」

ルーベライトの問いかけにアイオライトは素っ気なく答えた。

「そう言えば、アラゴナイトは今革命家たちの義戦運動が盛んだと聞いた」

「義戦?」

「非戦を唱える王族との対立だ。戦をしない王族に代わり、自分たちが武器を取り戦おうとしているんだ。こんな街の中心部で演説している所を見ると、噂は本当だったみたいだな」

アレキサンドライトは民衆の前に立つ男を見上げる。

彼もまた自分の信念を貫かんと立ち上がり、戦おうとしているのだと思うと、他人事のように思えなかった。

「馬鹿馬鹿しい。戦をしたいなどと騒ぐのは本当の戦を知らんからだ。西も東も戯れで戦をしているのではないのだぞ」

アイオライトの言う通りだった。

自分たちは国と民のため、平和のために戦をしている。中立国として和平を保つアラゴナイトからこのような義戦を唱える革命家が生まれる事は何とも皮肉な話であった。

「貴様カルサイト!また王家を愚弄する気か!?」

「今すぐやめろ!!」

「王家の侮辱罪で引っ捕らえるぞ!?」

武器を持った兵士たちが騒ぎを聞き駆けつけて来た。しかし、革命家の男は怯む事なく言う。

「ご覧ください、皆さん!民衆の声を武力でねじ伏せようとする彼らの姿を!これが今のアラゴナイトです!剣を西と東に向けず、我らに向けているのが今の王族のやり方です!!」

