XIV
昔の記憶が夢となって現れる。
これは、何時の記憶だろう。
見慣れたサンドライトの城。
視点が低く世界が大きく見える。
短い手足。
子どもの頃の記憶だろうか。
何をしていた時だろう。
誰を待っているんだろう。
どうして一人なんだろう。
辺りを見渡すと、茂みから何かが見えた。
ツンと立った小さな耳。暗闇でもギラリと光る縦長の目。虫や鼠をいたぶる鋭い爪。くねくねと柔らかくしなやかな体。こちらを伺うように動く長い尻尾……
猫だ。
走って逃げるが、小さな足では思うように動けず、転んでしまう。
それでも興味本位で追いかけてきた猫が怖くて、近くにあった木によじ登る。
猫はよじ登った自分をじっと見つめてくる。
その目が怖くて助けを呼ぶが、近くに誰もいないのか返事が返ってこない。
猫が木の幹で爪研ぎを始めた。
ますます降りれなくなって泣きながら助けを求めていると、誰かが近寄ってきた。
女の子だった。
自分より背が高く、年上に見えた。
大きな襟のある白いドレス、見慣れない黒い髪と黒い瞳、白百合の形をした髪飾り、雪のように白い肌が印象的だった。
助けてと声をかければ、少女は幹で爪を研ぐ猫に近付く。
近くに生えていた草を千切り、猫の前でふよふよと動かすと、猫の興味がその草にいく。
小さな手でそれを遠くに放ると、猫はそれを咥え、ととっと軽快に走っていった。
泣きながら怯える自分に、もう大丈夫と手を差し伸べてくれた。
その手を取って地に下りる。
礼を言うと、男の子なのに弱いのねとからかわれた。
次の日も庭で遊んでいると、その少女がいた。
黒い瞳がこちらを向く。
君はどこから来たの?そう訪ねたが教えてくれなかった。
反対にここで何をしているのか訪ねられた。
待っているんだと答えた。
誰を待っているんだろう。
思い出せない。
少女はずっとある部屋を見上げていた。
城の一室。
何があるのと聞けば、そこに自分の父がいると教えてくれた。
自分の父もそこで誰かと話し合いをしてるんだと答えると、少女は驚いていた。
待っているなら一緒に遊ぼう。そう誘えば少女は頷いて自分の後について来てくれた。
次の日も、その次の日も少女は庭で待っていて、姿を見かける度一緒に遊ぼうと誘った。
城の関係者じゃない人で、初めてできた友達だったかもしれない。
ある日、また少女を見かけた。
何時ものように遊ぼうと誘うが、首を振られた。
どうしてと聞くと、いきなり泣き出してしまった。
隣に座って話を聞いてみた。
自分の兄が戦に出る事になったと話してくれた。
戦に出たらもう会えないかもしれない。大好きな兄に会えなくなるのが嫌だと泣いていた。
自分も男の子だから、大人になったら戦に出る事を話した。
怖くないの?尋ねられて頷いた。
本当は怖い。
人を殺し合いする場所になんか行きたくなかった。
でもそれが自分の役割だと言われていたから。
国や皆を守るのが自分の役目なのだと話せば、猫に怖がっていたのに?とからかわれた。
「大丈夫。僕が君のお兄さんも、君も守るよ」
「……本当?」
「あの時助けてくれたお礼だよ。何があっても君を助けてあげる!困った事があったら駆け付ける!だからその時は僕を呼んで?」
傍に咲いていた白百合が目に入った。
それを千切って渡してやる。
「約束するよ」
言えば、泣いていた少女はやっと笑ってくれた。
自分を呼ぶ声がする。
懐かしい声に振り向くと、ずっと待っていた人がいた。
母だった。
思わず駆け寄って飛び込んだ。
暖かい手が優しく包んでくれた。
ここで何をしていたのと聞かれ、自分に初めて友達ができたと話す。
母は嬉しそうに笑ってくれた。
紹介しようと母の手を取って元いた場所に戻る。
そこにいるはずの少女の姿がなかった。
辺りを探しても、姿が見えない。
名を呼ぼうとしたが、思い出せない。
せっかく仲良くなれたのに。
寂しくて涙を流すと、何時かまた会えますよと母が優しく頭を撫でてくれた。




