III
馬車の中で揺られながら、当時を振り返るようにアレキサンドライトは思い出していた。
本当にこれで良かったのだろうかと。
「これで良いんです。セラフィナイト様が仰る通り、使えるものは使った方が良いですもの」
心の声が聞こえていたのかと驚いたが、そんな顔をしていたものでと笑う彼女は、向かいの席で先程子どもたちから受け取った花束を愛おしそうに眺めていた。
「両国の架け橋になれるなんて素敵な事じゃないですか。同盟国とは言え、数年前までは戦をしていた仲ですもの。サンドライトの方々にも良くしていただいてますし、私は問題ありませんわ」
私に何か出来る事はありませんか?とルーべライトが尋ねた時、両国の親善大使になっていただけませんかと提案したセラフィナイトを少し恨めしく思った。
「それに私、とても楽しいんですの。見るもの聞くもの、全て新鮮ですし。ラズライトの塔にいては見れない景色ばかりですもの」
サンドライトのお花もとても綺麗ですねと、貰った花束をくすぐるように撫でた。
「そうですわ!お城に戻りましたら、何かお手伝いさせてください!」
閃いたと顔を輝かせてルーべライトはアレキサンドライトに提案する。
「え?」
「お給仕でもお掃除でもなんでも結構です。しばらくお城にご厄介になりますもの、それくらいの事はさせてくださいな」
やはりしばらく帰らないのかというのが正直な感想だった。
ルーべライトがサンドライトに来た日、すぐに内緒でラピスラズリに書状を送った。
まだ病床に着く彼に心配はかけたくなかったが、一国の姫を無許可で預かるわけにもいかなかったからだ。
書状が届くのに日を要するため、今日はこのまま上手く理由を付けてラズライトに返すつもりだった。
「姫、お気持ちは嬉しいのですが……」
「そうと決まればなるべく早く帰りませんとね!運転手様、急いでくださいねー!」
アレキサンドライトの話を聞かないルーべライトがそう声をかけると、手綱を操る兵士のかしこまりましたと裏返った声が聞こえた。