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綺石のクラウン  作者: もももか
第三章 『ネフライト』
14/145

I

サンドライト東部、フローライトとの国境に近い駐屯地にアレキサンドライトはいた。

この戦が始まった時から溶ける事のない緊張は、祖国を守るサンドライトの志願兵も同じで、先日のラブラドライト攻略後、初めて兵たちの前に顔を見せた。

敵国から領地を奪い返した英雄に、兵たちは持てる全てで歓迎した。

「日々激化する戦の中、我が身をかえりみずこの地で祖国を守る諸君らの活躍、サンドライトの全ての民に代わり礼を言おう」

快晴の空にアレキサンドライトの声が響く。

「先日のラブラドライト攻略の成果も、諸君らがこの地を死守していてくれたからこそできたことだ。軍神と名を馳せた父にはまだ程遠いかもしれないが、祖国を守りたい気持ちは君たちと同じだ。サンドライトの平和と繁栄のため、今後も私の力になって欲しい」

主君の言葉に全ての兵士が膝を折り忠誠を捧げる。

「今日は私以外にも諸君らに労いの言葉を伝えに赴いてくれた客人がいる」

こちらへとアレキサンドライトが視線を舞台の袖に声をかけると、そこに見た事もない美しい姫君が姿を現した。

金色の長くて綺麗な巻き髪、大理石のような白い肌、花のように色づく頬にふっくらとした唇。

何より美しい、薔薇色の瞳。

土埃で汚れ、男しかいないむさ苦しいこの場所とは縁のない、ドレスに身を包んだ美しい異国の姫君。

ドレスの裾を持ち上げ、ゆっくりと舞台の中央に立つと、その形のいい唇が動いた。

「はじめまして皆さん。私はラズライト王女のルーベライトと申します」

愛らしい声と姿に兵たちの目は釘付けになる。

「陛下から両国を結ぶ『親善大使』の命を受け本日は参上しました。この地でのご活躍、ラズライトの代表として改めてお礼申し上げます。皆様のさらなるご活躍とご健闘、心よりお祈りいたしますわ」

見た事もない絶世の美女の労いは、アレキサンドライトの言葉を受けた時より明らかに反応が違った。

皆歓声を上げ、手を振る者もいれば、もっと間近で見ようと舞台へ押し寄せる者もいた。

兵士の様子を舞台の袖で見ていた近衛兵たちは口々に言う。

「現金だね、みんな」

「男なんてそんなもんさ」

「そりゃあんな綺麗な姫様がありがとうって笑顔で言ってくれてるんだぜ?俺だって喜ぶよ」

「さすがだな〜…」

「お前達、口を慎め」

背後にいたセラフィナイトの言葉に言い合っていた兵は背筋を正した。

「『親善大使』、適任ですね」

ルーべライトの言葉に改めて祖国の勝利を誓う兵士達。

噂を聞きつけてやって来たのか、近くの村人たちも笑顔で手を振り彼女を歓迎している。

複雑な表情でそれを見つめるアレキサンドライトにセラフィナイトは続ける。

「戦続きの兵にとって高嶺の花からの言葉は何よりも嬉しいでしょう。士気も上がります」

「同盟国の王女とは言え、彼女は軍人じゃない」

「あちらが申し出てくれた事です。甘えても問題ないでしょう」

「……私は反対だ」

主君がこの数日、ずっと難しい顔をしていた理由はなんとなくわかってはいた。

もちろん自分も同じ意見だ。

しかし、そうも言っていられないのも事実だった。

「金貨や報酬と同等の喜びを得てくれるのなら姫を使った方がいい。それにラズライトとの友好も深まりましょう。姫を使わない理由がありません」

「彼女は道具じゃない」

『使う』という言葉にアレキサンドライトの声に怒りが混じる。

「王族に生まれ育ったのならそうはいきません」

村の子どもたちが駆け寄り、両手いっぱいの花束を受け取るルーべライト。

満面の笑みを浮かべ香りを楽しむと、ドレスが汚れるのも構わず屈んで子どもたちの目線に合わせて礼を言う。

彼女はこの駐屯地へ向かう途中、自分より二つ年が上だと教えてくれた。

その愛らしい姿で、言葉で、笑顔で民を癒せるルーべライトの姿は、見た人の気持ちをさぞ和ませることだろう。

自分ができない事を、彼女はできるのだ。

「使えるものは使わねば戦は勝てません。姫の力で兵士の士気が、民の理解が深まるのなら尚更です」

セラフィナイトの言葉に、アレキサンドライトはそれ以上何も言えなかった。

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