III
昼過ぎの柔らかな光が執務室を明るく照らす。
書類と睨み合いをしていたアイオライトは、不意に聞こえたノックの音で顔を上げた。
コン、コン、コン、コン。
約束した四回。
誰が来たのかがわかって、ノックされた扉を開く。
「早いのだよ。王たる者、相手の都合も考えて七分前行動が当たり前だろう?」
約束していた時刻より十分も前に扉を鳴らしてしまい、アレキサンドライトは笑いながら謝った。
以前にも死神の鍵を使って彼に怒られた事を思い出した。
もっとも、彼との約束で怒られずに済んだ事など一度も無かったが。
「なんだか、じっとしていられなくて……」
「貴様のそういう子どもじみた所が気に入らないのだよ」
溜息を吐きながら言い、入れと招き入れた。
ラズライト城のアイオライトの執務室。
山のように積まれている書類でも、乱れず整理整頓できている執務机が彼の性格を表していた。
「ルーベの様子はどうだ?」
「私と違って落ち着いてはいたが……中々寝付けなかったのか、まだ眠っているみたいだ」
「そうか……」
「あんな事があっての今日だ。きっと心配させまいと振舞っていたんだろう」
ソファに腰掛け、様子を聞いたアイオライト。
少し安堵したのか、こわばっていた肩が下がった気がした。
「ありがとう」
ふとアレキサンドライトが言った。
「何がだ?」
「あの時、お前が言ってくれなかったら、私は今頃こうしてお前と話せなかった」
プラチナとのロイヤルゲーム。
ルーベライトの参戦で、予想外の引分になったが、怒りの収まらない彼女を鎮めるため、自分は再ゲームを申し込んだ。
その時、彼は自分の駒もかけてもいいと言ってくれた。
「礼なら一度聞けば十分だ」
「ルーベを助けるためとは言え、私に命を預けようとしてくれた事が嬉しかった。お前が、私を認めてくれたみたいで……どうしても、直接それが言いたかった」
あんなに自分を毛嫌いしていたアイオライトが、自分を信じて駒を預けてくれた。
それがアレキサンドライトにとって、変え難い嬉しい事だった。
「だがその結果、ルーベが私の変わりになってしまった。ゲームに負けてしまえば、ルーベは死ぬ」
ずっとその事を気にしていたのか、アイオライトの目元には眠れず出来た隈がうっすらと浮いていた。
「可笑しな話だな。自分の身も、国もかけることが出来たのに。ルーベを失う事を考えると、怖くて震えが止まらなくなる」
「ラピスラズリ陛下には?」
「父にも、セレスにも話していない。真実を話せる勇気を、私は持ち合わせていない……」
正直、アレキサンドライトも同じ気持ちだった。
自分が負ければ、ルーベライトは死ぬ。
そんな状況下で、彼の父にも、セレスタイトにも事実を打ち明けれる強さは持ち合わせていなかった。
だが、ルーベライトは自分を信じてくれた。
死と隣り合わせにもかかわらず、自分に命を預けてくれた。
『私も一緒に戦います』
そう決意した彼女の瞳の強さを、信じるしかなかった。
ふと立ち上がり、アイオライトは向かいのアレキサンドライトに言う。
「見せたい物がある」




