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綺石のクラウン  作者: もももか
第十三章 『アメジスト』
134/145

VI

同じ頃。

寝ている事を知らず、クオンタムが来城したと伝えにきた使者の声で目が覚めた。

体調が優れないのなら追い返しますと言ってくれたが、それでは折角来てくれた彼に申し訳ないと思い、ルーベライトはゆっくりと体を起こした。

身支度をして何時も絵を描く際に使用している部屋に行けば、彼は驚いて声を上げた。

「ルーベさん、大丈夫?調子悪いって聞いたから帰ろうと思ってたんだけど」

「いいえ。寝坊してしまっただけです。続きを描いてくださるのでしょう?お手伝いします」

ルーベライトは何時もと同じ位置に立ち、指定のポーズを取る。

「本当にいいの?」

「えぇ。締め切りが近いのでしょう?私も早く完成が見たいので」

またこうして彼と話せる事に、ルーベライトは感謝していた。

もしあの時、アレキサンドライトやアメジストが止めてくれなければ、自分は今頃、こうして彼のモデルを出来なかったのだから。

クオンタムは礼を言いながら、持って来ていた道具箱から筆とパレットを取り出し広げていく。

「ルーベさんがラズライトに帰っちゃったから、この絵を仕上げる事、諦めてたんだ。でもまたこうやって描く事ができて嬉しいよ」

「そう言っていただけると嬉しいですわ。せっかく時間をかけて描いてくださったんですもの、最後までお付き合いさせてくださいな」

「でも意外だね。ルーベさんも寝坊するんだ」

「お布団がとっても気持ちよかったので」

そう笑い合うと、クオンタムは椅子に座り、キャンバスに向かう。

何時も製作中は集中し、口を開かないのを知っていたので静かにしていたが、今日は違っていた。

「ルーベさん、聞いていい?怖くないの?」

「何がですか?」

「ロイヤルゲーム」

驚いて視線を向けた。

「アレクから全部聞いた。ごめんね」

申し訳なさそうに彼が言うものだから、ルーベライトは首を振って答える。

「こちらこそ、黙っていて申し訳ありません。騙していた訳ではないのですが」

「ルーベさんが謝る事ないよ。僕に心配かけないようにしてくれたんでしょ?今まで知らなくて、無神経な事、沢山言っちゃったね」

「いいえ。緊張の日々の中、クオンタム様と楽しくお話させていただいた事、私もアレクも助けられていました」

「……それとさ。言いにくいんだけど、アレクに言っちゃった」

「何をですか?」

「何時もここで話してた事」

言われた意味が分からず、少しの間、考えを巡らす。

何時もここでアレキサンドライトについて話してたいた。

誰にも、彼にも話さないでくださいねとの約束で相談していた事。

思い出して顔を赤くして驚く。

「ほんっとにごめん!!言うつもりなかったんだよ!?本当だよ!?」

土下座しながら手を合わし、クオンタムは必死に謝った。

「だってアレクがいつまでもウジウジしてるから!あ、人のせいにするつもりはないよ!?でもあれはアレクにも問題があると思うんだよ!!」

必死に弁解する彼が可笑しくて、思わず笑ってしまった。

「怒っていませんよ。ありがとうございます」

いつもこの部屋で製作中、休憩する際に聞いていた話。

知り合って間もない頃は、自意識過剰な方なんですねと話せば、笑いながら『プライド高い所はアレクの良い所でも悪い所でもあるね』と話してくれた。

しかし、心から平和を望んでいる所、民を思う優しさ、王としての気高さ、どんな境遇でも全力を尽くそうとする彼の姿勢を見て、次第に考えが変わっていった。

『ルーベさん、アレクの事好きでしょ?』

そう言われるまで、自分の気持ちに気付かなかった。

自分よりアレキサンドライトとの付き合いが長いクオンタムから、色んな話を聞いた。

子どもの頃から猫が大の苦手な事。

母思いだったのに、幼い頃にその存在を亡くした事。

厳格だった父に怯え、その存在を追い越せない事に悩んでいる事。

戦の度に傷付き亡くなった兵を見て涙を流していた事。

犠牲になった人の事を忘れないよう、時間を見つけては慰霊碑の前で平和への誓いを立てている事。

剣の稽古より、読書や乗馬の方が好きな事。

整理整頓が苦手で、いつもセラフィナイトに怒られている事。

政治や帝王学の勉強より外で遊び回る方が好きな事。

自分の知らない一面を聞かされる度、本当にそうなのかと少し疑っていた。

しかし、実際に彼と話し、接していく内、それが間違いではない事を知った。

誰よりも優しくて平和を望んでいる彼を、好きになった。

昨夜のアレキサンドライトとのやり取りを思い出した。

『私を想ってくれていたのに』

あの時は何も思わなかったが、そういう背景があったのかとルーベライトは納得した。

