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綺石のクラウン  作者: もももか
第十三章 『アメジスト』
133/145

V

「許されたい……か」

ふとアレキサンドライトが呟いた。

城の中庭を、清々しい風が吹き抜けて行く。

歩いている途中、ふいに聞こえたそれにアイオライトは振り返る。

「なんだ、貴様も懺悔ざんげがしたいのか?」

珍しく茶化しながら言う彼に釣られ、思わず笑ってしまう。

「いや、そうじゃないんだが……アメジストに言われた言葉が、頭から離れなくて」

『……お前は幸せを願っているんじゃない。許しを乞うてるだけだ』

ロイヤルゲームで対峙した際、彼にそう言われた。

「私はずっと、皆が幸せに、笑える世界を望んで戦ってきた。それが王である自分の使命だと思っていたから……けれど、それは誰かに許されたいから、自分に言い聞かせてきただけなのかもしれない」

アイオライトは何も言わず、黙って耳を傾けてくれた。

「今まで多くの犠牲を生んできた。他国の民も、サンドライトの民も。皆が傷付き、いなくなっていく事、『死』が怖いんだと思う」

『……『死』に、怯えているのだろう?』

彼が言った通りなのかもしれない。

「猫以外にも怖いものがあったんだな」

そう厭らしく笑うアイオライトにクスリと笑う。

空を見上げると、雲一つない快晴だった。

雨季の中で見れた、晴れ渡る青空を目に焼き付ける。

「民が犠牲になっていく事も、母上の死も、自分がそうなるかもしれない現実も……きっと全てに怯えている。だから、誰かの幸せを願う事で、許されたかったのかもしれない。私の願いは、そんな自己満足だったのかもしれない」

「確かにそうかもな。人の願いや夢なんて、所詮そんなものだ」

「手厳しいな」

別に気休めの言葉を望んでいたわけじゃなかった。

それでもすっぱりとそう言い切るアイオライトに、アレキサンドライトはふっと笑う。

「だが、その自己満足を信じて共に戦い、支えてくれていた者がいたのも事実だ」

思わず目を見開いた。

「少なくとも私は、貴様の自己満足とやら、嫌いではない」

願った所で、死んでしまった者が帰ってくるわけではない。

母の死を経験した時に、それは痛い程身を持ってわかった。

それでも、願わずにはいられなかった。

今まで自分の進んできた道が間違いじゃなかった事に、アレキサンドライトは胸に『何か』が込み上げてくるのがわかった。

「『皆が笑える世界』……簡単そうな願い程、叶えるのが難しいものだな」

「そうだな。だから、人は願わずにはいられないんだ」

そう呟くアレキサンドライトに、アイオライトは向き直る。

「貴様に渡したいものがある」

そう言い、腰に差していた剣を差し出した。

それはいつも彼が普段愛用しているエストックではなかった。

昨夜、ルーベライトがロイヤルゲームで使用していたものだった。

「ラズライト王家に代々伝わる剣、父のクレイモアだ。父もあの体でもう剣は振れない。私が使用するには形状が違いすぎる。了承は得ている。貴様が使え」

「駄目だ。そんな大事な物、受け取れない」

「丸腰でアメジストに挑むつもりか?私が墓場まで持って行こうとした話も聞いておいて。それで負ければ、私は貴様を一生許さんぞ」

折れてしまった自分の剣。

それを知って、彼は自分に託した。

国色である青色の柄と、ラズライト式の装飾、アイオライトのいつも以上に真剣な瞳を見て、アレキサンドライトはゆっくりとそれを受け取った。

「悔しいが、妹の命がかかっているのに、私は何も出来ない。せめてこれくらいしても罰は当たらんだろう」

「ありがとう」

「礼ならゲームに勝ってから言え。言い訳や弁解は一切聞かないからな」

先程いたいばらの塔を見上げる。

青空を割るように、高くそびえ立つそれ。

この塔はもうじき取り壊すと教えてくれた。

「ゲームの勝敗がどうであれ、ルーベが帰る場所はここではない。もう必要のない場所だ。最後に貴様に見せる事ができて良かった」

何時もはきつく寄せられていた眉間。

今はそれが緩み、穏やかな顔をしていた。

アイオライトが自分に初めて見せた表情だった。

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