XI
城を抜けた分の仕事を徹夜で片付け、明け方やっと眠りに着けたアイオライトの睡眠を妨げたのは、意外な人物が来城したからだった。
「こんな朝早くに何処のどいつだ?」
寝不足の中での寝起き、いつも以上に眉間を寄せるアイオライトを見て、呼び出した兵士は恐怖で凍り付いた。
不機嫌な中身支度をし、来客室に足を踏み入れる。
待っていた人物を見てさらに眉間の皺を寄せた。
「おはようございます。本日も爽やかな朝でございますね」
西国同盟チャロアイト国王・スギライトだった。
「何の用だ?」
不機嫌のあまり部屋の扉を音を立てて閉めた。
「おや?こんな良い朝なのにご機嫌がよろしくないようで?」
「何処ぞの非常識な輩が朝早くに来たからな」
「ほぅ。そんな非常識な方とは何処の何方です?」
「今私の目の前にいる」
「アイオライト様はご冗談がお上手ですね。ブラボー!そしてエクセレント!!」
それ以上言わず部屋から出て行こうとしたら引き止められた。
頭を抱えつつ、彼の向かいの椅子に座る。
「アイオライト様、随分ワタクシに冷たいのですね」
「当たり前だ。貴様の本性、知らぬとでも思っているのか」
七国王のスギライト。
アレキサンドライトがロイヤルゲームをした際に、彼の言動、行動は聞いていた。
聞かずとも大方わかっていた事だったが、事実を知ったからにはこちらもそれなりの対応というものがある。
「私が七国王という事も知っているのだろう。小細工はなしだ。要件を言え」
「随分せっかちなのですね。紳士たる者、少しのゆとりと世間話も必要でございまし」
「貴様と違って私は忙しい」
「そんな事仰らずに。せっかくの朗報をお持ちしたのですから」
今一信用に欠ける言葉にアイオライトは眉を釣り上げる。
「ご存知ですか?ロイヤルゲームの『裏ルール』を」
「……裏ルール?」
「その反応、やはりご存知ないのですね」
出されていたティーカップに砂糖を加え、くるくるとスプーンでかき混ぜる。
「どういう事だ?」
「アレキサンドライト様の件、お聞きしました。偶然でもワタクシを破ったお方が東国連合の七国王に負けてしまったのですから驚きました。私情をなしにしても西国同盟として、これは由々しき事態です」
一口茶を飲み、間を空け、スギライトは言う。
「我らの手でアレキサンドライト様をお救いしませんか?」
アイオライトは眉間の皺を寄せたまま尋ねる。
「何を企んでいる?」
「企むなんて滅相もない!ワタクシは西国同盟の一員として、同盟国のサンドライトを想ってご提案させていただいているだけでございまし」
「そのサンドライトを手に入れようとロイヤルゲームを挑んだのは何処のどいつだ?」
「それはそれ、これはこれでございまし」
ティーカップをソーサーに戻し、スギライトは向き直る。
「ワタクシは貴方よりも多くのロイヤルゲームを経験してきました。その中で知った特別ルールです。恐らく現在ゲームに参戦している七国王ではワタクシしか知らないでしょう」
「随分胡散臭い話だな」
「教えて頂いた七国王を手に掛けてしまいましたから。今思えば生かして置いた方が良かったですね。気が利かず申し訳ありません」
「……どんなルールだ?」
アイオライトが興味を持った事に、自然と口角が上がる。
「ロイヤルゲームは七国王、もしくは生贄の一対一の決闘ゲームです。歴代の七国王の中でとある王が言いました。『自分には戦力になる駒がないから不公平だ』と。そこで死神に頼み急遽追加されたルールが『二対二』方式。他の七国王、生贄を助っ人として参戦させるルールです」
「二対二……?」
「シャーマナイトは女王もかなりの腕前とお聞きしています。彼女と生贄の黒騎士。此方はワタクシ、そして貴方……戦力で言えば五分五分と言った所でしょうか?」
「タッグゲームという事か」
「流石はアイオライト様!飲み込みが早い!ブラボー!そしてワンダフル!!」
白々しいと言わんばかりにアイオライトの眉間が寄る。
「聞くところによると、シャーマナイト側の生贄は以前アイオライト様の聖十字軍に所属していたそうで。彼の母方がチャロアイト出身ということで評判はワタクシも耳にした事があります。そんな彼と互角に戦った所で勝負はわかりません。ですが、裏ルールなら話は別です」
「しかし、タッグと言ってもやる事は同じだろう。決闘ゲームでどうやって協力して戦うんだ?」
「さぁ?」
「……知らないのか?」
「ワタクシが聞いたのはそこまででしたから。詳しく聞きませんでしたし実戦した事もございません。ぶっつけ本番ですね」
「よくそれで朗報だと朝早くにやって来たな」
「冗談は抜きにして、これは我々西国同盟にとって大きな問題です。表向きは和平協定でも、実質サンドライトはシャーマナイトに降伏したも同然。サンドライトの抜けた穴は我々でも埋めきれません。サンドライトが抜けた今、次に狙われるのは後ろ盾を失ったラズライトでしょう」
アイオライトも同じ事を考えていたのか、手を組んで思案する。
「……確かに。お前の言う事が本当にできるのなら、それに賭けるしかない」
「ワタクシとて自分の身、何より国は大事です。ですが今はそんな事を言っていられません。ここは一つ手を取り合い、体制を立て直す事に協力しませんか?」
「……腕の調子はどうなんだ?」
アレキサンドライトと戦った際に負傷した腕。
その腕を軽々と上げ、手を自由に動かして見せる。
「お陰様で。随分良くなりました」
「……貴様の話に偽りはないな?」
「ワタクシの剣術の腕前はアイオライト様もご存知でしょう?西国同盟の未来の為、暫し休戦といこうではないですか」
差し出された手。
少しの間を空け、アイオライトはその手を取った。




