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綺石のクラウン  作者: もももか
第十二章 『オニキス』
123/145

XIV

昔の記憶が夢となって現れる。

これは、何時の記憶だろう。

見慣れたサンドライトの城。

視点が低く世界が大きく見える。

短い手足。

子どもの頃の記憶だろうか。

何をしていた時だろう。

誰を待っているんだろう。

どうして一人なんだろう。

辺りを見渡すと、茂みから何かが見えた。

ツンと立った小さな耳。暗闇でもギラリと光る縦長の目。虫や鼠をいたぶる鋭い爪。くねくねと柔らかくしなやかな体。こちらを伺うように動く長い尻尾……

猫だ。

走って逃げるが、小さな足では思うように動けず、転んでしまう。

それでも興味本位で追いかけてきた猫が怖くて、近くにあった木によじ登る。

猫はよじ登った自分をじっと見つめてくる。

その目が怖くて助けを呼ぶが、近くに誰もいないのか返事が返ってこない。

猫が木の幹で爪研ぎを始めた。

ますます降りれなくなって泣きながら助けを求めていると、誰かが近寄ってきた。

女の子だった。

自分より背が高く、年上に見えた。

大きな襟のある白いドレス、見慣れない黒い髪と黒い瞳、白百合の形をした髪飾り、雪のように白い肌が印象的だった。

助けてと声をかければ、少女は幹で爪を研ぐ猫に近付く。

近くに生えていた草を千切り、猫の前でふよふよと動かすと、猫の興味がその草にいく。

小さな手でそれを遠くに放ると、猫はそれを咥え、ととっと軽快に走っていった。

泣きながら怯える自分に、もう大丈夫と手を差し伸べてくれた。

その手を取って地に下りる。

礼を言うと、男の子なのに弱いのねとからかわれた。

次の日も庭で遊んでいると、その少女がいた。

黒い瞳がこちらを向く。

君はどこから来たの?そう訪ねたが教えてくれなかった。

反対にここで何をしているのか訪ねられた。

待っているんだと答えた。

誰を待っているんだろう。

思い出せない。

少女はずっとある部屋を見上げていた。

城の一室。

何があるのと聞けば、そこに自分の父がいると教えてくれた。

自分の父もそこで誰かと話し合いをしてるんだと答えると、少女は驚いていた。

待っているなら一緒に遊ぼう。そう誘えば少女は頷いて自分の後について来てくれた。

次の日も、その次の日も少女は庭で待っていて、姿を見かける度一緒に遊ぼうと誘った。

城の関係者じゃない人で、初めてできた友達だったかもしれない。

ある日、また少女を見かけた。

何時ものように遊ぼうと誘うが、首を振られた。

どうしてと聞くと、いきなり泣き出してしまった。

隣に座って話を聞いてみた。

自分の兄が戦に出る事になったと話してくれた。

戦に出たらもう会えないかもしれない。大好きな兄に会えなくなるのが嫌だと泣いていた。

自分も男の子だから、大人になったら戦に出る事を話した。

怖くないの?尋ねられて頷いた。

本当は怖い。

人を殺し合いする場所になんか行きたくなかった。

でもそれが自分の役割だと言われていたから。

国や皆を守るのが自分の役目なのだと話せば、猫に怖がっていたのに?とからかわれた。

「大丈夫。僕が君のお兄さんも、君も守るよ」

「……本当?」

「あの時助けてくれたお礼だよ。何があっても君を助けてあげる!困った事があったら駆け付ける!だからその時は僕を呼んで?」

傍に咲いていた白百合が目に入った。

それを千切って渡してやる。

「約束するよ」

言えば、泣いていた少女はやっと笑ってくれた。

自分を呼ぶ声がする。

懐かしい声に振り向くと、ずっと待っていた人がいた。

母だった。

思わず駆け寄って飛び込んだ。

暖かい手が優しく包んでくれた。

ここで何をしていたのと聞かれ、自分に初めて友達ができたと話す。

母は嬉しそうに笑ってくれた。

紹介しようと母の手を取って元いた場所に戻る。

そこにいるはずの少女の姿がなかった。

辺りを探しても、姿が見えない。

名を呼ぼうとしたが、思い出せない。

せっかく仲良くなれたのに。

寂しくて涙を流すと、何時かまた会えますよと母が優しく頭を撫でてくれた。

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