その声に民衆は同調する。

「酷いわ!自分の意見を言っているだけなのに!」

「何も捕らえる事はないだろう!」

「誰に剣を向けているんだ!」

騒ぎが大きくなり、収集が付かなくなってしまう。

必死に兵たちが声を上げて民衆を散らしていく。

それを見つめ、アイオライトは呟く。

「アラゴナイトが堕ちるのは、そう遠くない話なのかもしれんな」

その冗談にアラゴナイトの船頭は小さく肩を揺らした。

「……何とかできないのでしょうか」

「本当は西側に付いてもらいたいのがこちらの意見だが、それができればこんな話にはなっていないだろうからな。難しい話だ……」

ルーベライトの願いに、アレキサンドライトは言いにくそうに答えた。

彼らの姿が見えなくなるまで、ルーベライトはその騒動を見つめていた。

運河に掛かる橋が見えた。

オレンジ色の橋の下をくぐると、水城・アラゴナイト城が見えてきた。

運河の水を利用し、堀で守られたその城が今日の式の会場だった。

待っていた使者の手を借り船から降りる。

通された城内の先で、アラゴナイト王と王妃が出迎えてくれた。

「これはこれは。アレキサンドライト陛下、アイオライト殿下、遠路遥々よくぞおいでくれました」

「お招きありがとうございます」

「本日の式に参列できる事、光栄に思います」

割腹の良いアラゴナイト王に差し出された手を取る二人。

何時もは眉間が寄っている不機嫌なアイオライトだが、このような公の場ではきりっとした公務モードの顔に切り替えている。

それを見たセレスタイトは一人うっとりしていたが、アラゴナイト王妃から手を差し出されて慌ててそれを取った。

「親善大使のルーベライトです。本日はお招きありがとうございます」

ドレスの裾を少し上げ一礼するルーベライト。

その可憐な姿に、アラゴナイト王と王妃は目を奪われる。

「噂には聞いていましたが……驚いた。陛下にこのような絶世の美女がいただなんて」

「違います。私の妹です」

アレキサンドライトが物言う前に、隣のアイオライトが身を乗り出し即座に答えた。

「これは失礼。殿下の妹君でしたか」

「ラズライト王にこんな美しいご息女がいたなんて知りませんでしたわ」

「サンドライトとラズライト。両国だけでなく、アラゴナイトとも架け橋になれるよう精進いたします」

花が咲いたようなルーベライトの笑顔に、周りの警護についていた兵士も見とれている。

王と王妃に知られぬよう、アイオライトがギロリと睨みつけると兵士は背筋を正し、視線を正面に向けた。

「こちらもまだ紹介していないのがおりまして」

「どこに行ってしまったのかしら?トパーズ、出てらっしゃい」

王妃の声に一人の少年が顔を出す。

その幼い顔付きは十を数えるくらいに見える。

小さな背に大きな羽帽子。そこに付けられたアラゴナイトを象徴とする熊のペールピン。

一国の王子らしく上品で仕立ての良い衣装。オレンジ掛かった茶色の跳ねっ毛。蜂蜜色の瞳はこちらをキッと睨んでいる。

その目つきとは対象的に、首に黄色いリボンが巻かれた愛らしい黒いクマのぬいぐるみを抱いている。

「さ、トパーズ。お客様にご挨拶は?」

王妃が優しくトパーズに話しかけるが、彼の目の鋭さは変わらない。

初めて見る知らない大人たちに警戒しているのだろうと、アレキサンドライトは目線を合わし優しく声をかけた。

「こんにちは」

トパーズはプイと顔を背け、王妃の制止も虚しく城の奥へと逃げて行ってしまった。

「申し訳ありません。普段は良い子なのですが……」

「構いませんよ。私もあれくらいの年は人見知りでしたから」

そろそろ時間が迫っているのか、一人の兵士が式場へ移動するよう伝えに来た。

それに従い、一行は揃って式場に向かう。

柱の影から一行を見つめていたトパーズは、抱いていた黒いクマのぬいぐるみに話しかける。

「ベルフェゴール、アイツらがそうなのか?」

「はい、坊ちゃん。七国王ヘプタークのアレキサンドライト陛下とアイオライト殿下です」

モコモコとした柔らかい毛を揺らし、ぬいぐるみは喋る。

「アレキサンドライト陛下はロイヤルゲームに勝利してアイオライト殿下を手懐けています。彼は言わば『僕』と言うものです」

「ボク?シトリンの事か?」

「それは一人称ですね。下僕、しもべ、召使いみたいなものです」

「じゃああの赤毛を倒せば『ロイヤルクラウン』が手に入るのか?」

「坊ちゃんは気が早いですね。あの方を倒せばまずサンドライト王国が手に入ります。『ロイヤルクラウン』は七国王ヘプタークを全て倒せば手に入りますよ」

「そっか。よし、わかった!」

踵を返そうと振り返った時だった。

トパーズは何かにぶつかり尻餅をついてしまった。

「いててて。何だよもう!」

「ごめんトパーズ、いきなり振り返るから」

ずれた眼鏡を掛け直すシトリンだった。

「あれ?お前よく城に入ってこれたな」

「まぁね。伊達にトパーズの友達やってないよ」

付いた埃を払い、落ちた本を拾いシトリンは言う。

「トパーズ、やっぱりやめよう?」

「何を?」

「ロイヤルゲームだよ」

「またその話かよ」

トパーズは立ち上がる。

「今更引けるわけないだろ?」

「トパーズは何も知らないんだよ!ゲームに勝っただけで、国や人を思い通りにできるはずないじゃないか!」

「王様は昔からそうやって来たってその本にも書いてたんだろ?」

シトリンは抱えていた本を握り締めた。

そうだろ?と転がっていた黒いクマを抱え直し、トパーズは話しかける。

「はい。古の時代より王の血を引く七国王ヘプタークたちによって歴史は作られてきました」

「ほらな?ゲームに勝ったら相手の国が手に入る。全員倒せば何でも願いが叶う『ロイヤルクラウン』が手に入る。父さんも母さんも喜ぶし、シトリンの父さんだってもう街中で演説しなくて済むだろ?」

「それは……」

「シトリン言ってただろ?父さんが家に帰って来なくて寂しい、武器を取る話を聞きたくないって。オレだって嫌だよ。もしそうなったらシトリンとも離れ離れになるかもしれないし……」

「そうだけど。でも、やっぱりヘンだよ!そんなに上手くいくわけない!」

「やってもないのにわからないだろ!?」

激しくなる口論に、ベルフェゴールが間に入る。

「お二人共、落ち着いてください。誰かに気付かれてしまいますよ?」

黒いクマのぬいぐるみは、あの死神が化けた姿だった。

シトリンはこのぬいぐるみの存在が大層気に入らなかった。

トパーズの手からそれを引ったくる。

「トパーズはボクとこのぬいぐるみ、どっちを信用するんだよ!」

「おやおや、ヤキモチですか?」

シトリンは図星を突かれたみたいだった。

それに気付かれたくなくて、ベルフェゴールの首を無理やり引っ張った。

「痛いです痛いです」

愛らしい仕草でもがくベルフェゴールにまた腹が立った。

「やめろよ!ベルフェゴールは関係ないだろ!?」

シトリンから奪い返し、大丈夫かと心配するトパーズ。

その姿を見ているのもシトリンにとっては辛かった。

「トパーズ、ヘンだよ。どうしちゃったの?」

「オレは変わってない」

「ボクはそんなトパーズ知らない。一緒に川で遊んだり、木登りしたり、シロップがいっぱい乗ったパンケーキ食べたり、前のトパーズが好きだった。ボクの知ってるトパーズに戻ってよ」

「……オレだってこの国の王子だもん。遊んでばっかじゃいられない」

「違うやり方があるよ!ボクも探すの手伝うから!だからゲームなんてやめよう?ね?」

「だったらもういい!!」

トパーズが声を張り上げた。

「ゲームはオレ一人でやる!シトリンはずっとあるかわからない方法、一人で探してればいいだろ!!」

「トパーズ……!!」

「オレはお前と離れたくなくて必死なのに、お前は何とも思わないのかよ!?ロイヤルゲームの話も、最初に話したのはお前じゃないか!!」

「そうだけど、でもボクは……!!」

「そんなに怖いんならやりたくないって言えばいいだろ!意気地なし!!『一生の約束』だって言ったのに!!約束を破る奴なんて知るか!!」

そう無理やり話を終わらせ、トパーズは走り去ってしまった。

自分から友が離れていく。

そんな虚しさと悲しさと寂しさに、シトリンは一人泣きたくなった。

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