「でもさー。僕としてはどっちの話も聞いてる訳でさ、そういう流れの中だと、ついつい口出ししちゃったりくっつけてあげようってお節介焼いちゃうわけよ」

「クオンタム様はキューピッドですね」

「『絵も描ける仲介人』って売り出したら今以上に仕事くるかもね」

笑い合い、一息付くと、ルーベライトはゆっくりと話始めた。

「指輪をくれた日、アレクに告白されました」

「うん、聞いたよ。でも何で返事しなかったの?」

せっかく両想いだったのにとクオンタムは疑問に思っていた。

「……怖かったんです」

「なんで?」

「思いが通じ合ったとしても、ロイヤルゲームで死別したり、離れ離れになるかもしれないと。私が以前、恋人を失った時のように、また自分も、アレクにもそんな思いをさせてしまうかもしれないと。それが怖くて、返事を返すのを躊躇っていました。彼から逃げていたのかもしれません」

自分たちは切れそうな綱の上にいるような存在なのだとルーベライトは言った。

「ゲームの参戦者は明日の命の保証もありません。負ければ死か別れしかありません。そんな中で想いを紡いでいけるのか、その時の私には自信がありませんでした」

「そっか。そうだよね……」

「その結果、アレクに酷い事を言ってしまいました。あんなに悲しそうな顔を、初めて見ました」

「アレクはもう気にしてないよ。だって、本当の事知った時、アレクどうしたと思う?雨の中、ずぶ濡れのままルーベさんの事追いかけて走って行ったんだよ?」

『自分を想ってくれる人の事、信じてあげなよ』

そうクオンタムは続けた。

その言葉に、ルーベライトはゆっくりと頷いた。

「またロイヤルゲームするの?」

「えぇ。近々、シャーマナイトの方々と」

「シャーマナイト……前にルーベさんが追っかけた人がいる国?」

アメジストの事を言っているのだろう。

思わず表情が曇る。

「アメジストだっけ?昔ルーベさんの恋人だった人でしょ?ずっと想い続けてた人と、アレクが戦うの、ルーベさんは見てられるの?」

ルーベライトは答えることが出来なかった。

「ごめん。言いたくないよね、そんな事」

「いえ。でも、戦いたくないのはアレクも、向こうも同じです。もしアレクが負ければ、サンドライトはシャーマナイトに降伏。私も死が待っています。けれど、アレクは必ず勝つと約束してくれました。私が出来るのは、彼を信じて、共に戦うことです」

「せっかく想っていた人と会えたのに、残酷だね……」

次のゲームに勝つ事ができたとしても、アメジストの命の保証はない。

胸の中の靄が晴れないのは、かつて自分を愛してくれた彼を、まだ何処かで追いかけているのかもしれない。

彼が生きていると分かった今、アレキサンドライトと戦う現実を前に、自分はどうしたらいいのか、ルーベライトは一人打ち明けれないでいた。

「ねぇ、もしアメジストと話せる機会があれば、何話したい?」

「話す?」

「ルーベさん、ずっと彼の帰り待ってたんでしょ?言いたい事、聞きたい事、沢山あるんじゃないの?」

ルーベライトは考えた。

だが、長い月日を埋めれるような内容を、何を話して良いか答えは見つからなかった。

「そんな事よりクオンタム様、今日はおしゃべりですね。もうすぐ締切なのに、ちゃんと進んでいるんですか?」

先程から筆の音が聞こえてこない事に、クオンタムの手元を覗き込む。

キャンバスで死角になっていたせいで今まで気付かなかったが、彼は筆を持っていなかった。

それどころか、筆にもパレットにも絵の具が付いていなかった。

「ごめん、ついでにもう一つ。実はもう完成してるんだ」

ルーベライトは驚いた。

「ルーベさんがいない間に仕上げちゃってたんだ。今日はルーベさんと話したくて来たんだ。こうやって視線を合わせない方が、ルーベさんも話しやすいかと思って。どう?少しは落ち着いた?」

いつもこうしてキャンバスを挟み、話していたのを思い出した。

顔を付き合わせないから話せた事もあった。

それを知ってクオンタムは来てくれたのだ。

少し間を空け、ルーベライトは目を輝かせてキャンバスの方に歩み寄る。

「見せてください!」

だが、寸前で布を被された。

「だーめ。見せてあーげない」

「どうしてですか?気になります」

「見たかったらアレクに言って。絶対負けないで帰ってこいって」

今日の夕方、この絵をサロンに提出する。

審査結果が出るまで作品は公表されない。

入選した作品だけがサンドリアの国立美術館に寄贈され、作品展示を許されるとクオンタムは話してくれた。

「僕が描いた渾身の一作、絶対入選してみせる。だから、二人も無事に帰って来て。二人に一番最初に見てもらいたいからさ」

その言葉に笑顔で頷いた。

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