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綺石のクラウン  作者: もももか
第十三章 『アメジスト』
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IV

連れて来られたのはいばらの塔。

ルーベライトの居住していた塔だった。

懐から一つの鍵を取り出し、扉の鍵を開ける。

「入れ」

言われるがままに、アレキサンドライトは中に足を踏み入れた。

この塔の内部に入るのは初めてだった。

中は狭く、窓から差し込む光だけ。

アイオライトの後に続き、階段を一つ、また一つと登る。

辿り着いた扉を開く。

ふわりと、薔薇の香りがした気がした。

「ここはルーベが住んでいた部屋だ。赤子の時からネフライトの物になるまで、ずっと一人で暮らしてきた」

ベッドとドレッサー、テーブルしかない簡素な部屋だった。

それでも、淡いピンクのレースや、リボンなど、小物の一つ一つが彼女が好んで使用していたのが伝わってくる。

「ルーベが城に来た日を、朧げだが覚えている。城門で布にくるまれて捨て置かれていた所を父が拾った。何処の誰の子かわからないのに、不思議と嫌悪を感じなかった。私の母は私を産んですぐに亡くなった。母の生まれ変わりだと父が嬉しそうに抱き上げた時、泣き続けていたルーベがやっと笑ったと聞いた」

アイオライトは思い出すように傍にあったベッドに腰掛け、静かに話し始めた。

「ルーベの存在を知っているのは私と父、一部の人間だけだ。そして、この塔に出入り出来るのも私と父だけだった。私は時間の許す限り塔に足を運んだ。一人この塔でいるルーベに、寂しい思いをして欲しくなかったから……」

部屋を見渡す。

テーブルの上に薔薇の模様が書かれた茶器が置いてあった。

「それは私がルーベの誕生日にやったものだ。誕生日と言っても、家族になった日になるが……上手い茶を私に淹れるのだと言ってくれた時、嬉しかった反面、どうにかしてこの塔から出してやれないかと思った。何度も父に頼んだ。自分なりに動いてもみた。それでも現実は変えられなかった。いつかは自分が出してやるのだと思っていたのに、大人になるにつれ、私にもそれが出来ない現実を思い知らされた。自分に力がないとわかった時、悔しくて一人部屋で泣いたのを覚えている」

部屋に一つだけある窓に近付く。

この閉鎖された部屋から、唯一外の世界を見れる窓。

それが、この小さな窓だ。

きっと彼女は、いつもここから限られた世界を見ては想いを馳せていたのだろう。

「年頃になり、私も戦に出るようになった。遠征続きで私も父もルーベに会えない日が続いた。ルーベは何も言わず、心配させまいと気丈に振舞っていたが、夜な夜な一人で泣いていたのを近衛兵から聞いた時、胸が締め付けられた。寂しい思いをさせていた時、奴が現れた」

「……アメジストか?」

アイオライトは頷いた。

「混血の奴はラズライト軍の中では後ろ指を指される存在だった。存在が許されない者同士が惹かれあったのは、偶然じゃなかったのかもしれない。塔の立ち入りを許されていなかったアメジストは、毎日手紙をルーベに書いていた。字を書くことも出来なかったルーベが文字を書けるようになったのは、彼奴に返事を書くためだ」

使い込まれたペンが置いてあった。

この部屋で、一人きりで、彼を想って、苦手な文字も練習して言葉を綴っていたんだろう。

「私はルーベに嘘をついた。アメジストは戦で死んだと言った。本当は、自分のエゴでロイヤルゲームの駒にしてしまったのに。いつもは私の言うことを聞いていたルーベが、その時だけ私を信じなかった。今思えば、見抜かれていたのかもな。この塔以外に踏み入れてもいいと許可が出ていた中庭で、ずっと奴の帰りを待っていた。くる日もくる日も、私の言葉に耳を貸さず、ずっと一人で待っていた。待つ理由を聞けば、『春薔薇が枯れるまでに必ず戻る』と約束したからと。だが奴は春薔薇が枯れても帰ってこなかった。最後の一輪になった白薔薇が散った時、ルーベは声を上げて泣いていた。それからは、ずっと心を閉ざしていた。感心があった外の世界の事も聞かなくなった。そうなる事をわかって望んでいたのに……今でも、その判断が正しかったのか、私にはわからない」

アレキサンドライトは振り返り、アイオライトに問うた。

「どうしてそんな話を?」

自分の弱さを決して見せないアイオライトが、初めて語ってくれた胸の内。

見せたいと言って連れて来てくれたこの場所で語った理由を知りたかった。

「……どうしてだろう。もしかしたら、私はルーベに許されたいのかもしれない。この狭い世界に閉じ込めていた事、恋人を奪った事、そして、未来も奪うかもしれない現実に……何も出来きず、偉そうに兄だと振舞う私を、ルーベは心の何処かで恨んでいるのかもしれない」

「ルーベはそんな子じゃない。お前の事も、自慢の兄だと嬉しそうに話してくれた」

アレキサンドライトの言葉に顔を上げた。

「血の繋がりなんて関係ない。本当の兄妹以上に強い絆があるお前が、羨ましいよ」

そう言ってくれた事に、救われた気がした。

「……ありがとう」

彼の口から感謝の言葉を聞けたのは、初めてだった。

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